【完結】お前なんていらない。と言われましたので

高瀬船

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 ウィルバートは自分の体内に流れる魔力が徐々に強く、膨れ上がって行くのを感じる。
 早く体の外に出してくれ、と訴えるような闇の魔力。その魔力を制御して暴発しないよう、ズキズキと痛む頭に顔を顰める。

 闇の魔力に、今まで自分の体内を流れていた魔力が全て塗り替えられている。

 十年前に命を助けてもらった瞬間に、それを察した。
 その当時は対して気にも止めていなかったが、ウィルバートは今になってこの闇魔法の危険性を身を持って自覚していた。

 魔力消費量が少ない魔法の発動には何の危険性も感じない。
 だが、今回のように相手が強大で排除する為に多くの魔力を消費する魔法を放つ時は自身の体に反動が出る。

(──だが。アイーシャを守るためならば)

 ウィルバートは離れた場所で待機しているアイーシャを思い、伸ばした自分の腕の先に居る合成獣キメラをひたり、と見据えた。

 大切な娘のためならば、例え自分の身が危険に晒されようとも構わない。
 娘の命が守られるのであれば自分の命はどうなっても良い、とウィルバートは考えている。

(不本意だが……、とてつもなく不本意ではあるがアイーシャの側には頼りになる彼もいる)

 ウィルバートはちらり、と合成獣キメラと戦うクォンツに視線を向けて、退避するように叫んだ。

「放つぞ……! 退避してくれ!」

 ウィルバートの声に即座に反応したクォンツが自分自身に身体強化の魔法を掛けて、合成獣キメラから大きく距離を取った事を確認すると、ウィルバートは合成獣キメラに向かって闇魔法を放った。

 闇魔法を放った瞬間、自分の体からごっそりと魔力が消費した事を感覚で察する。
 思わずその場に膝を着いてしまいそうになったが何とか耐え、放った魔法が合成獣キメラに命中したかどうか視線を向ける。

 闇魔法を放ったとは言え、ウィルバートが放った魔法は他の人間が使う火や水のように目には見えない魔法を放った。
 だが、その魔法は問題無く合成獣キメラに命中したらしく合成獣キメラの胴体、的の大きい胴体にしっかりと当たっていたようだ。
 闇魔法の黒い粒子が可視化され、胴体をまるで蝕むようにじゅわりじゅわりと侵食している。

「──追撃しますか?」
「いや……、恐らくこのまま朽ち果てる」

 退避したクォンツがウィルバートの近くまで戻り、合成獣キメラから視線を外す事無く話し掛けて来る。
 ウィルバートもちらり、とクォンツに一瞬だけ視線を向けた後、視線を直ぐに合成獣キメラに戻して言葉を返す。

 クォンツは額に汗をかきながら抜き身の長剣をそのままに、空いた方の腕で簡単に汗を拭う。

「やはり、痛覚っつーもんがあるみたいですね」

 悍ましい悲鳴を上げ、苦しみ悶えている合成獣キメラを見てぽつりと呟くクォンツにウィルバートも同意する。

 あの場所で戦った合成獣キメラとはまた若干違う反応だ。
 あの合成獣キメラは痛みを感じてはいたが、目の前に居る物よりもまだ思考しているような素振りがあった。

「……同じ合成獣キメラと言えど、個体差があるのか。……アイーシャと再会した場所にいた合成獣キメラの方が目の前の物より数段優れていたようだな」

 ウィルバートが放った闇魔法によって胴体を侵食された合成獣キメラの体は胴体部分にぽっかりと穴が開いており、その穴がどんどんと広がって行っている。
 ボロボロと体が崩れ始め、先程まで聞こえていた悍ましい叫び声も今はぴたりと止んでいる。

 合成獣キメラの体がぼとぼとと地面に落下し、ぐずりと崩れて行く。
 とうとう自力で立つ事も出来なくなり、地面に崩れた事を確認したウィルバートはくるり、と振り返りマーベリックとリドルが居る場所へと向かう。

「クォンツ卿。エリシャ・ルドランはどうするんだ? アイーシャと対面させたくないのだが……」
「ああ……。恐らくマーベリックが先に地下牢に戻すと思います。邪教の男を失ったので、エリシャ・ルドラン単体ではもう大それた事は出来ないと思いますので」
「そうか……、ならば後はケネブだけだな」

 邪教の男の手助けによって、ケネブとエリシャは脱獄出来たのだろう。
 ならば、ケネブの居場所をエリシャは知っているかもしれない。
 ウィルバートはぎりっ、と奥歯を噛み締めるとマーベリック達の元へと歩き出した。



 クォンツや、ウィルバート達から離れた場所。
 アイーシャはウィルバートに言われた通り、遠く距離を保った場所で待機しつつ、クォンツとウィルバートの戦闘を見ていた。

「凄い……」

 無駄な動き一つ無く、お互いがお互いの役割を瞬時に把握して、その通りに行動していた。

 咄嗟の状況判断能力が凄まじく高く、アイーシャは関心するばかりだ。

「私、も……今後外に出る事があるのであれば、あのような動きが出来るようにならないと、だわ……」

 魔物と相対する機会は殆ど無いとは言え、今後一生その機会が無いとは言えない。
 敵は魔物だけでは無いのだ。

 今回のように、悪意を持った人間と相対する事だってある。
 その時に自分の身を守れる程度にならなくてはならない。

 アイーシャは、視線の先で合成獣キメラの体が完全に崩れ去った事を確認すると、その場からクォンツとウィルバート達の元に合流する為に足を動かした。



 マーベリックに捕らえられ、マーベリックとリドルの側に居たエリシャは自分達に近付いて来るアイーシャの姿を視界に捉えると、憎悪の籠った視線で射殺すようにアイーシャを見詰めた。
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