【完結】好きにすればいいと言ったのはあなたでしょう

高瀬船

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食堂へと向かいながら二人は今日明日の事を話し始める。

「ウルミリアお嬢様、本日は午前中に昨日の医者が薬物の鑑定結果を報告に参りますので、同席をお願い致します。午後は、私が一日他の仕事でお側を離れますのでなるべく邸の中でお過ごし下さいね」
「ええ。分かったわ。今日、明日とジルが不在になってしまうのよね……何をして過ごそうかしら」
「──久しぶりにお体を動かすのもいいかもしれませんよ」
「そうね。少しだけ体を動かそうかしら」
「畏まりました。それでは手の空いている騎士数人に声を掛けておきますのでご存分に」

今日の予定を粗方確認し終えると、タイミング良く食堂に到着した。






朝食を食べ終えて、ゆったりと時間を過ごしていると、昨日ウルミリアを診た医者が到着した。

応接室に通した、と報告が上がったのでウルミリアはジルを伴い応接室へと向かう。
ウルミリア達が応接室に入ると、まだウルミリアの父親である侯爵は来ておらず、中でソファに座っていた医者が挨拶をして来た。

「ウルミリア・ラフィティシア嬢。こんにちわ。すっかり良くなっておりますな。良かったです」
「先生こんにちわ。昨日は急にお呼びだてしてしまい申し訳ございません、ありがとうございます」

医者は顎に蓄えた真っ白な髭を軽く撫でながら「なんのなんの」と瞳を細めて笑う。

医者、フランク・バークミラーは長年侯爵家の人間を見てくれている。
ウルミリアが幼少の頃にジルを助けた時、怪我の治療を行ってくれたのも目の前に居るフランクである。
どこかの貴族の血をひいているらしいが妾腹の子だったらしく、貴族籍は持っていない。

にこりと笑うと目尻に深く皺が刻まれて、くしゃっとした笑顔になるのだが、ウルミリアは何故だかその笑顔を見るととても和む。

「ウルミリアお嬢様、災難でしたな。あの薬物──薬草は、粘膜から摂取してしまうと全身に回ってしまう……あっという間に体が痺れてしまい、怖い思いをしたでしょう」
「──ええ、始めは恐ろしかったですが、すぐに我が家の使用人達が動いてくれたのが分かりましたし、ジルがすぐに側に来てくれたので心強かったですわ」

ウルミリアがちらり、とジルへ視線を向けるとウルミリアの言葉にとても感動した様子のジルが視界に入る。

(──けれど、あっさりと私に薬物を盛られたと言う事は反省しなさい)

じとっと瞳を細めてジルを肘で小突くウルミリアと、慌てるジルを見てフランクは更に瞳を細めて見つめる。



そうしている内に、侯爵が部屋へとやって来て世間話が終わるとフランクが昨日の痺れ薬を鑑定した結果を報告し始めた。

「さて……。ウルミリアお嬢様のお茶に混入された薬物ですが、確認した所痺れ薬の効果のみを持つ薬草、ピナル草の成分が抽出されました」
「やはり、ピナル草だったか。我が国で最も多く使用されている薬草だな」

侯爵の言葉に、フランクがこくりと頷く。

「ええ、医療用に広く浸透している薬草ですので効果も知れ渡っておりますな。皆様もご存知の通り、ピナル草には痺れの効果以外、他の効果はございませんので、ウルミリアお嬢様が摂取した量も少なく、直ぐに吐き出したのが効果的だったのでしょう。心配はございませんよ」

フランクの言葉に、室内に居た面々がほっと安堵の息を付く。

恐らくこの薬草だろう、と言う想像は出来ていたが改めてピナル草だと報告をしてもらって安心出来た。
もし、万が一他の薬物を使用されていたら、後から人体に影響の出る物だったら、と言う不安が頭の隅にあった。

だが、それも今回フランクから受けた報告で杞憂に終わった。

「連日来てもらってすまないな。馬車を出すからそれで帰宅してくれ」
「おやおや、本当ですかな侯爵様。それは有難い。最近どうも年のせいか腰が辛くて……とても助かります」

侯爵はフランクを見送る為にソファから立ち上がり、フランクもゆっくりとそれに倣う。

ウルミリアとジルも慌ててその場に立ち上がるとフランクへとお礼を告げた。

「ウルミリアお嬢様、ジルさん。それでは私はここで失礼致します」
「ありがとうございました、フランク先生」

ウルミリアもお礼を告げ、ジルも頭を下げると侯爵とフランクはそのまま談笑しつつ部屋から退出した。
ウルミリアの父親がそのまま侯爵邸の門まで送るのだろう。



「──ピナル草ですと、誰でも至極簡単に入手出来ますね……子供でも購入可能な程、街中では至る所で売っている……」
「ええ。購入場所はまあ……、いいわ」
「畏まりました。それでは私はこれからお側を離れますので、ウルミリアお嬢様は絶対に外に出ませんよう」
「分かっているわ、さっさと行って来なさい」

ジルの言葉に、ウルミリアはもう聞き飽きたと言うような表情を浮かべると、そのまま追い払われる。



ジルの午後の仕事はテオドロンの行動確認である。
公爵邸で過ごしているのか、それとも街で過ごしているのか。

昨夜、公爵邸を確認しに行った時は侵入経路しか確認出来なかった。
腐っても公爵邸。護衛達の仕事は完璧だ。

だが、それでも何ヶ所か侵入出来そうな場所があった事が分かった。
その場所から侵入し、テオドロンが邸内に居るかどうかを確認すればいい。

ジルはウルミリアに頭を下げると応接室から出て行った。
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