【完結】お前なんていらない。と言われましたので

高瀬船

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 ぶわり、と感じる浮遊感。
 クォンツは、自分の体が落下して行く不快感に耐えながら風魔法を自分の周りに展開し、手にしていた氷の長剣を崖に突き立てる。
 ぎゃりぎゃり、と不快な音が耳元で響きながらそれでもその不快感にクォンツは奥歯を噛み締める。

 ちらり、と頭上を確認すると魔物はやはり追って来る事はせずにうろうろと崖を覗き込むように何往復かした後、クォンツを諦めるかのようにふっと振り返り崖上から姿を消した。

(人間臭い動きをしやがる──……っ)

 うろうろとしながら何度も崖下を確認する魔物の姿にクォンツはぞっとする。
 理性も知性も無い魔物が何故あのような行動をするのか。
 クォンツは嫌な事を考え付いてしまった自分に舌打ちをする。

(だが……っ、このまま落下して俺も無事でいられるか……っ)

 風魔法を展開した事により、落下の速度は和らいではいるが崖に突き刺した氷の長剣では落下速度を和らげる手助けは出来ても完全に止まる事は無い。
 自分が握っている氷の長剣にびしびし、と亀裂が走ってきた所で、クォンツは眼下に迫っていた川にそのまま落下した。

 夜の闇に、川があった事に気付かずクォンツは落下した衝撃にそのまま意識を失ってしまった。

 川の流れは速く、意識を失ったクォンツの体は川に沈み、そのままするすると流されて行ってしまう。
 奇しくも、クォンツが落下した川はクォンツの父親が落ちて流された川と同じで。
 クォンツが随分流され、川に打ち上げられた場所も父親と同じ場所であった。

 どれだけクォンツは流されたのか。
 打ち上げられ、クォンツが意識を失っている間に空は白み始めており、青白い顔色をして目を閉じているクォンツに向かって近付いて来る足音が一つ。
 その足音は、クォンツの姿を見付けるとじゃり、と動揺したように足音を鳴らしてその場に立ち止まった。



「──何だ……? 最近は川に流される人間が多いな……」

 男の声だろうか。
 低い男の声がぼそり、と響くとじゃりじゃり、と石を踏み締めてその声の持ち主はクォンツに近付いて来る。

 クォンツの姿がはっきりと確認出来た男は、驚いたように一瞬足を止め、先日同じようにこの川に流されて来た男と同じ髪色のクォンツに首を傾げた。

「──血縁者、か……?」

 男は「全く」と小さく呟くと、じゃりじゃりと更に足音を鳴らしてクォンツの姿を確認するように近付くと四肢が無事な事を確認して、呼吸によって胸が上下に動いている事も確認するとひょい、と自分の指先を動かした。

 すると、その男の指先からは「真っ黒い」粒子のような物が放たれてクォンツを包み込む。
 そうして、その粒子はクォンツの体を軽々と持ち上げると男はくるりと踵を返して歩き始めた。

 川から離れた場所には、その男が暮らしている小さな家がある。
 その場所に向かう為に、男はクォンツを連れちらちらとクォンツの様子を確認しながらゆっくりと自分の家へと戻った。





 クォンツが川に落下し、流され男に助けられてどれくらい時間が経っただろうか。

 クォンツは、不意に浮上して来た自分の意識にふっと目を覚ました。

「──……っ、?」

 目覚めて直ぐに視界に入って来たのは、見慣れない天井で。
 貴族の邸などで見慣れている繊細で美しい細工が施されたような天井では無く、質素で木目も荒く、まるで平民が住むような住居のような単調な天井。

「……っ、? ……っ」

 自分は川に落ち、死んだのかとクォンツが半分混乱していると、クォンツが目覚めた事に気付いたのだろうか。
 ガツガツと足音荒く、自分に近付く気配を感じてクォンツは飛び起きた。
 一瞬にして自分の手の中に氷の短剣を作り出すと、自分に近付いて来る気配の方向へと体の向きを変える。
 だが、クォンツが体の向きを変えるのと同時に良く聞き慣れた声がクォンツの耳に届いた。

「ああ、目が覚めたか──」

 クォンツはその声に目を見開くと、自分の目の前に姿を表した人物を見てくしゃり、と表情を歪めた。



「──ご無事、でしたか……父上……」
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