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学院の授業が全て終了し、鐘が鳴ると同時にルーカスは席を立つ。
(……顔を見たくない、と言われたが……ブリジットと話をしなければ……。このままブリジットの言う通り、時間を置いてしまったら……俺たちは……)
ルーカスはブリジットの教室に行く事を一瞬だけ躊躇ったが、その躊躇いをすぐに捨てて教室から出て行く。
きっとブリジットは今は会いたくないだろう。話もしたくないだろう。
けれど、今話をしなければ本当に自分達の仲が壊れてしまう、とルーカスはどこか確信めいた予感を感じていた。
急ぎ足で廊下を進んでいたが、次第に駆け出していて。
ブリジットの教室に着く頃にはルーカスの息は昼食の時と同様、上がっていた。
「ブリジット──……」
教室の扉を開けて、ブリジットの席を見たルーカスはそこで言葉を失う。
いつもその席に居たブリジットは、鐘が鳴ってからまだ間もないと言うのに既に姿が無くて。
教室内で帰り支度をしていた学院生達が遠慮がちにちらちらとルーカスに視線を向けてくるが、ルーカスはそこから動けなかった。
まるで硬直してしまったかのようにその場から動けないでいるルーカスの下に、一人の令嬢がやって来る。
「ラスフィールド卿……」
「──っ、ティファ、嬢」
ルーカスに声を掛けて来たのはブリジットの友人であるティファで。
ルーカスが掠れた声でティファの名前を呼ぶと、ティファは眉を下げて何とも言えないような表情で言葉を続けた。
「ブリジットは、一つ前の授業が終わって……早退しましたわ。……その、暫くの間ブリジットをそっとしておいてあげて下さいませ」
◇◆◇
一つ前の授業が終わった後、早退をしたブリジットは既にアルテンバーク侯爵邸に帰って来ていた。
普段より早い時間に帰って来たブリジットに驚きはしつつ、使用人達はいつものように「お帰りなさいませ」と声を掛ける。
ブリジットを迎えに行き、学院から共に戻って来たブリジットの専属メイドは、困ったように眉を下げながらブリジットの後を歩く。
「ニア。お父様の所に向かうから、先にお伝えしておいて。私は部屋で着替えてからお父様の書斎に向かうわ」
「か、かしこまりましたお嬢様──」
ニア、と呼ばれたメイドはハラハラとしながらそれでもブリジットの命に従う他ない。
ぺこり、と頭を下げてから急いでブリジットの父、アルテンバーク侯爵が居るであろう書斎に急いだ。
書斎に向かうニアを見てから、ブリジットは自分の部屋に向かうために階段を上がり、廊下を進む。
部屋に入り、学院の制服から邸内で過ごすための簡素なドレスに着替えたブリジットは、父親の居る書斎に向かうために部屋を出る。
(婚約解消なんて、簡単には出来ないけど……。私の気持ちをお父様には伝えておかないと)
ブリジットは、怒りが既に頂点まで達している。
そしてブリジットはその激情のまま、ルーカスとの今後について自分の気持ちを伝えるために強く強く一歩を踏み出した。
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