71 / 135
71
しおりを挟むバタバタ、と慌ただしい足音が聞こえて来てクリスタとナタニアはぱっと顔を上げて控えの間の入口を注視する。
「──王妃殿下、お下がり下さい……」
「何事かしら……?」
ナタニアがクリスタを庇うように前に立ち、クリスタはギルフィードを膝に乗せたまま周囲に何か武器になる物が無いか確認をする。
ギルフィードから人払いを願われ、周囲には極小数の護衛しか置いていない事にクリスタはひやりと自分の心臓が冷えるのを感じる。
自国内にいる限り、滅多な事は起きないだろうと考えていたクリスタだったが、ギルフィードが気を失う前に口にしていた言葉を思い出し、自分の甘さに嫌気がさす。
ソニアに気を付けろ、と言っていた。
そして、タナ国で何らかの情報を得たギルフィードはこの様だ。
(ソニア妃が何も仕掛けて来ない、とは言えないわ……魔法さえ発動出来れば問題は無いのだけど……)
だが、クリスタは今魔法を発動する事が出来ない。
ナタニアがクリスタを守るように前に出てくれているが彼女一人では相手が複数だった場合。強力な魔法を使える人物だった場合。
ナタニアでは手に負えない可能性がある。
(部屋の外には護衛が居るから……大丈夫だとは思うけど……)
必要最低限の護衛は置いてある。
その護衛が対応してくれれば良いが、とクリスタが考えていると控えの間に近付いて来ていた足音の主が護衛と話をしているのが耳に届いた。
「──? 女性……? 聞き覚えの無い声ね。クロデアシアの貴族か……それとも使用人の誰かかしら……?」
「そう、ですね……。何か言い争っているような状態のようですね。……様子を確認して参りましょうか?」
「ええ。お願いしてもいいかしら?」
護衛が対応しているようだ。
その事から少しだけ警戒心を解いたナタニアは入口を見つつクリスタに問う。
クリスタもナタニアの提案に頷き、ナタニアは入口に向かって歩き出した。
その後ろ姿をクリスタが見詰めていると、ギルフィードが小さく声を漏らした。
「──ぅ……、」
「ギルフィード王子? 目が覚めた……?」
「私は……気を失っていたのですか……?」
呻き声が聞こえ、次いでギルフィードの瞼がぴくりと震えた。
そして薄らと目を開けたギルフィードに気付いたクリスタはほっとして表情を緩め、ギルフィードの問い掛けに答える。
ぼんやりとクリスタを見詰めていたギルフィードは次第に視界と思考がクリアになって来たのだろう。
目の焦点が合った瞬間、自分が置かれている状況を理解して顔を真っ赤にしてクリスタの膝から飛び起きた。
「もっ、申し訳ございませんクリスタ様……っ」
「急に動いたら傷に障るわ……!」
真っ赤になったり、急に動いた事で激しい痛みを感じたのだろう、顔色を真っ青にしたりと忙しいギルフィードにクリスタは慌てて声を掛ける。
怪我も酷い状態であろうし、熱だってある。
ギルフィードを何処かで休ませなければ、とクリスタが考えているとナタニアが入口から出て行く姿が視界に入った。
護衛と話をしていた人物と今度はナタニアが話をしているのが薄らと聞こえて来て、クリスタは訝しげに眉を寄せる。
そしてその声はギルフィードにも聞こえていたのだろう。
傷のある腹を片手で抑えながら、ギルフィードは控えの間の入口に顔を向けて口を開いた。
「……あの声は、ソニア妃の侍女……? 何故こちらに来たんだ……?」
「ギルフィード王子、あの声に心当たりがあるの? それに、ソニア妃の侍女……? 何故彼女がここに……」
クリスタの言葉にギルフィードは柔らかな笑みを浮かべた後、クリスタに向かって頷いた。
「大丈夫です、私の部下なので。……こちらに来た、と言う事は私を探しているのかもしれません」
90
あなたにおすすめの小説
私を裏切った夫が、後悔しているようですが知りません
藤原遊
恋愛
政略結婚として、公爵家に嫁いだ私は
愛のない夫婦関係を「仕事」だと思い、正妻の役目を果たしてきた。
夫が愛人を持つことも、
その子を屋敷に迎え入れることも、黙って受け入れてきた。
けれど――
跡取りを、正妻の子ではなく愛人の子にする。
その言葉を、人前で軽く口にした瞬間。
私は悟ったのだ。
この家では、息子を守れないと。
元々、実家との間には
「嫡子以外の子は実家の跡取りにする」という取り決めがあった。
ならば話は簡単だ。
役目を終えた私は、離縁を選ぶ。
息子と共に、この家を去るだけ。
後悔しているようですが――
もう、私の知るところではありません。
婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~
ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」
義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。
父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。
けれど――
公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。
王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。
さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。
そして下されたのは――家ごとの褫奪。
一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。
欲しがったのは肩書。
継いだのは責任。
正統は叫びません。
ただ、残るだけ。
これは、婚約を奪われた公爵令嬢が
“本当に継がれるべきもの”を証明する物語。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました
ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。
ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。
王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。
そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。
「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
【完結】氷の令嬢は愛を請わない - 捨て子の『義妹』に愛も家族も奪われたマリーローズの逆襲
恋せよ恋
恋愛
銀髪紫眼の美貌の侯爵令嬢、マリーローズ。
完璧な淑女に育った彼女だったが、母は捨て子ジュリエットを寵愛。
婚約者の公爵家嫡男アレックスも、友人も、次々に奪われる――。
家族に裏切られ、すべてを失った彼女が下した決断は、
家族を見かぎり、国を捨て、自らの人生を取り戻すこと。
理不尽な悲恋を力に変え、運命をひっくり返す令嬢の逆転劇!
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる