59 / 135
59
ディザメイアや自国のクロデアシアに比べればタナ国の王城は小さく、都も小規模だ。
だが周辺諸国からの侵略に備えられ、国民の生活を助ける大きな水路が都の周りをぐるりと囲い、その水路が一種の防塞的な要素を担っている。
タナの王城も豪華絢爛な城と言うよりは堅牢な城塞のような造りをしていて、遠目から見ればまさにタナ国王都は「城塞都市」と言える物だろう。
ギルフィードはまだ遠く離れた場所に聳え立つ堅牢な城塞を視界に入れたまま感心したように呟いた。
「──なるほど……これは見事だ……」
敵国が攻め入ろうとしても行く手を阻むのは水幅の広い水路を先ず攻略せねばならない。
恐らく傍目からは分からないが水路の深さは結構あるだろう。無理に攻め入ろうとして何の対策もせずに水路に足を踏み入れたら最後、想像よりも深く掘られている水路に沈み、混乱が生じるだろう。
「水路が駄目だとしても──」
城門を破壊して軍を突入させてしまえばどうと言う事も無いと思えるが、タナ国の王族には魔術の知識がある。
魔法が主流の今、滅びた魔術で都を守っていたのであれば魔術の攻略は難しい。
魔術の術者を遥かに凌駕する魔力を持った者の攻撃であれば攻略が出来る可能性はあるが、防御結界などの単純な魔術であれば魔力量の多い者の最大火力の攻撃魔法を何度か放てば破壊する事は可能だが、防御結界ではない魔術を使用していたとしたらそれを破るのは容易では無い。
「……小国ならではの自国を守る知恵、か……だがそれ程の対策をしていたと言うのに何故こんなにも容易くタナ国は滅亡した……?」
都は焼かれ、大勢の人々の営みの欠片も残っていない。
堅牢な城塞も殆どが崩壊してしまっている。
(これ程、対策をしていた国があっさりと落ちるなんて……。崩壊するよう、滅亡するよう内から手引きした人間がいるとしか思えない)
「殿下。参りましょうか」
「──! ああ、行こう」
思ったよりも長い時間思考に耽っていたようで、ギルフィードの護衛が遠慮がちに背後から話し掛けて来る。
話し掛けられてはっとしたギルフィードは、気持ちを入れ替えてこくりと頷き、今はまだ遠くに見えるタナの城塞都市──都に向かって馬を走らせた。
◇
都に向かって馬を走らせて数時間。
時折奇襲を受ける事はあれど、順調に都に到着した頃にはとっぷりと日が暮れていた。
「──城に向かうのは明朝、日が昇る前に侵入しよう。今夜は安全な場所を確保して夜営をする」
都に到着し、馬から降りたギルフィードは護衛達に告げる。
ギルフィードからそう告げられるなり護衛達は短く返事をした後、周囲を確認するためにギルフィードには護衛隊長ともう一人の護衛、合わせて二人だけが残りその場から散って行った。
ギルフィード自身、相当な魔法使いであり、武術も長けているが王族であるギルフィードをこの場で決して一人にはさせない。
ギルフィードは軽く周辺を確認し、人の気配が無い事を確認すると近場にあった丁度いい高さの塀に腰掛けた。
元は平民が暮らしていた家の塀だろう。
家部分は焼失してしまっているが、石は燃え残ったのだろう。黒い煤が付着しており、決して綺麗とは言い難いその場所だが、長い時間馬上に居た事でギルフィード自身も疲れが滲んでいる。
「……違和感があるな」
「殿下もそう感じられますか?」
「ああ」
ぽつり、と呟いたギルフィードの言葉に護衛隊長が反応する。
「さっき、軽くしか見ていないが周囲を確認した。……まるで後付けされたみたいだ」
「ええ。あまりにも不自然です」
ギルフィードと護衛隊長の話に入って来れないもう一人の護衛は、二人の会話が理解出来ないのだろう。
二人の言っている事の意味を理解しようとしているが「分からない」とまるで顔に書いてあるようで。
ギルフィードは苦笑して、もう一人の護衛にも違和感を分かりやすく伝えてやった。
「ディザメイアと、隣国の戦争に巻き込まれて滅びた、と言うわりには……痕跡が不自然だ。巻き込まれていたのであれば争いの痕跡が至る所に残るはず。それも、混乱しきった状態だから戦闘の痕跡も迷うように、焦りが見えるように、残るはず。……だが、この痕跡はまるで巻き込まれた、と言う事を強調するかのような意思が見えるんだよ。計算し尽くして付けられた戦闘の跡──。だから、後付け、と言う事だ」
あなたにおすすめの小説
妃が微笑んだまま去った日、夫はまだ気づいていなかった
柴田はつみ
恋愛
「セラフィーヌ、君は少し、細かすぎる」
三秒、黙る
それから妃は微笑んで、こう言った。
「そうですね。私の目が曇っていたようです」
翌朝から、読書室に妃の姿はなかった。
夫への礼は完璧。公務も完璧。微笑みも完璧。
ただ妻の顔だけが、どこにもなかった。
え〜婚約者さん厳しい〜(笑)私ならそんなこと言わないのになぁ
ばぅ
恋愛
「え〜婚約者さん、厳しい〜。私ならそんなこと言わないのになぁ」
小言の多い私を笑い、マウントを取ってくる幼馴染令嬢。私が言葉に詰まっていると、豪快で声のデカい婚約者が笑い飛ばした。
「そうだな、だからお前は未だに婚約相手が決まらないんだろうな!」
悪気ゼロ(?)の大声正論パンチで、幼馴染をバッサリ撃退!
私の「厳しさ」を誰よりも愛する太陽の騎士様との、スカッと痛快ラブコメディ。
『愛人を連れて帰ってきた翌朝、名前すら呼ばれなかった私は離縁状を置いて旅に出ます。これからは幸せになります――そう思っていました。』
まさき
恋愛
夫に名前すら呼ばれず、冷たく扱われ続けた私は、ある朝、ついに限界を迎えた。
決定打は、夫が見知らぬ女性を連れて帰ってきたことだった。
――もういい。こんな場所に、私の居場所はない。
離縁状を残し、屋敷を飛び出す。
これからは自由に、幸せに生きるのだと信じて。
旅先で出会う優しい人々。
初めて名前を呼ばれ、笑い、温かい食事を囲む日々。
私は少しずつ、“普通の幸せ”を知っていく。
けれど、そのたびに――背中の痣は、静かに増えていた。
やがて知る、自らの家系にかけられた呪い。
それは「幸せを感じるほど、命を削る」という残酷なものだった。
一方その頃、私を追って旅に出た夫は、焦燥の中で彼女を探し続けていた。
あの冷たさも、あの女性も、すべては――。
けれど、すべてを知ったときには、もう遅くて。
これは、愛されていなかったと信じた私が、
最後にようやく“本当の愛”に気づくまでの物語。
結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました
ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。
ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。
王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。
そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。
「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。
王妃の寝間着を渡すだけの仕事ですの?と笑った義妹、宮廷を追放されました
富士山麓
恋愛
モンフォール公爵家の嫡女アデルは、王宮で王妃クシェという名誉職を務めていた。
王妃の就寝の儀礼で寝間着を差し出す――ただそれだけの役目。
しかしそれは、王妃の私室に入ることを許された宮廷で最も名誉ある地位の一つだった。
かつてアデルは王太子の婚約者だったが、側室の娘である義妹カミーユが甘い言葉で王太子を誘惑。
婚約は奪われ、アデルは宮廷で静かにクシェの役目を続けることになる。
だがある日、義妹は新たに与えられた王妃の朝の儀礼――ルヴェを聞いて嘲笑した。
「王妃の着替え係?そんなのメイドの仕事でしょう」
その一言で宮廷は凍りつく。
ルヴェとクシェは、王や王妃の私室に入ることを許された最高の名誉職。
それを侮辱することは、王妃そのものを侮辱することと同じだった。
結果――
義妹は婚約破棄。
王太子は儀礼軽視を理由に廃太子。
そして義妹は宮廷から追放される。
すべてを失った義妹は、やがて姉の地位を奪おうと画策するが――。
一方、王妃の最側近として静かに宮廷に立つアデル。
クシェという「王妃に最も近い名誉職」が、やがて王国の運命を動かしていく。
これは、宮廷儀礼を知らなかった者が転落し、
その意味を理解していた者が静かに勝つ物語。
婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない
柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。
目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。
「あなたは、どなたですか?」
その一言に、彼の瞳は壊れた。
けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。
セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。
優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。
――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。
一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。
記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。
これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。
夫と息子に捨てられたので、全部置いて出て行きます。明日から、タオルがなくても知りません。
夢窓(ゆめまど)
恋愛
夫と息子に裏切られ、すべてを奪われた女は、何も言わずに家を出た。
「どうせ戻ってくる」
そう思っていた男たちの生活は、あっけなく崩壊する。
食事も、金も、信用も失い、
やがて男は罪に落ち、息子は孤独の中で知る。
――母がいた日常は、当たり前ではなかった。
後悔しても、もう遅い。
余命半年の私は、あなたの愛など要りませんので離縁します
なつめ
恋愛
公爵家に嫁いで三年。
夫ヴィルレオは義務だけを果たす、冷たい人だった。
愛のない結婚だとわかっていたから、主人公リュゼリアも期待しないふりをして生きてきた。
けれどある日、彼女は余命半年を宣告される。
原因は長年蓄積した病と、心身を削る公爵家での生活。
残された時間が半年しかないのなら、もう誰にも気を遣わず、自分のために生きたい。そう決意したリュゼリアは、夫へ静かに告げる。
「あなたの愛など要りませんので、離縁してください」
最初はそれを淡々と受け止めたはずの夫は、彼女が本当に去ろうとした時に初めて、自分が妻を深く愛していたことを知る。
だが気づくのが遅すぎた。
彼女の命は、もう長くない。
遅すぎた愛にすがる夫と、最後まで自分の尊厳を守ろうとする妻。
離縁、後悔、すれ違い、余命。
泣けて苦しくて、それでも最後まで追いたくなる後悔系・溺愛逆転ロマンス。