【完結】お前なんていらない。と言われましたので

高瀬船

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 土煙の向こう。
 そこで戦っていたのはやはりクォンツやマーベリック、リドル達で。
 ウィルバートは状況を素早く把握すると、斬り落とされた腕を再生しようとしている合成獣キメラに向かって闇魔法を発動した。

(僕にも、未だに闇魔法は全て分かっていないが……)

 だが、とウィルバートはしっかりと合成獣キメラを見据える。

「──クォンツ卿! 離れろ……!」
「……っ、!? ウィルバート卿……!?」

 ウィルバートの声にクォンツは驚いたように目を見開いたが、驚き反応が鈍ったのは一瞬で。
 意図を汲み、クォンツは素早く合成獣キメラから距離を取った。

 リドルは元々マーベリックの近くでクォンツの援護をしていたのだろう。
 合成獣キメラに一番近い場所に居るのはクォンツのみだ。
 クォンツさえ離れてくれれば闇魔法の消滅に巻き込まれる事は無い。

 ウィルバートが放った闇魔法は真っ直ぐ合成獣キメラに向かい、再生しかけていた腕に当たる。
 すると、真っ黒い粒子が肩と思われる場所から下までじゅわり、と覆い尽くしてじわじわとその粒子が侵食しているのが見える。

 痛みを感じるのだろうか。
 合成獣キメラは突然やって来たウィルバートの闇魔法攻撃に反応出来る事は無く、ウィルバートの方へ体を向ける事も叶わずその場でのたうち回っている。

「殿下達もご無事だったか……!」

 暫く合成獣キメラは動けないだろう。
 そう判断したウィルバートは素早くマーベリック達に駆け寄り、マーベリックが捕らえている少女──エリシャの姿を見て僅かに目を見開いた。

「ああ、ウィルバート殿も無事であったか、良かった」

 マーベリックがほっと安堵したように息をつく。
 リドルもウィルバートの近くにやって来て、クォンツも近付いて来るが合成獣キメラの動向を注視するように少しばかり距離を取った場所で静止した。

「ええ。私も、アイーシャも無事です」
「ならば良かった」
「……やはりエリシャ・ルドランが現れたのですね」
「ああ。やはりエリザベートを連れて行こうとしていたようだ。エリシャ・ルドランと邪教の男を捕らえようとしたんだが……」
「邪教の男は変な薬のような物を飲んであーなっちまったんですよ」

 マーベリックの後にクォンツが言葉を続けた。
 普段はまだもう少し丁寧な言葉遣いをしていたクォンツの言葉に、余裕が無いのだろうと言う事が察せられる。

「でも、ウィルバート卿が合流してくれて助かりました。俺達の魔法じゃあすぐに回復しちまって、八方塞がりだったんですよ」
「──みたいだな。私も合流する前に確認した。あの体ごと消滅させねば」

 いけますか? と言うようなクォンツの視線にウィルバートは頷く。

「やれるかどうか、では無いな。やらないとならない。あれを街に出す訳にはいかないだろう?」
「まあ、仰る通りで……」

 ウィルバートとクォンツが短く会話をする。
 その間に、マーベリックとリドルは合成獣キメラとの戦闘は二人に任せた方が良いと判断したのだろう。
 二人の戦闘の邪魔にならないように、と呆然としているエリシャを引き摺りながら合成獣キメラと距離を取る。

「あれも、元は人間だからと言って少しでも攻撃を躊躇すると一瞬ですよ」
「ああ、夫人が喰われたのを見ていたよ。油断はしない。ああなっては人間に戻る事は難しいだろう」

 邪教の禁術であれば、もしかしたら元に戻る術があるのかもしれないが、窮地に追い込まれた男が合成獣キメラとなる事を選択したのだろう。
 あの姿から理性など感じる事が出来ない為、捨て身の対抗手段だったのかもしれない。
 いっその事、目撃者やクォンツ達を纏めて始末してしまうつもりだったのかもしれない。

 邪教は、邪教の教団は存在してはならないものだ。
 表立って活動など出来る筈が無く、その教団の名すら口にしてもならない。

 存在そのものを隠し、活動している為、男が合成獣キメラとなったのはこの場に居る全員を始末してしまおうと考えたのかもしれない。

「こっちに……ウィルバート卿が居なければぞっとしますよ」

 いつもの軽い口調で言葉を紡ぐクォンツに、ウィルバートは呆れ顔を浮かべる。

「……力があるのは分かっているが、あまり危ない事に首を突っ込み過ぎてうちの娘を巻き込まないで欲しい所だ」
「善処します」

 クォンツは楽しげに口元を吊り上げると、肩から先を失い、バランスが取れなくなって動きが鈍っている巨大な合成獣キメラに向かって駆け出す。

「……殿下達は、──ああ、充分離れていらっしゃるな」

 ウィルバートはちらり、とマーベリックとリドルの居る方向へ視線を向け、直ぐに自分の前を行くクォンツに視線を戻す。

 好戦的な性格は好ましいし、頼もしい。
 だが、あまり前に出すぎると思わぬ所で足を掬われそうだ、とウィルバートは胸中で溜息を吐きつつ、クォンツから少し遅れて合成獣キメラに向かって駆け出した。

 クォンツは、ウィルバートの闇魔法が発動出来るまでの時間稼ぎに徹するのだろう。
 補助的な動きで合成獣キメラを翻弄している。

 その様子を見詰めながらウィルバートは再び闇魔法を放つ為に魔力を練り上げ始めた。

 ──つきり、と頭の隅が痛む事には気付かない振りをした。
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