【完結】お前なんていらない。と言われましたので

高瀬船

文字の大きさ
62 / 169

62


◇◆◇

「──……はっ、はぁ……っ、」

 ざざざ、と森の中を駆け抜け後方をちらりと確認しながら前へ前へ、と進む。

「畜生っ、何だあの魔物は……っ、」

 ついつい口汚く罵ってしまうのも無理は無い。
 今まで自分が相手にしていた魔物などとは桁違いだ。
 いくら切り付けても、四肢を落としても驚異的な再生力で直ぐにその体は元に戻ってしまい、しまいにはよく分からない毒霧を吐き出してくる。

 視界が悪い森の中での戦闘ではこちらに分が悪い。
 もう少し開けた場所であればまだやり易いだろう、と判断して森の中を疾走しているが夜の闇に視界は悪く、木々が空を覆う為月明かりも届かず方向感覚まで麻痺してくるようだ。
 雷魔法の応用で知覚を鋭くさせてはいるが、それも微々たる物で気を抜けば魔物の鉤爪が自分の体を貫くだろう。

「──はっ、はは……っ、」

 男は夜明け色の髪の毛を汗と血で濡らしながら金色の瞳を愉悦に細めた。

「まさかっ、こんな事になるなんてなぁ……っ、これでは父もどうなっているか……」

 夜明け色の髪の毛と、金の瞳を持つ男。クォンツ・ユルドラークはぎりっと自分の奥歯を噛み締めると直ぐ背後に迫って来ていた魔物の毒の尾を横に跳んで避け、振り向き様に氷魔法を魔物に叩き込む。
 真正面からクォンツの氷魔法をまともに食らってしまった魔物は氷漬けにされるが、それも数秒間だけで。直ぐに氷魔法の硬直から解放されると魔物は少し距離が出来てしまったクォンツを再び追い始めた。



 森を疾走しつつ、クォンツは幾度となく魔物と戦闘をしながら違和感を覚えていた。
 戦う度に反応速度が早くなり、クォンツの攻撃パターンを学習しているらしく不意打ちの攻撃に対応し始めている。

「頭の悪い魔物にしては……っ、おかしいだろ……っ」

 クォンツは小さく声を上げると前方に駆けていた速度のまま飛び込み、背後から迫っていた毒の尾の攻撃を避けると素早く起き上がり自分の手に氷魔法で作り出した長剣を握る。
 腰に下げていた長剣は度重なる戦闘と、森の中を疾走しつつ攻撃を防いでいる間に魔物が吐き出した毒霧を浴びてしまい、愛用の長剣はボロボロと朽ちてしまった。
 朽ちてしまってからは、クォンツは自身が使用出来うる最大限強力な魔法でもって魔物とやり合ってはいたが、このままでは自分の魔力が枯渇してしまう。

「畜生──……っ」

 魔力が枯渇してしまえばもうどうしようも無い。
 クォンツは、自分の侯爵家に居るアイーシャを無意識の内に頭の中に思い出してしまう。
 このまま自分が帰らず、消息不明となってしまえばアイーシャは気に病んでしまうだろう。
 いつまで経っても戻って来ない自分を心配し、もしかしたら自分を見つけようと奔走してしまうかもしれない。

 まだ、ほんの少しの時間しか共には過ごしていないがアイーシャ・ルドランとはそう言う人間だ、とクォンツは認識している。
 アイーシャは、自分に対して悪感情を持たず自分の味方だと、友人だと認識した人間にはとても心を傾ける質だろう。
 それに、あの碌でもない家から救い出してくれた人だ、ととても恩を感じていると思う。
 そんな恩人、と言うような人物が行方知らずになってしまったら。

「アイーシャ嬢はまた要らぬ事を考えて自分を責める……っ」

 クォンツは、開けた場所に出て来るとくるりと体を反転して自分を追い掛けて来ていた魔物に向かって氷魔法と雷魔法を融合させた魔法を放つ。
 辺りが氷魔法でキン、と空気が凍りつき雷魔法で一瞬だけ空がパッと明るく照らされる。

 雷魔法で周囲が一瞬だけ明るく照らされた瞬間に、クォンツは周囲の様子を把握する。
 自分の近くには崖があり、その場所では少し前に誰かが争った形跡がある。

 そして、地面にこびり付いた赤黒く茶色く変色した物。

 それを認識して、クォンツは目の前の魔物に向かって放った自分の魔法が正しく魔物に叩き込まれ、魔物の動作を一瞬だけでも停止させた事を察すると崖に向かって駆け出した。

(あの魔物には……、飛行出来るような器官は無い……っ)

 一か八か。
 クォンツは魔物の追撃を逃れる為に、崖に向かって走り、魔物が再び動き出す前に眼前の崖に飛び込んだ。
感想 402

あなたにおすすめの小説

【今さら遅い】毒で声を失い公爵に捨てられた私。妹では精霊が応えず国は滅びへ。ですが隣国皇帝に溺愛される私に、今さら縋ってきても遅いです

唯崎りいち
恋愛
国一番の歌姫だった私は、妹に毒を盛られ声を失い、婚約者に捨てられた。 すべてを奪われた私を救ったのは、隣国の皇帝。 「お前の歌がなければ国は滅びる」と言われた私の歌は、精霊に届く“本物”の力を持っていて―― 一方、私を追放した国は偽物の歌では加護を失い衰退。 今さら元婚約者が縋ってきても、もう遅い。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

【完結】私を裏切った不倫夫に「どなたですか?」と微笑むまで 〜没落令嬢の復讐劇〜

恋せよ恋
恋愛
「早くあんな女と別れて、可愛い子と一緒になりたいよ」 不倫中の夫が笑う声を聞き、絶望の中で事故に遭うジェシカ。 結婚五年目に授かったお腹の子を失った彼女は、 「記憶を失ったフリ」で夫と地獄の婚家を捨てることを決意。 元男爵令嬢の薄幸ヒロインは、修道院で静かに時を過ごす。 独り身領主の三歳の男の子に懐かれ、なぜか領主まで登場! 無実の罪をなすりつけ、私を使い潰した報いを受けなさい。 記憶喪失を装った没落令嬢による、「ざまぁ」が幕を開ける! ※本作品には、馬車事故による流産の描写が含まれます。  苦手な方はご注意ください。主人公が絶対に幸せになる  物語ですので、安心してお読みいただければ幸いです。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結保証】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる── 侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。 だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。 アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。 そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。 「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」 これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。 ⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。 4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。

婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~

ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。 そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。 シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。 ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。 それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。 それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。 なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた―― ☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆ ☆全文字はだいたい14万文字になっています☆ ☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆

結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。 ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。 王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。 そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。 「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております