冷酷廃妃の誇り-プライド- 〜魔が差した、一時の気の迷いだった。その言葉で全てを失った私は復讐を誓う〜

高瀬船

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 クリスタが呆然とし、言葉を失ったまま何も返事を返せないでいるとヒドゥリオンは不機嫌さを隠しもしない表情でクリスタを睨むように見詰めた。

「王妃。ソニアが挨拶をしているんだ……。君も礼儀として返事をするべきでは? ソニアは一国の王女だ。礼儀を忘れてはいけない」
「ヒ、ヒドゥリオン様! いいのです。突然お邪魔してしまったので、王妃殿下も困惑するのは当たり前です……! その、私は自分の部屋に戻りますわ」
「──ソニア! 私が同席を許可したのだ。君が気遣う必要は無い」

 クリスタの反応など気にせず、ヒドゥリオンとソニアは二人だけで会話を始める。

 朝食の場に居る使用人達ははらはらと成り行きを見守っており、クリスタをちらちらと窺い見ているのが視線で分かる。

(──国王陛下自ら、元王女を招いたのだから私に拒否する権利は無いわ……)

 クリスタはこっそり溜息を吐き出し、口を開いた。

「……ソニア様。どうぞお座り下さい」
「──っ! ありがとうございます、王妃殿下」

 クリスタの返事を聞き、ソニアはぱあっと嬉しそうに表情を輝かせ礼を述べる。
 肝心のヒドゥリオンはと言えば「さっさと返事をすればいいものを」と小さく呟きながらソニアをエスコートし、自分の隣の椅子を引いて彼女を座らせる。

 三人が席に着いた事から食事が運ばれて来るが、和やかな雰囲気になるはずもなく、クリスタは終始無言で。
 ヒドゥリオンはソニアと時々嬉しそうに言葉を交わしながら食事を楽しんでいる。
 ソニアは室内のこの異常な雰囲気に気付いているのかいないのか、料理を口に運ぶ度「美味しい」と幸せそうに笑い、ヒドゥリオンに笑顔で話し掛けている。

 食事が半分程終わった頃。
 クリスタはナイフとフォークをテーブルに置き、席を立った。

「──もうお腹一杯だわ。ご馳走様、ありがとう」

 次の食事を箱ぼうとしていた使用人に向けてそう声を掛け、クリスタはヒドゥリオンやソニアに顔を向ける事無く「失礼します」とだけ告げて部屋の扉に向かって歩いて行く。

 背後で苛立たしげに立ち上がる音が聞こえたが、クリスタはそのまま扉を開けて外に退出した。
 クリスタが廊下を歩き始めた所で苛立ちを隠す事無く乱暴に扉が開く音が聞こえて来て。

「王妃……!」

 ヒドゥリオンの怒声が聞こえたと同時、クリスタの腕が乱暴に掴まれた。

「朝食の途中で席を立つなど……何を考えている? ソニアが気にするだろう!」

 ──私の事は気にしないのね。

 腕を掴まれ、ヒドゥリオンの第一声にクリスタは渇いた笑みを浮かべる。
 だが直ぐにいつもの無表情を顔に貼り付け、ヒドゥリオンに振り返った。

 クリスタから無表情で見つめられ、ヒドゥリオンは一瞬たじろいだがそれも一瞬で。
 クリスタのその態度が何処か癪に触ったのだろう、眉を寄せて不機嫌そうにする。

「昨日から建国祭の件でお話をさせて頂きたかったのですが……。それも難しいようでしたので先に席を立ったまでです。自室に戻り、今日一日の準備をし直さなければなりません。離して下さいますか」
「──建国、祭……っ、そうか……そんな時期だったか……」

 クリスタの言葉にヒドゥリオンははっとしたように言葉を紡ぐ。
 建国祭の事も忘れていたのか、とクリスタが呆れているとその空気を感じ取ったのだろう。ヒドゥリオンはむっとしたように目を細め、口を開いた。

「それならばあの場で話をすればいいものを……。途中退席してはソニアが気に病むだろう。そなたは思いやりと言う言葉を知らないのか? ソニアは自国が滅び、血の繋がった親類も全て失ったのだぞ。本来ならば王妃であるそなたがソニアを気遣い、話し掛けてやるのが普通では無いのか?」

 ヒドゥリオンの言葉にクリスタは「あなたがそれを言うのか」と自嘲する。

「私が話し掛けられない雰囲気を作っていたのは陛下ですわ。お戻りになられてから元王女の側にはいつも陛下がおられました」
「……っ、それはそなたがソニアを慮らないから……」
「……もう良いでしょうか? 本日の段取りを組み直したいのです」
「──……っ、王妃!」

 クリスタはヒドゥリオンが掴んでいた手を振り解き、再び廊下を歩き始める。
 背後から呼び止められるが、今度は先程のように腕を掴まれる事無く、クリスタはそのまま自分の部屋に戻る事が出来た。



 朝食の部屋に一人残っていたソニアはこっそりと部屋の扉を開けてクリスタとヒドゥリオン二人の話す姿を見ていた。
 去っていくクリスタの背中を見詰め、溜息を吐き出して自分の額を手のひらで覆うヒドゥリオンをこっそり見ていたソニアはにんまりと口端を吊り上げていた。
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