64 / 169
64
クォンツの目の前に現れたのは、クォンツと同じ髪色を持つ、消息不明となっていた正真正銘、自分の父親で。
クォンツは安心したように表情を緩めたが次に父親の姿──、正しくは左腕を視界に入れて目を見開いた。
「ああ、何とか無事だ。……この家の住人に助けて頂いて、な」
「父上……その腕……」
クォンツは、信じられない思いでか細く言葉を零す。
クォンツの父親は、クォンツの言葉に苦笑すると肩から先、失われてしまっている自分の腕にそっと視線を向けるとクォンツに言葉を返した。
「ああ……どうやら川に落下した時に酷く左腕を損傷したようでな……倒れていた俺を見付けた時には既に腕は無かったようだ。それに、全身毒まみれだったようで……助けてくれた住人の方には感謝してもしきれん」
息子のお前も助けてくれたようだしな、と父親が話すと、クォンツはそうだった、と周囲を見回す。
「──そう言えば、その助けて下さった方は……?」
クォンツはキョロキョロと室内を見回すが、自分が寝かせられていたベッドがぽつりと一つあるのと、小さな丸テーブルと椅子が一つあるだけの簡素な部屋には、クォンツとクォンツの父親しか居なかった。
「ああ、ウィルさん、と言う方でな。ウィルさんは今奥さんの元に行っている……。少ししたら戻って来るから待っていろ……」
悲しげに目を伏せた自分の父親に、クォンツは首を傾げつつも「分かりました」と返事をすると、ベッドから起き上がり一先ず父親と情報を共有する事にした。
「父上が、消息を断たれてから……俺もここに来たのですが……」
「──ああ。お前も遭遇したんだろう?」
ちらり、と視線を向けられてクォンツは神妙な表情でこくりと頷く。
「あれは一体何ですか……こっちの攻撃パターンを理解し、吸収し対策を立てているように感じました」
「ああ。それは俺も同意見だ。しかも、あのような形状の魔物は毒霧など吐く事は無いのだが、毒霧を吐き出すし……」
そこで一旦言葉を切った父親に、クォンツは訝しげに視線を向けると父親は自分でも信じられないとでも言うように唇を開いた。
「あの魔物……魔法を使用したぞ……」
「──は、?」
魔物の中には、魔法を使用する種類もいる。
だが、動物の形状に近い魔物には魔法を使用する者は今の今まで聞いた事が無い。
本当にそんな事があるのだろうか、とクォンツが父親に向かって疑うような視線を向けると、父親も自分で見た光景が本当かどうか半信半疑のようだが、クォンツにもう一度言葉を紡いだ。
「──確かに、……あれは魔法だった、ように見える……」
「あのような個体の魔物が魔法を放つなど……今まで聞いた事も見た事も無いですが……」
「信じられぬのも無理は無い。俺も信じたくはないからな……」
だが、とクォンツの父親が続きの言葉を紡ごうとした瞬間。
この家の家主が戻って来たのだろう。
クォンツが眠っていた部屋の奥。恐らく玄関だろう。そこが開く音がして、人の気配が扉の向こうで動いた。
その事に気付いたクォンツの父親はそちらに視線を向けると、体の向きも変える。
「一先ず、その話は後だ。……ウィルさんにお礼を告げなければ」
「それならば、俺も」
クォンツはベッドから足を下ろすと、そこにあった自分のブーツに足を入れる。
川に流され、ぐしょぐしょになり泥汚れも酷かっただろうに今はそのような汚れも無く、びしょ濡れにもなっておらず乾いている。
父親は不器用なのでそのような事は出来ない為、もしかしたらここの家主が綺麗に整えてくれたのかもしれない、と考えクォンツは色々とお礼をしなければ、と考えつつ父親に続く。
ガチャリ、と扉を開けて先に外に出て行く父親に続いてクォンツも部屋の外に出ると自分を助けてくれた家主に視線を向けた。
「──ウィルさん、息子が目を覚ましたよ。助けてくれて本当にありがとう。どれだけ貴方には感謝してもしきれないな」
「ああ、良かったですよ息子さんが目覚めて……!」
流された姿を見た時、血縁関係があるんだろうな、と思っていたので。とそう柔らかな声音で言葉を紡ぐウィル、と言う自分を助けてくれた男に視線をやり、そうしてその男の姿を目にした瞬間、クォンツは瞳を見開いた。
その男は、ある人物を彷彿とさせるような赤紫の躑躅色の髪の毛をふわりと揺らし、柔らかな微笑みを浮かべてクォンツの父親と、クォンツに視線を向けて笑いかけた。
あなたにおすすめの小説
【今さら遅い】毒で声を失い公爵に捨てられた私。妹では精霊が応えず国は滅びへ。ですが隣国皇帝に溺愛される私に、今さら縋ってきても遅いです
唯崎りいち
恋愛
国一番の歌姫だった私は、妹に毒を盛られ声を失い、婚約者に捨てられた。
すべてを奪われた私を救ったのは、隣国の皇帝。
「お前の歌がなければ国は滅びる」と言われた私の歌は、精霊に届く“本物”の力を持っていて――
一方、私を追放した国は偽物の歌では加護を失い衰退。
今さら元婚約者が縋ってきても、もう遅い。
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
【完結】私を裏切った不倫夫に「どなたですか?」と微笑むまで 〜没落令嬢の復讐劇〜
恋せよ恋
恋愛
「早くあんな女と別れて、可愛い子と一緒になりたいよ」
不倫中の夫が笑う声を聞き、絶望の中で事故に遭うジェシカ。
結婚五年目に授かったお腹の子を失った彼女は、
「記憶を失ったフリ」で夫と地獄の婚家を捨てることを決意。
元男爵令嬢の薄幸ヒロインは、修道院で静かに時を過ごす。
独り身領主の三歳の男の子に懐かれ、なぜか領主まで登場!
無実の罪をなすりつけ、私を使い潰した報いを受けなさい。
記憶喪失を装った没落令嬢による、「ざまぁ」が幕を開ける!
※本作品には、馬車事故による流産の描写が含まれます。
苦手な方はご注意ください。主人公が絶対に幸せになる
物語ですので、安心してお読みいただければ幸いです。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結保証】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる──
侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。
だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。
アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。
そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。
「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」
これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。
⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。
4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。
婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~
ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。
そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。
シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。
ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。
それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。
それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。
なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた――
☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆
☆全文字はだいたい14万文字になっています☆
☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆
結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました
ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。
ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。
王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。
そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。
「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております