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しおりを挟むエリザベートの形相に怯むのはアイーシャだけで、クォンツもその隣を歩くリドルも微笑みを浮かべながら歩く速度を緩める事無く進んで行くと、邸の玄関前に到着した。
「──ようこそおいで下さいましたわ、リドル・アーキワンデ卿、クォンツ・ユルドラーク卿。アイーシャもお帰りなさい」
「た、ただ今戻りました……お義母様……」
「突然の訪問にも関わらず、出迎えもして頂き感謝致します。ルドラン子爵夫人」
エリザベートはにっこりと微笑みを浮かべ、リドルとクォンツに挨拶を行うと、アイーシャに引き攣った笑みを向けて優しい声音でそう告げる。
「お帰り」などと声を掛けて貰ったのは何年振りだろうか、とアイーシャが考えつつぎこちなく言葉を返すと、リドルが胸に手を当ててぺこり、と頭を下げる。
クォンツも普段の何処か人を揶揄うような態度はなりを潜め、にこやかな表情を貼り付けてエリザベートに軽く頭を下げた。
「──えっと……、? 三人と、エリシャは一緒では……ございませんのね……アイーシャ? 貴方怪我をしているのね、だ、大丈夫……?」
朝、足を引き摺り怪我を負っている所をしっかりと見ている筈のエリザベートはまぁ、と態とらしく口元に手を当てて驚いたような仕草をするが、アイーシャはそっと視線を外し「大丈夫です」と言葉を返した。
「ああ、アイーシャ嬢の妹君でしたら後の馬車で直ぐ戻られますよ。……それで、夫人……我々はお邪魔させて頂いてもよろしいか?」
「──えっ、えぇ……! ご案内が遅れてしまい申し訳ございません、こちらですわ!」
エリザベートははっと失態に気付き焦ったような表情になると急いで玄関を開けさせ、リドルとアイーシャを抱えたクォンツを中へと招く。
ちらちら、と後方を気にする様子のエリザベートは、自分の娘であるエリシャがまだ戻って来ない事に不安そうな表情を浮かべた後、リドルとクォンツを応接室へと案内した。
リドルとクォンツ、アイーシャが応接室に案内された同時刻。やっとエリシャが乗っている馬車がルドラン子爵邸に戻って来たようで、エリザベートは「少し失礼致します」と頭を下げるといそいそと応接室を退出した。
エリザベートが出て行った扉にちらり、と視線を向けたクォンツは使用人に用意された紅茶のカップを口元に運ぶと中身を一口含む。
「──妹にでも状況を確認しに行ったな?」
「そのようだね」
クォンツとリドルは優雅にカップを口に運びながら会話をすると、ふん、と鼻で笑う声が聞こえてアイーシャはクォンツへと視線を向ける。
「だが、あの妹じゃあ状況の説明など出来やしねえだろうよ。……まさかアイーシャ嬢の婚約者はのこのこと妹の馬車で一緒に着いて来ちゃいねえよな……?」
「──ベルトルト様も恐らくご一緒かと思います。エリシャとベルトルト様は常に行動を一緒にしておりますから」
クォンツの隣に座ったアイーシャも、カップに手を伸ばすと紅茶を一口飲み込む。
紅茶を入れてくれたのはアイーシャに幼い頃から仕えてくれているルミアだった為、アイーシャの好みに完璧に合わせて紅茶を入れてくれている。
アイーシャがルミアの気遣いにふんわり、と口元を緩めていると三人が通されている応接室にパタパタと走り寄る足音が聞こえて、アイーシャとクォンツ、リドルは同時にカップをテーブルに戻した。
「お待たせしてしまい、申し訳ございませんわ!」
「ちょ、ちょっとエリシャ……!」
ノックもせずに扉をばたん! と大きく開けて室内に入室して来たエリシャを、流石にすぐ後ろにいたエリザベートが顔を真っ青にして注意しているが、エリシャは母親の言葉など気にする事無く、ベルトルトを伴い室内を進むと、ソファに腰を下ろした。
「──あっ、騒がしくしてしまい申し訳ございません。お二人が子爵家に来て下さると言う事を聞いてからわくわくしてしまいました」
「……わくわく……? わくわくするような事柄かな、これは?」
心底疲れた、と言うような表情を浮かべてリドルがぽつりと呟くとエリシャから視線を外す。
そうして、扉の側にいたエリザベートにちらりと視線を向けると、リドルはエリザベートに向かって唇を開いた。
「子爵夫人。先触れでは詳しく記載していなかったが……、私とクォンツは子爵家で発生した事柄の確認の為にこちらに赴きました。ルドラン子爵を呼んで来てもらえますか?」
「──はっ、はい! 今すぐに」
エリザベートが返事をして、慌てて再び扉を開けて外へと出ていく。
その姿を呆れたように見やり、クォンツは「言われる前に早く連れて来いよ」と呟いた。
アイーシャの義父であるルドラン子爵、ケネブを待つ間、頻りにクォンツやリドルに話し掛けるが、素っ気なくあしらわれ、面白く無さそうな表情を浮かべると、今度はアイーシャに標的を決めたようでベルトルトに甘え出す。
「エ、エリシャ嬢……っ、」
「何でベルトルト様嫌がるんですか? いつもはくっつかせてくださるのに……お姉様よりも愛らしい、っていつも褒めて下さるじゃないですか!」
「そっ、それはそうだが……っ、時と場合、場所を選んでだな……」
「──ふっ、」
エリシャとベルトルトの会話に耐え切れなくなったのだろうか。クォンクは鼻を鳴らすと、にこやかに二人に話し掛けた。
「本当に二人は婚約者同士のように仲睦まじいんだな?」
クォンツの言葉に、エリシャは嬉しそうに笑うとベルトルトの腕に抱き着き「そうなんです」と勝ち誇ったように笑う。
「ベルトルト様ってば、いつもお姉様よりも私を優先して下さって、最近では私とお会いして下さった後、お姉様にお会いせずに帰ってしまう程なんですよ」
「エ、エリシャ嬢……! それは言ってはいけない、と……!」
「へぇ? アイーシャ嬢は知っていたか?」
「──いえ。……ベルトルト様がそんなにも我が家に足を運んで下さっていた事は初耳です」
「そうか。……妹君とケティング卿が何故婚約を結ばなかったのか、不思議な程だな?」
「ええ、クォンツ様の仰る通りです」
にこやかにクォンツと会話をするアイーシャの姿を見て、ベルトルトはあからさまに顔色を悪くさせて狼狽え始めている。
何か婚約者もアイーシャではならない理由があるのだな、とクォンツとリドルが考えた所でようやっとルドラン子爵、ケネブが到着したようで。
慌てて部屋に入室すると、その場に立ち上がったクォンツとリドルにぺこぺこと頭を下げる。
「リドル・アーキワンデ卿、クォンツ・ユルドラーク卿、お待たせしてしまい申し訳無い……! 本日は、どのようなご要件で?」
ソファに座るなり、そわそわとし出すケネブに、リドルはにこやかに微笑みを浮かべたまま昨日の件について問い掛けた。
「──昨日、アイーシャ・ルドラン嬢に一体何が起きたのか、お聞かせ願いたい」
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