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「──なっ、」
マーベリックの言葉にウィルバートは驚き、慌ててクォンツに視線を向けるが、クォンツはマーベリックの言葉を肯定するように頷いた。
「ええ……。悔しい事ですが……その御者は新しい職場に向かう途中、物取りに襲われて亡くなって居ます」
誰が放った言葉か。
「なんと言う事を」と言う低く重い声音に、一同は押し黙ってしまった。
それまで、口を挟んで話の邪魔をしないよう、と黙っていたアイーシャは自分の心の中でふつふつと怒りの感情が湧き上がって来るのを感じる。
「──何故っ、ケネブ叔父様は……っ、何の罪も無いお父様とお母様を……っ!! 何故そんなにも簡単に人の命を奪おうと……っ、人の命を何だと思ってるのよ……っ」
「アイーシャ……っ」
ぎゅうっ、と両手を強く強く握り締めてボロボロと両の瞳から涙を零すアイーシャに、ウィルバートは痛ましげな視線を向けてそっと肩を抱き寄せる。
落ち着かせるように何度も何度もウィルバートの手のひらがアイーシャの肩をとんとん、と叩くがアイーシャの怒りは収まらない。
「何の恨みがあって……っ、私達を……っ、何の恨みがあってお母様をあのような……っ!!」
アイーシャが怒りを顕に嘆く姿は痛々しく、今までこんなにも感情を表に出している姿を見た事が無かったクォンツやマーベリック、リドルは戸惑ってしまう。
どう声を掛ければいいのか、と狼狽えている内にアイーシャの隣に座っていたウィルバートがアイーシャを宥め、落ち着かせる。
「アイーシャ、ケネブの犯した罪は重い。クォンツ卿の言葉通りであれば、私とイライアを確実に亡き者にしようと、少なくとも十二年前に計画殺人を企てた。そして証拠となりえる人物も恐らく口封じで始末をしている。それに娘に対して禁止されている魔法を取得させる事も罪は重い。邪教との関わりなど、以ての外だ。恐らく極刑は免れないだろう」
ウィルバートはちらり、とマーベリックに確認するように視線で問い掛けると、はっと我に返ったマーベリックは頷いた。
「──ウィルバート殿が説明した通りだ、ルドラン嬢。ケネブ・ルドランは犯してはいけない罪を数多く犯している。殺人だけでも重罪であるのに余罪も多い。過去の犯罪の刑罰から考えても極刑に該当する」
「……っ、極刑……っ」
マーベリックはウィルバートの言葉に答えるように言葉を紡ぎ、アイーシャはマーベリックの言葉にぽつり、と零す。
「叔父様は……っ、自分の犯した罪がどれ程の重い罪なのか……っ、しっかりと自覚して頂きたいですっ、そして罪を償って欲しいですっ」
「ああ、そうだな……アイーシャ」
アイーシャの悲痛な叫びが部屋に響いた。
部屋での話が終わると、各々は広い部屋の中でそのまま休む事にした。
下手にバラバラに散ってしまい、再び魔物が発生しては危険だと言う事で女性であるアイーシャも同じ室内で過ごす。
アイーシャとウィルバート以外はそれぞれぽつりぽつりと互いに距離を取り、眠る為に横になっている。
アイーシャもウィルバートの隣に横になりながら一向に眠気が訪れず、じっと高い天井を見詰めながら明日以降の事を考える。
(殿下が、明日はこの山中を発つと言っていたわね……。急ぎ王都に戻り、ケネブ叔父様とエリシャの罪を裁くと仰っていた……。私は、ケネブ叔父様達の顔なんてもう二度と見たくない……っ)
父と、母を殺害しようと長年計画を練っていたのだ。
そのような人物だとは知らず、共に同じ邸で過ごしていたのだと考えると恐ろしい。
(──私だって……っ、殺されてもおかしくなかった、のよね)
それなのに、何故自分だけは生かされていたのだろうか、と考える。
ベルトルトと婚約をしていたから生かされていたのだろうか。
だが、あの日クォンツに助けて貰えず学園でクォンツと会う事無く、関わりを持つ事無く過ごしていたらきっとベルトルトとの婚約も無くなっていた可能性がある。
(でもベルトルト様は何故、あんなに私に固執していたのかしら……エリシャに惹かれていたのは事実なのに……)
侯爵家の、ベルトルトの家の意向なのだろうか、と不思議に思う。
(無理矢理、私との婚約を継続させていた可能性があったのかしら……)
そう考えるとアイーシャはゾッとした。
貴族である以上、政略的な婚約は仕方ないと思っていた。
思い合う者同士が婚約し、婚姻出来るのは稀だろうと言う事も分かっていた。
(けれど……、もしかしたらあのまま婚約が継続して、結婚しても……。ベルトルト様とエリシャの仲は変わらなかったかもしれないわね)
エリシャは恐らくベルトルトに対して長年信用魔法を使用していたのだから、エリシャの事を盲目的に信じきっていたベルトルトはエリシャを離すとは思わない。
(そうしたら……、私は表面上は侯爵家の夫人として……ケネブ叔父様達の家で過ごしていた時のように辛い日々を過ごしていたのかも……)
今では、あの家での日々が「辛かった」のだと言う事が分かる。
あの家で長年過ごし、感覚が麻痺してしまっていたが、もう二度とあのような日々に戻りたくは無い、と強く思う。
(お父様と……、またあの家で過ごしたい……)
アイーシャは、ちらりと自分の隣で眠るウィルバートに視線を向けた後、無意識に窓側で眠っているであろうクォンツの姿を探してしまった。
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