【完結】お前なんていらない。と言われましたので

高瀬船

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 ──こくり、とアイーシャの喉が嚥下の為に僅かに動いた事を確認し、ベルトルトはぎゅっ、と拳を握った。

「……ケティング卿……、? 本当に大丈夫でしょうか? 具合が悪いのでしたら、直ぐに馬車を手配致しますので、ご自分の邸にお戻り下さい」

 アイーシャから素っ気なくそう告げられ、ベルトルトは慌てて顔を上げると唇を開く。

「だ、大丈夫だよアイーシャ……! 心配を掛けてしまったかな、すまない……。そうだね……そろそろ、お暇しようか……」
「かしこまりました」

 アイーシャがそうベルトルトに言葉を返すと、扉前に控えていたルミアがそっとテーブルに近付き、カップを片付け始める姿を見てベルトルトは胸中で苦笑してしまう。
 まだ、席を立っていないと言うのに片付け始めたその行動から、使用人も目の前のアイーシャも早くこの場からベルトルトが退出して欲しいと言う事を考えているのだろう。

「ごめんね、だけど好都合だ」
「──え、?」

 ぽつり、と呟いたベルトルトの言葉がアイーシャとルミアの耳に届いた瞬間。
 ベルトルトは自分の近くまでやって来ていたルミアに近付くように素早く立ち上がると、ルミアの首元をトン、と手刀で叩き、ルミアの意識を失わせる。

 かくり、とルミアの意識が無くなりベルトルトがルミアの体を受け止める。
 その一連の流れを見たアイーシャは、瞳を見開きソファから立ち上がろうとした。

「ケティング卿……っ! ルミアに何を──っ、……っ、」

 アイーシャが声を上げ、ベルトルトの腕に受け止められたルミアの元に向かおうとしてソファから腰を上げようとした瞬間。
 かくん、と足に力が込められずアイーシャは再びソファへと逆戻りしてしまう。

 アイーシャは自分の身に何が起きているか分からず、瞳を見開きそしてベルトルトへと懐疑的な視線を向ける。

「──ぁっ、」
「……効いて来たみたいだね……?」

 アイーシャは、自分の喉元に手を当てると喘ぐように唇を開閉する。
 先程から、自分の体温がかあっと上がって来ているような気がしてそれが全身を駆け巡っているような感覚。
 幼い頃に高熱を出した時のように、頭がぼうっとしてきて、喉が渇く。

 不安気な表情でベルトルトを見詰めるアイーシャに、ベルトルトは一度俯いた後、ルミアをソファへと横たえるとそのままアイーシャに向かって歩き出した。

「ごめんね、アイーシャ。……が必要なんだ……体が辛いだろう? それもその筈……さっきアイーシャのカップに入れたのは違法な媚薬だから……。ごめんね」
「──っ!」

 媚薬。
 ベルトルトからその言葉が告げられ、アイーシャは瞳を見開くと無意識の内にベルトルトから逃げ出そうとして、体が思うように動かずソファから転がり落ちた。

「アイーシャは、魔力量はエリシャ程じゃなくても、エリシャよりも魔力制御は上手いし……沢山の魔法が使える……だろう? ルドラン子爵の血筋を辿っていけばそう、だと父が言ってた。……ごめんね」
「……っ、」

 アイーシャは必死に体を動かし床を這う。
 声が出せれば、大声を出せれば外に居る使用人に気付いて貰える事が出来る。

 けれど、アイーシャの喉は焼け付いたように熱を持ち、声を出そうとしても掠れたか細い泣き声のような物しか出す事は出来ない。
 そうして、必死にアイーシャがベルトルトから距離を取ろうと床を這っているのに対してベルトルトは酷くゆったりと緩慢な動きでアイーシャを追い詰めるようにして近付いて来る。

「……既成事実さえ作ってしまえば、婚約破棄は出来なくなるだろう?」

 気付けば、床を這い逃げるアイーシャの前に回り込んだベルトルトの靴先が見えて。

「──ぃっ、や……」
「ごめんね、アイーシャ。大丈夫だよ、辛いのを解放してあげるから」

 ベルトルトがアイーシャに向かってしゃがみこみ、アイーシャに腕を伸ばした瞬間。

 瞳にいっぱい涙を溜めたアイーシャは、嫌悪感、怒り、絶望等の様々な感情が綯い交ぜになり、感情を爆発させてしまった。



 ──カッ、
 と、アイーシャとベルトルトの間に一瞬にして炎が立ち上り、僅かに遅れて轟音が轟き渡る。

 ベルトルトは、自分とアイーシャの間に発生した高圧縮された炎の塊が爆発する衝撃に後方に向かって目にも止まらぬ勢いで叩き付けられた。
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