この恋は無双

ぽめた

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十章

願う未来

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「その首と脚につけられた輪が魔力を封じる術具なんですよね。イグニシオンさんから聞いてます。
 それがあるからタリュス君は今、精霊の力を振るえない。
 なら危険なことはないですし、普通の男の子として扱います。
 まあ例え魔力が振るえても怖いなんて思いませんけど」

「私も同じです。
 タリュス様の事は僭越ながら、今でも変わらず弟のように思っていますから。
 本音を言えば、事件を起こす前に……会いに来てほしかった。
 魔術の心得も何もありませんが、そんなに思い詰める前に助けを乞うて欲しかった。
 私だけではないです。
 陛下やブライアン団長達は今でも、あの時貴方の身柄を確保出来なかったことを、もっと何か出来なかったのかと悔やんでいます」

「マルーセル、ニファ……ありがとう。
 タリュスをそんなに思ってくれてたんだな。
 本当に、感謝してる」

 ルーナが二人に礼を言うと、泣き出しそうな笑顔をオレに向け、そっと頭を撫でてきた。

「かけがえのない友人がたくさんいて良かったな」

「……やめろよ」

 頭を撫でる手を力なく払いのけると、ふふっと二人が楽しそうに笑う。

「あら反抗期ですか?新鮮な反応ですねぇ」

「イグニシオン様に撫でられる度にそれは嬉しそうにしておられましたのに。
 子犬のようで可愛らしかったのですけど、成長の証ですね。
 私の弟も突然そのように変わりましたから。
 懐かしいですが何だか寂しいです」

 大人の女性二人に微笑ましがられて、居心地悪く顔をしかめてオレは視線を反らす。

「タリュス君、ルーナさん。
 困った事があれば今度こそ、相談して下さいね。私もある程度の権限を持ってますから、力になれます。
 ……タリュス君に、陛下も王妃もお会いしたがってましたが……周囲が反対してまして。
 今はちょっと難しいんです。
 そこだけはもう少し時間を下さいね」

「……いいよ。無理しないで。オレは別に……」

「タリュス様、陛下は昔、イグニシオン様に何かあればあなたの身を引き受けたいと仰っておられましたよね。
 王妃様から教えていただいたのですが、今もお気持ちに変わりは無いそうです。ですから」

「何でだよ、オレはっ……もう昔と違うって言ってるだろ!
 これだけ罪を重ねてるんだぞ。国をめちゃくちゃにされて迷惑したんだろ!?
 あの頃みたいに綺麗じゃない、汚れてしまったオレを、どうして怖がらないんだ!
 なんで皆は変わらない!?」

 労ってくれる優しさが、まるで見えない刃のように突き刺してくるようだった。

 お前のせいで、お前なんて産まれて来なければ。そんなふうにいっそ罵倒してなじってくれたほうがまだましだと痛切に思う。

「それはタリュス君の傷に、みんな身に覚えがあるからですよ」

 マルーセルの漆黒の瞳が優しく微笑んで、オレは鼻白む。

「こうやって外面は綺麗に着飾っていても、綺麗な過去ばかりじゃない。
 あなたとおんなじです。
 私だってタリュス君位の年の頃は、怒りを抱えて我慢出来なかった時期があって。
 お恥ずかしいですが理由なく人に牙を向いたり、物に当たり散らしたりもしました。
 自分を理解してくれない世の中を不条理だと思うこともあったし、屈託できない自分にうんざりしたことも覚えてます。
 でもそこで立ち止まらずに踏ん張って考えて、後悔して反省して改めて。
 そうやって歩いてきたから、タリュス君の鬱屈した思いに共感も出来るんですよ。
 ……タリュス君は慈愛に満ちた優しい人です。
 本来の貴方なら踏みとどまれたはず。
 だけど人並み外れた能力に恵まれていたがゆえに、感情のまま、世界を巻き込むほどの事件を起こすこともできてしまった。
 そうしなければ自分を保てない位の、余程の事情があったんでしょう?
 私達大人が当時の事を、タリュス君ではなく自分を責めるのは、大人が止めるべき事だったと思うからですよ。
 まあ実際、魔力を使われたら一溜りもないんですけどね」

「……タリュスの力は恐らく、世界中探しても誰も敵わない。わたしとサークが一瞬でも、居所すら掴めなかったんだ。
 止められなかった責を負うなら私たち両親だ。
 ……迷惑をかけて、ごめん」

「ルーナ様……」

 頭を下げるルーナ。

「やってしまったんですから、もう仕方ないですよ。
 これから償えばいいんです。
 実際タリュス君はこうして反省して、自戒してるんですしね」

「そうですよタリュス様。
 いつか城にもいらして下さい。
 皆貴方に再会出来る日を楽しみに待っていますから」

 マルーセルとニファの優しい笑顔に、どうしていいかわからなくなる。

 罪を償って許される日がきたら。

 またあの薔薇の咲き誇る庭で笑える僕になれるだろうか。

「…………うん」

 まだ目指せない未来。

 けれど辿り着けたらいい。

 そう願って、僕はようやく、うすい微笑みを浮かべて頷いた。



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