【完結】冷酷廃妃の誇り-プライド- 〜魔が差した、一時の気の迷いだった。その言葉で全てを失った私は復讐を誓う〜

高瀬船

文字の大きさ
48 / 135

48

しおりを挟む

 緊張感に包まれながら庭園の入口に向かうにつれ、クリスタの庭園から楽しげな笑い声や、話し声が聞こえて来る。

「──クリスタ様」
「……ええ」

 ギルフィードが気遣うように振り返り、クリスタに話し掛けて来る。

 中から聞こえて来る笑い声、その声には聞き覚えがある。

 クリスタ達は先程まで抱いていた緊張感、緊迫感から解放されたが、クリスタはそれとは別に怒りを覚え始める。

「──何故、寵姫が私の庭園に居るの!?」

 クリスタの庭園に、クリスタ以外の人間が入っている。

 この庭園はクリスタが前王妃から受け継いだ大切な庭園だ。
 その時の会話も、思い出も、全てが汚されてしまったような感覚に陥る。
 前王妃が遺した言葉も、国を想う気持ちも、国民を大切に想う気持ちも全部が汚されてしまったような感覚になってしまって。
 そして、前王妃の気持ちを蔑ろにしたヒドゥリオンに怒りさえ覚える。



 クリスタは怒りを顕にしながら、開けられていた扉から庭園に入る。

 色とりどりの花々が咲き誇るその奥に、笑い声の主であるソニアと、そして彼女に付いている侍女が三人程居た。

「──ソニアさん」

 クリスタの凛とした良く通る声が庭園に響く。
 それまでソニアの笑い声が満ちていた庭園内に、一瞬にしてピリッとした空気が満ちる。
 まさかクリスタがこの時間帯に姿を現すとは思っていなかったのだろう。ソニアに付いていた侍女があからさまに「しまった」と言うような表情を浮かべている。

「お、王妃殿下……」
「何故、ソニアさんが私の庭園に居るの? ここの鍵は私と陛下しか持っていないはずだけど……。それに貴女達。ソニアさんが入りたいと言ってもこの庭園の事を説明して、止めるのが貴女達の仕事でしょう? 何をやっているの?」
「そ、それは……」
「何よ。陛下に見向きもされない名前だけの王妃のくせに」

 クリスタの言葉に、一番年上の侍女が真っ青な顔で震えている陰で一番年若い侍女がぼそり、と呟いた。

 その言葉に直ぐに反応したのはクリスタの侍女二人で。

「──何ですって!? 今言ったのは貴女ね、名前を名乗りなさい! そもそも、王妃殿下が見えられた際は頭を下げ、許しを得るまで頭を上げないのが常識でしょう!? 寵姫の侍女は、一体どう言う教育を受けているの!?」
「もっ、申し訳ございません王妃殿下……! お許し下さい……っ!」

 クリスタの侍女に、一番年上の侍女が慌てて頭を下げ、年若い侍女の頭を無理矢理下げさせる。

 その様子をきょとん、とした顔で見ていたソニアに向かって、クリスタは口を開いた。

「ソニアさん。自分の侍女の礼儀がなっていないと、自分の評価まで下がるのよ。しっかり指導しなさい」
「──あの、何故クリスタ様がそんなに怒るのか分かりません……。確かに、クリスタ様に向かってこの子は失礼な事を言ったのだから謝罪すべきと言う事は分かるのですが、この庭園に入れるのがクリスタ様だけ、なんて……。ヒドゥリオン様が仰っていました。この庭園は、国王である自分の妃が入る事が出来る場所だから、私も自由に出入りしていい、と。クリスタ様専用の場所では無く、ここは国王陛下であられるヒドゥリオン様の妃の庭園です。ならば、私もここに入る権利があります」
「……陛下がそう言ったの? 本当に……?」

 ソニアが先程からクリスタの事を「王妃」と呼ばず「クリスタ」と名前で呼ぶ様に引っ掛かりを覚える。
 だが、今はそれよりもヒドゥリオンがソニアに自由に出入りしていいと告げ、ソニアにこの庭園の鍵を渡した、と言う事の方が重要だ。

 この庭園は、この国の「王妃」専用の庭園だ。
 王妃が自ら選んだ人間、招いた人間しか庭園に足を踏み入れる事は出来ない。
 そうして、王妃の庭園は代々、何年もそうやって維持されて来た。
 王妃の庭園に呼ばれる事は貴族にとってある種のステータスだ。

 それ程までに王妃に信頼され、忠誠心を認められた者だけが招待される場所。
 その場所を、大切な庭園の存在理由を根底から覆されてクリスタは唖然としてしまう。
 今まで、ディザメイア国で大事に受け継がれて来た、継承されて来た事柄がこんなにも簡単に覆されていいものなのか。

 クリスタは真っ直ぐソニアを見据え、そしてその後に侍女達に順々に視線を向けてから冷たい声音で告げた。

「侍女達の人事は王妃である私の仕事です。先程、私に対して不敬な物言いをしたそこの侍女の処罰は近日中に言い渡します。ソニアさんも、早急にこの庭園を出て行きなさい」
「──王妃だからと言って、そんな横暴がまかり通るのですか!? 王妃だから、何をしても良いと、何をしても許されると思っているのですか!? こんなの酷過ぎます!」

 クリスタの言葉に納得出来ないのだろう。
 ソニアが興奮した様子で叫ぶ。

 だが、クリスタは譲歩するつもりは一切無い。
 これ以上ソニアの顔を見るのも嫌だし、くだらない事で言い争いを続けるのも時間の無駄だ。

「早く出て行って。衛兵を呼ばれたく無いでしょう?」
「──っ、クリスタ様は勘違いをされていらっしゃいます! そんな態度では、ヒドゥリオン様も、民心も、貴族達からも見放されてしまうわ!」
「ソ、ソニア様。今は一旦お部屋に戻りましょう? 興奮してしまうとお体に悪いですから」
「きっと後悔するわ、クリスタ様! 後悔してからでは遅いのです!」

 ソニアは侍女に促されつつ、何とか庭園を出て行った。
しおりを挟む
感想 117

あなたにおすすめの小説

私を裏切った夫が、後悔しているようですが知りません

藤原遊
恋愛
政略結婚として、公爵家に嫁いだ私は 愛のない夫婦関係を「仕事」だと思い、正妻の役目を果たしてきた。 夫が愛人を持つことも、 その子を屋敷に迎え入れることも、黙って受け入れてきた。 けれど―― 跡取りを、正妻の子ではなく愛人の子にする。 その言葉を、人前で軽く口にした瞬間。 私は悟ったのだ。 この家では、息子を守れないと。 元々、実家との間には 「嫡子以外の子は実家の跡取りにする」という取り決めがあった。 ならば話は簡単だ。 役目を終えた私は、離縁を選ぶ。 息子と共に、この家を去るだけ。 後悔しているようですが―― もう、私の知るところではありません。

婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~

ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」 義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。 父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。 けれど―― 公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。 王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。 さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。 そして下されたのは――家ごとの褫奪。 一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。 欲しがったのは肩書。 継いだのは責任。 正統は叫びません。 ただ、残るだけ。 これは、婚約を奪われた公爵令嬢が “本当に継がれるべきもの”を証明する物語。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。 ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。 王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。 そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。 「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。

《完結》初夜をすっぽかされた令嬢は夫を死亡扱いする

さんけい
恋愛
クズ夫の非常識を帳簿で粛々と清算!真実の愛?笑わせるわね! 全14話。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

【完結】氷の令嬢は愛を請わない - 捨て子の『義妹』に愛も家族も奪われたマリーローズの逆襲

恋せよ恋
恋愛
銀髪紫眼の美貌の侯爵令嬢、マリーローズ。 完璧な淑女に育った彼女だったが、母は捨て子ジュリエットを寵愛。 婚約者の公爵家嫡男アレックスも、友人も、次々に奪われる――。 家族に裏切られ、すべてを失った彼女が下した決断は、 家族を見かぎり、国を捨て、自らの人生を取り戻すこと。 理不尽な悲恋を力に変え、運命をひっくり返す令嬢の逆転劇! 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

処理中です...