63 / 169
63
ぶわり、と感じる浮遊感。
クォンツは、自分の体が落下して行く不快感に耐えながら風魔法を自分の周りに展開し、手にしていた氷の長剣を崖に突き立てる。
ぎゃりぎゃり、と不快な音が耳元で響きながらそれでもその不快感にクォンツは奥歯を噛み締める。
ちらり、と頭上を確認すると魔物はやはり追って来る事はせずにうろうろと崖を覗き込むように何往復かした後、クォンツを諦めるかのようにふっと振り返り崖上から姿を消した。
(人間臭い動きをしやがる──……っ)
うろうろとしながら何度も崖下を確認する魔物の姿にクォンツはぞっとする。
理性も知性も無い魔物が何故あのような行動をするのか。
クォンツは嫌な事を考え付いてしまった自分に舌打ちをする。
(だが……っ、このまま落下して俺も無事でいられるか……っ)
風魔法を展開した事により、落下の速度は和らいではいるが崖に突き刺した氷の長剣では落下速度を和らげる手助けは出来ても完全に止まる事は無い。
自分が握っている氷の長剣にびしびし、と亀裂が走ってきた所で、クォンツは眼下に迫っていた川にそのまま落下した。
夜の闇に、川があった事に気付かずクォンツは落下した衝撃にそのまま意識を失ってしまった。
川の流れは速く、意識を失ったクォンツの体は川に沈み、そのままするすると流されて行ってしまう。
奇しくも、クォンツが落下した川はクォンツの父親が落ちて流された川と同じで。
クォンツが随分流され、川に打ち上げられた場所も父親と同じ場所であった。
どれだけクォンツは流されたのか。
打ち上げられ、クォンツが意識を失っている間に空は白み始めており、青白い顔色をして目を閉じているクォンツに向かって近付いて来る足音が一つ。
その足音は、クォンツの姿を見付けるとじゃり、と動揺したように足音を鳴らしてその場に立ち止まった。
「──何だ……? 最近は川に流される人間が多いな……」
男の声だろうか。
低い男の声がぼそり、と響くとじゃりじゃり、と石を踏み締めてその声の持ち主はクォンツに近付いて来る。
クォンツの姿がはっきりと確認出来た男は、驚いたように一瞬足を止め、先日同じようにこの川に流されて来た男と同じ髪色のクォンツに首を傾げた。
「──血縁者、か……?」
男は「全く」と小さく呟くと、じゃりじゃりと更に足音を鳴らしてクォンツの姿を確認するように近付くと四肢が無事な事を確認して、呼吸によって胸が上下に動いている事も確認するとひょい、と自分の指先を動かした。
すると、その男の指先からは「真っ黒い」粒子のような物が放たれてクォンツを包み込む。
そうして、その粒子はクォンツの体を軽々と持ち上げると男はくるりと踵を返して歩き始めた。
川から離れた場所には、その男が暮らしている小さな家がある。
その場所に向かう為に、男はクォンツを連れちらちらとクォンツの様子を確認しながらゆっくりと自分の家へと戻った。
クォンツが川に落下し、流され男に助けられてどれくらい時間が経っただろうか。
クォンツは、不意に浮上して来た自分の意識にふっと目を覚ました。
「──……っ、?」
目覚めて直ぐに視界に入って来たのは、見慣れない天井で。
貴族の邸などで見慣れている繊細で美しい細工が施されたような天井では無く、質素で木目も荒く、まるで平民が住むような住居のような単調な天井。
「……っ、? ……っ」
自分は川に落ち、死んだのかとクォンツが半分混乱していると、クォンツが目覚めた事に気付いたのだろうか。
ガツガツと足音荒く、自分に近付く気配を感じてクォンツは飛び起きた。
一瞬にして自分の手の中に氷の短剣を作り出すと、自分に近付いて来る気配の方向へと体の向きを変える。
だが、クォンツが体の向きを変えるのと同時に良く聞き慣れた声がクォンツの耳に届いた。
「ああ、目が覚めたか──」
クォンツはその声に目を見開くと、自分の目の前に姿を表した人物を見てくしゃり、と表情を歪めた。
「──ご無事、でしたか……父上……」
あなたにおすすめの小説
【今さら遅い】毒で声を失い公爵に捨てられた私。妹では精霊が応えず国は滅びへ。ですが隣国皇帝に溺愛される私に、今さら縋ってきても遅いです
唯崎りいち
恋愛
国一番の歌姫だった私は、妹に毒を盛られ声を失い、婚約者に捨てられた。
すべてを奪われた私を救ったのは、隣国の皇帝。
「お前の歌がなければ国は滅びる」と言われた私の歌は、精霊に届く“本物”の力を持っていて――
一方、私を追放した国は偽物の歌では加護を失い衰退。
今さら元婚約者が縋ってきても、もう遅い。
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
【完結】私を裏切った不倫夫に「どなたですか?」と微笑むまで 〜没落令嬢の復讐劇〜
恋せよ恋
恋愛
「早くあんな女と別れて、可愛い子と一緒になりたいよ」
不倫中の夫が笑う声を聞き、絶望の中で事故に遭うジェシカ。
結婚五年目に授かったお腹の子を失った彼女は、
「記憶を失ったフリ」で夫と地獄の婚家を捨てることを決意。
元男爵令嬢の薄幸ヒロインは、修道院で静かに時を過ごす。
独り身領主の三歳の男の子に懐かれ、なぜか領主まで登場!
無実の罪をなすりつけ、私を使い潰した報いを受けなさい。
記憶喪失を装った没落令嬢による、「ざまぁ」が幕を開ける!
※本作品には、馬車事故による流産の描写が含まれます。
苦手な方はご注意ください。主人公が絶対に幸せになる
物語ですので、安心してお読みいただければ幸いです。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結保証】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる──
侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。
だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。
アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。
そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。
「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」
これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。
⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。
4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。
婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~
ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。
そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。
シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。
ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。
それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。
それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。
なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた――
☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆
☆全文字はだいたい14万文字になっています☆
☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆
結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました
ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。
ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。
王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。
そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。
「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております