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──タナ国、王城跡。
クリスタ達一行はキシュートとの話し合いが終わり次第、王城跡に移動を始めた。
闇夜に紛れて周囲を注意深く確認しつつ、跡地に向かう。
その道中、獣などに襲われる事はあったがそれはキシュートが言っていた得体の知れない物ではなく、普通の獣だった。
そのため、護衛騎士が難なく獣の対応をしてクリスタ達は怪我を負う事も、無駄な魔力の消費も起こさずに王城跡に到着した。
「──ここにも古代文字が刻まれているわね」
城壁の部分に到達した時にクリスタがふと足を止め、壁をそっと自分の指先でなぞる。
「そうなんです、クリスタ様」
「この間ギルが見せてくれた城壁の欠片はほんの一部分だったのね。この場所では広範囲に古代文字が刻まれているわ」
クリスタのすぐ背後からギルフィードがクリスタと同じように城壁に刻まれた古代文字に視線を向ける。
キシュートが火魔法の灯りを二人の近くに移動させながらクリスタに話し掛けた。
「クリスタは見覚えが? まさか解読出来るのか?」
「──まさか! 流石に解読は出来ないわ。ギルとも話していたのだけど、ティータ帝国から同じ古代文字が刻まれた文献を献上された事があるの。だから先日帝国の知り合いに手紙を送っておいたわ。何か知っていてくれれば良いのだけど……」
「手紙を? もう送って下さったんですね、クリスタ様。どなたにお送りしたのですか?」
「昔外交で赴いた際に仲良くしてくれたマルゲルタ王女に送ったわ。王族だから、王族にしか伝わっていない事を知っているかもしれないわ」
けろり、と帝国の王女に手紙を送ったと告げるクリスタにギルフィードもキシュートもぎょっとしてしまう。
「……そう言えば、そうでしたね……」
「ああ……クリスタは昔から他国の人間と距離を詰めるのが上手いからな……」
ギルフィードとキシュートはお互い顔を見合わせて苦笑してしまう。
先程クリスタは簡単に口にしたが、北大陸のティータ帝国は北大陸の中で最大の国土を持つ強国だ。
クリスタ達の国、ディザメイアにも引けを取らない強大な軍事国家だ。
魔法士の総人口もディザメイアより多く、また力の強い魔法士も多い。
そんな帝国の王女に気軽に手紙を送り、やり取り出来るのはクリスタを含め数少ない。
クリスタは二人が若干引き攣った笑みを浮かべているのに気付かず、ケロリとしていて「直ぐにマルゲルタから返事があるといいけど」などと呑気に口にしている。
そんなクリスタを横目で見つつ、キシュートはギルフィードに向かってぽそりと呟いた。
「今後、我が国は外交問題で痛手を食らうな……」
「……キシュート」
ギルフィードが何とも言えない表情を浮かべ、キシュートはひょいと肩を竦めた後、クリスタの下に歩いて行った。
古代文字が刻まれていた城壁を過ぎ、王城跡に足を踏み入れる。
ぽつり、ぽつりと事切れている人間の体が視界に入る。
その者達の身に付けて居る衣服はクリスタやギルフィードの国では見慣れないデザインと、素材を使用しているようで。
その事から事切れ、地面に転々と存在しているそれらはギルフィードやキシュートを襲った敵側の人間だと言う事が分かる。
「──……」
周囲を見渡しながら「それでも」とクリスタは胸中で呟く。
(事切れている人の数が多いわ……。それだけ、この国の城には隠したい何かがあった、と言う事なのかしら……?)
城の内部に入り、廊下を歩いているとクリスタは突然前方に巨大な穴が空いているのを確認して目を見開いた。
魔法か何かで床をぶち抜いたとでも言うようなその惨状に、クリスタは自分の隣を歩くギルフィードをついつい見やってしまう。
「……」
「ギル」
クリスタの視線を受け、顔を背けたギルフィードにクリスタはじっと見詰めたままギルフィードの名前を低く呟く。
すると、びくりと肩を震わせたギルフィードがおずおずとクリスタに顔を向けて眉を下げ、何とも情けない表情を浮かべる。
「……その、キシュートを助けるために仕方なく」
「でも、こんな広範囲を破壊してしまったら……古代文字などが刻まれていたらそれも破壊してしまっていた可能性があるのよ?」
「……すみません」
思い切りの良いギルフィードに呆れてクリスタがそう告げると、ギルフィードはしゅんと項垂れてぽそぽそと呟く。
二人がそんなやり取りをしている間にキシュートは魔法を発動してその穴からさっさと階下に降りてしまっており、二人の護衛達もキシュートに続いて降りてしまっている。
「──あっ! クリスタ様、皆が先に行ってしまってます……! 一先ず降りましょう……!」
「あっ、ちょっと……っ」
話を変えるようにぱっと表情を明るく変化させたギルフィードは、魔法が使えないクリスタをぱっと横抱きにして魔法を発動する。
とんっ、と軽やかに床を蹴って自分が作り出した大穴に飛び込んだギルフィードに、クリスタは自分の額に手を当ててしまった。
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