【完結】冷酷廃妃の誇り-プライド- 〜魔が差した、一時の気の迷いだった。その言葉で全てを失った私は復讐を誓う〜

高瀬船

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 クリスタが戸惑い、涙を止めようと慌てている時に、ギルフィードが何か言葉を呟いた。
 だがその言葉を聞き逃してしまったクリスタは、自分の目元を指先で拭いギルフィードに向き直る。

「ご、ごめんなさいギルフィード王子。上手く聞き取れなくて……。今、何か喋ったわよね……?」

 二十二にもなって、年下のギルフィードの前で涙を流してしまうなど、と羞恥を覚えたクリスタは慌てふためき、涙を止めようと目元を擦る。

「──……っ! 擦っては、痕になってしまいますクリスタ様!」

 ギルフィードは慌ててクリスタに近付き、目元を擦るクリスタの手首を掴む。
 ついつい力が入ってしまい、ぎちりと強く握り締めてしまったギルフィードの力の強さに、クリスタは目を瞑った。

「痛っ」
「──っ! も、申し訳ございません……!」

 クリスタのか弱い声にギルフィードはびくり、と体を震えさせて掴んでいたクリスタの手首をパッと離す。

「い、え……。大丈夫、大丈夫……」
「すみません、クリスタ様……何か冷やす物……冷やす……」

 大丈夫だ、と告げるクリスタにギルフィードは慌てふためき、自分の服のポケットを探る。
 クリスタの手首は、ギルフィードが強く掴んでしまったためだろうか。薄ら赤くなってしまっていて。
 ギルフィードは自分の行動を深く反省すると同時に恥じる。

 怪我をさせたかった訳じゃない。
 ただ、自分の目の前に居るクリスタがあんな男のために涙を流しているのが辛くて。
 自分だったらこんな表情させないのに。
 自分だったらクリスタを悲しませないのに、と詮無いことを考えてしまう。

「──あ、あった……」

 ギルフィードは胸ポケットから一枚のハンカチを取り出した。
 そして自分の人差し指をぴん、と立てて指先にキン、と凍った氷の塊を作り出した。
 冷たいそれをハンカチで包み、その上から両手で包み込む。
 魔法で作り出した氷の塊を慎重に変化させ、ハンカチにゆっくり染み込ませる。

 そして数秒間そうしていたギルフィードはハンカチを包んでいた手をぱっと開け、クリスタの手首にそっと当てた。

 ひやり。
 と、冷たすぎず、ぬる過ぎず。
 絶妙な冷たさを保ったハンカチが手首に当てられ、クリスタは「ひゃっ」と小さく驚きの声を上げた。

「ギルフィード王子……?」
「すみません、クリスタ様。手首は取り敢えずこれで冷やして下さい……。ああ、目元も擦ったから赤くなってしまってます」

 ぱしぱし、と睫毛を瞬かせるクリスタにギルフィードは眉を下げたまま告げ、クリスタのもう片方の手でハンカチを握らせる。
 そして次にクリスタの顔を見たギルフィードは悲しそうな声音で告げた後、そっと自分の腕を上げた。

「冷たくないと思うのですが……。冷たすぎて痛かったら言って下さい」
「──えっ」

 ギルフィードは、今度は自分の人差し指に魔力を込めて魔法を発動する。
 それは、先程の発動した氷を作り出す魔法と同じ要領で行い、今度は自分の指を冷やす。

 そして擦れて赤くなってしまったクリスタの目元にそっと冷たい指先で触れる。

 僅かに熱を持っていたクリスタの肌が、ひやりと冷たく冷えたギルフィードの指先で冷やされて。

 クリスタは自分を心配し、泣きそうな顔で見下ろして来るギルフィードをぽかんと見上げてしまう。
 何故、ギルフィードがこんなに悔しそうに、苦しそうに表情を歪めているのだろうか。
 幼い頃は確かに仲良く過ごしていたが、大人になった今、何故こんなにも親切に、優しく接してくれるのだろうか。

 同情心とは、違う。
 何故か胸騒ぎを覚えてクリスタはそっとギルフィードから視線を逸らした。


 ギルフィードの指先は冷たく、ひりひりと熱を持った目元を優しく冷やしてくれて。
 人の温かさ、優しさに触れたクリスタはじわり、と再び涙を滲ませてしまった。
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