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しおりを挟む「──大きくなったら、ぼくと結婚してくれる……?」
「……、私は……」
広い広い王城の庭園。
幼い頃の思い出。
「私」はあの時あんな答え方をするべきでは無かった。
悲しそうに涙の膜を張った大きな大きな目がくしゃり、と歪んだ。
◇
「──……妃殿下……! 王妃殿下……!」
「……っ!」
「大丈夫ですか? どこかお体の具合が……?」
「いえ、大丈夫よ。少しぼうっとしてしまっただけだから」
心配そうに話し掛けられて、その話し掛けられた女性──クリスタは苦笑しながら自分の侍女に答える。
焦った様子で話し掛けて来た侍女にクリスタは逆に質問する。
「それよりも……。慌てているみたいだけど……何かあったのかしら?」
クリスタの言葉にハッとした侍女は「そうなのです……!」と声を荒らげ、怒りを込めた様子でクリスタに話し始めた。
「聞いて下さい王妃殿下……! 陛下が女性を連れて戻られました……!」
「──陛下、が……? 陛下は今回国境沿いの賊をを制圧するために出征されていたわよね……? それが何故……」
隣国との国境沿いで、隣国の賊や敗残兵が自国ディザメイア国の村を襲い、略奪を行っていたらしい。
国民にまで被害が及び、時間が経つにつれて争いの規模が大きくなって来たため、魔法剣士でもある国王ヒドゥリオンが自ら兵を率い隣国の賊や敗残兵を制圧しに向かったのはクリスタも知っている。
それが何故いきなり女性を連れ帰って来たのだろうか、とクリスタが疑問を口にすると侍女が悔しそうな表情で説明した。
「……どうやら、戦闘は想定していたよりも規模が大きくなり……戦火は隣国と我が国に隣接する小国にまで及んだそうです。……そして、野蛮族である隣国の賊が小国に目を付けて……自分達の味方をするようにその小国に話を持ち掛けたのですが……」
「──小国はその話を断ったのね」
侍女の言いたい事が分かり、クリスタが言葉を続ける。
するとクリスタの言葉に侍女は唇を噛み締めながら頷いた。
「……断られた事に激怒した野蛮族が、その小国を攻撃し始めて……」
「──まさか」
「はい。お察しの通り、小国の王族は滅びました……」
「なんと言う事を……その小国は確かタナ国、だったわよね? 我が国も情報をタナ国から買っていたわ……そのタナ国の王族を……」
クリスタは頭が痛くなり、自分の額に手を当てる。
周辺諸国が緊張状態に陥っている現在、国と国の間にひっそりと存在していた小さな国は情報を売り、自国を守っていた。
軍事力では到底周囲の大国には及ばない。
だから情報を生き残るための術として売り、小国は小国なりに自国を守って来ていたのだ。
「それなのに……今回我が国と隣国の間で起きた戦闘でタナ国が滅びた、と言うのであれば周辺諸国からの糾弾は避けられないわね。きっと他の国もタナ国から情報を買っていた筈だわ……」
これは少し騒がしい事になりそうだわ、とクリスタが今後の事について頭を悩ませていると侍女が信じられない言葉をクリスタに向かって紡いだ。
「陛下は……タナが滅びた原因は我が国に大きな責任がある、としてタナ国の王族で唯一生き残った王女を、自らご自身の馬車に乗せて連れ帰ったのです……」
「何ですって……? 陛下のご自身の馬車、に……?」
自分の馬車に乗せた、と言う言葉を聞きクリスタは驚きに目を見開いた。
国王が自身の馬車に乗せる人間は今までクリスタただ一人だけであった。
それなのに、今回その王女を自身の馬車に乗せ、共に同乗し戻って来たと言う。
「……陛下は、もう戻られているのよね?」
「──はい。本日の午前中にお戻りになられております……」
「午前中……」
クリスタは窓から差し込む日の光を見て、呆気に取られる。
太陽は真上から大分西に傾いている。
あと一時間程もすれば、西日が窓から差し込むような時間帯だろう。
そんな時間まで、自分に帰還の報告が無いとは、とクリスタはぎゅっと自分の手のひらを握り締めた。
「……陛下の下に向かうわ。先触れを」
「かしこまりました、王妃殿下……っ」
クリスタの言葉に侍女は慌てて頭を下げ、バタバタとクリスタの執務室から退出した。
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