冷酷廃妃の誇り-プライド- 〜魔が差した、一時の気の迷いだった。その言葉で全てを失った私は復讐を誓う〜

高瀬船

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 ギルフィードの攻撃魔法が足元の床を撃ち抜き、一瞬の浮遊感の後に階下へと落下する。

 ギルフィードの突然の行動に最初だけ戸惑いの色を見せた護衛騎士達は直ぐに各々状況判断に移り、落下する短い間に落下の衝撃を軽減させる魔法や、土魔法などで足場を作り出している。
 長年ギルフィードの護衛を勤めている騎士達はギルフィードの無茶には慣れているし、このような不測の事態にも素早く反応し対処出来なければ第二王子であるギルフィードの護衛役など務まらない。

 床を落としたギルフィードは勿論、後に続く護衛騎士達も難無く落下の衝撃をいなし、無事に階下に着地する。

「殿下! ご無事ですか!?」
「ああ、私は大丈夫だ。……だが、ここは……」

 護衛隊長がギルフィードに駆け寄り、無事を確認してくるがギルフィードは眼前に広がる光景に驚き、目を見開いた。

 ──城の地下にこのような空間があるとは。

 二階層、いや三階層程落下してしまったのかもしれない。
 通常、城の地下には貯蔵庫代わりの部屋や、使用人達の部屋、通路があるが今自分達が居る場所はその更に下層らしい。
 抜け道や隠し通路がある場所よりも下。太陽の光など届くような場所では無いそこに、ひっそりとそれはあった。

「──タナ国は一体……」

 ぽつり、と呟いたギルフィードの声は誰の耳にも届かず消えてしまう。

 ギルフィード達の目の前に広がる空間は、城の内部と言っても差し支え無いような豪華絢爛な空間が広がっている。
 意匠に凝った壁面、壁面に取り付けられている魔道ランプには魔力が残っているのか煌々と辺りを明るく照らしており、ギルフィード達が踏みしめる床も大理石の床のように美しく、煌びやか。
 そして、地上の城はあれ程までに崩れ、崩壊していると言うのに地下にあるこの空間は損壊が少ない。

 そして、先程から感じる違和感──。

「やっぱり、制約魔法が発動しているな……」
「──そのようですね」

 この場所に降りて来てからギルフィードは、自分の体を内を流れる魔力に外部から干渉されている不快感を感じていた。
 この場所で最大火力の攻撃魔法を放とうとしても、制約魔法のせいで火力は大分落ちてしまう。

「こんな強力な制約魔法が掛けられているこの場所は何なんだ、一体……」
「殿下。この先は危険です、一度本国に戻り騎士を増やして再度調査に訪れた方がよろしいかと……」

 この空間の不気味さ、そして不自然さ、そしてここは危険な場所だ、と言う事を悟った護衛騎士の隊長はいつの間にか長剣を抜き、軽く構えた体勢でギルフィードに声を掛ける。

 普段の自分であれば隊長のその言葉を素直に飲み込んだだろう。
 だが、今はキシュートの安否を確認しなければならない。
 そして、タナ国が危険な国であると言う事を大事な人に伝えなければならない。

「──いや、進むぞ。先程の振動は魔法を発動した時のそれだ。キシュートの安否を確認しなければならないし……。クリスタ様にこの場所の危険性を少しでも多く持ち帰り、お助けしなければ……」

 あのソニア、と言うタナ国の王女はこの場所の存在を知っているのだろうか。
 自国が滅びを迎えてしまった原因は、内部の者の犯行だ、と言う事を知っているのか。

(若しくは……内部の者、と言うのがあの寵姫なのであれば……)

 有り得ない、と考えたい。
 誰が好き好んで自分の国を滅ぼすのか。
 誰が好き好んで自分の家族を殺すような真似をするのか。

 もし、手引きをしたのがあのソニアと言う王女なのであれば何の目的があってディザメイアに入り込んだのか。
 そして、何の目的でヒドゥリオンの第二妃と言う座を得たのか。

「──っ、行こう。キシュートはまだ無事かもしれない……!」

 ギルフィードは護衛に声を掛け、足を踏み出した。




 広い廊下を歩き始めてどれくらい経った頃だろうか。
 微かに人が争うような音がギルフィードの耳に届く。

「──っ、静かに!」

 自分達の立てる足音に微かな戦闘の音が掻き消されてしまわないよう、ギルフィードは周囲に居る護衛達に鋭く命令を飛ばす。
 ギルフィードの声に即座に反応した騎士達はぴたり、とその場に足を止め停止した。
 そして誰もが声を発さないしん、と静まり返った空間でギルフィードの耳は確かに戦闘の音を拾う。

「まだ、遠いな……。こちらだ」
「はっ。殿下の前は我々が。お下がり下さい」
「分かった、頼む」

 ギルフィードが指し示す方向に騎士二人が先行するように歩み出て、ギルフィードの指示通り進んで行く。
 何度か廊下を曲がり、戦闘の音が徐々に大きく聞こえるようになって来る。

 その頃にはギルフィード達一行は駆け出すようにして廊下を進み、ギルフィードは腰にあった長剣を自らも抜き放ち、刀身に魔法を付与する。
 攻撃魔法に制約が掛かっているのであれば、後は物理的な攻撃と、威力の弱い魔法で戦わなければならない。

 次の角を曲がれば、恐らく戦闘の音の発生源だ。
 ギルフィードは最後の角を曲がり、開けた広間のような場所に出た。

 そこは、王城にある謁見の間に良く似た場所で。その空間は激しい戦闘の跡でどこもかしこも崩れ、破壊されていた。

 そして、謁見の間で戦う良く見知った男の姿を見付けてギルフィードは安堵し、彼に加勢する勢いで駆け出した。
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