この恋は無双

ぽめた

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閑話

乙女に捧げる恋の花④

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 どん、とワインの瓶がテーブルに置かれて私は目をしばたいた。

「今夜は飲みますよ!
 ニファさんも飲みますよー!」

 休日前、王都の賑わう酒場。

 対面に座るマルーセル様はもう酔っているような勢いで、ぐいっとグラスを差し出してきた。
 カチンと私はグラスを打ち合わせつつ、首を傾ける。

「マルーセル様。これは何の会ですか?」

「……玉砕おめでとう私!とニファさん色々とありがとうございましたの会!です!」

 ああ、と頷いてワインをひとくち頂く間に、麦酒のようにごっごっと小気味良くワインを飲み干すマルーセル様。

 ディスティア国の来賓もお帰りになり、イグニシオン様達も城を去った後のこと。

 週末に飲みませんかとマルーセル様に誘われて今ここにいる。

「玉砕ですか……残念です。
 イグニシオン様達の様子がお変わりなかったので、そうかとは思っていたんですが」

「うう、ニファさんにとってもお世話になって勇気もらえたから……会話の内容とかー頑張ったんですよ私ー……
 も、ものすごく頑張って勇気だして、お嫁さんにして欲しいって伝えたんです……なのにあの頑固者……」

「マルーセル様、何か食べてから飲んだ方が」

「いいんです酔いたい夜なんですから!」

 内心、いつの間にそこまで真っ直ぐな想いを伝えていたのだろうと驚いた。
 今度こそと挑んだ恋が成就しなかったのだ、自棄酒も仕方のないことだけれど。

「でも早すぎますよ。もう少し押さえては」

「飲まなきゃやってられないんですよぅ」

 もうほんのり色づき始めた頬を膨らませて、自分でワインをグラスに並々と注ぐマルーセル様。

「私の力不足です。
 新作の口紅も効果がなかったのですね……
 申し訳ありませんでした」

「あの人が頑固すぎるせいですから!
 俺じゃ幸せにできないとか、自分より私を大切にしてくれる人を探せだなんて言うんですよ?
 ニファさんはなんっにも悪くないです」

 そうは言うものの、私には後ろめたい事がある。

 イグニシオン様に長年の想いびとがいることを、彼女に最後まで話せなかったのだ。

 もしかしてマルーセル様が、イグニシオン様の中でその女性を越えないとも限らないと思ったから。
 余計な情報を与えて、彼女のまっすぐな良い部分が損なわれるのを心配したのだけれど。

「⋯⋯手強い相手でしたね。
 わかりました飲みましょう。とことんお付き合いしますよ」

「はい!酒樽ぜんぶ空けて帰りましょうね!」

「そこまではちょっと」

 あのイグニシオン様が想う女性なのだ。さぞかし素晴らしいご婦人だったのだろう。けれど。

「マルーセル様だってこんなに可愛らしいのに」

「え、なにか言いました?」

「いえ。
 ⋯⋯仕切り直しましょうか」

「はい!」

 顔も知らないその方に、マルーセル様が敵わなかったのが急に腹立たしくなって、私は改めてグラスをカチンと打ち鳴らした。





 二人でアースリング領までの旅の話や普段の愚痴、果ては幼い頃の思い出なんかまで。
 酔いに任せて話尽くして店を出た頃には、大分遅い時間になっていた。

「はぁー⋯⋯ニファさん、おさけ、つよすぎですよぅー⋯⋯」

「そうですね、父が酒豪だったので似たのでしょう」

「ああ、きしさま、だったんですよねー⋯⋯
 あ痛」

「暗いので気をつけて下さい」

 ふらふらと歩くマルーセル様がつまづきそうになるのを支えながら、城の宿舎に向かってゆっくりと歩く。

 今夜は晴れていて月も明るい。ちらちらと瞬く星がとても綺麗だ。
 夜空に見とれていた私の隣で、はぁとマルーセル様が切ない溜め息をつく。

「なんかもう⋯⋯わたし、恋とか向いてないきがしてきました⋯⋯」

 しおしおと俯きかけたマルーセル様のほっぺたを、咄嗟に私はつまんで上向かせた。

 柔らかすぎる。赤ちゃんか。

「なんて事を仰るんですかマルーセル様」

「い、いひゃい」

「いいですか?マルーセル様はとても可愛いらしいです。大雑把で大胆なのかと思えば繊細な所もあり、その差に驚かされるのがなんて面白いことか。
 今回は、そうですね⋯⋯難敵すぎました。
 もう少し時間があれば、策も練れたのですが」

「さく?」

「ええ。敵を誘い込み追い詰め罠にかけ⋯⋯
 父に仕込まれたあれこれを試したかったです」

「なんか、ニファさんもれんあいとか、あれでふね⋯⋯」

「私はいずれ家の決めたお相手に嫁ぐ予定ですので。ご心配には及びません」

「え、だれです」

「第六騎士団のハリストです。幼馴染みでして。
 彼の家は家格が下なのですが、父同士が仲が良くてですね。
 ハリストは剣の腕がさほどではないのですが、稀な魔力の使い手に目覚めたので、父は面白が⋯⋯
 いえ、今後が楽しみになったと期待を寄せているんです」

「えええ⋯⋯ニファさん婚約してたんですかぁ。
 ますますわたし、おいてかれちゃいますね⋯⋯」

 足を止めて、またしょぼんと俯くマルーセル様のほっぺたを、今度は両手でむにっと挟んで持ち上げた。

 やっぱりいい手触り。ずっと触っていたい。

「逆に言えば、婚約はもう決まっていたので、私にはお相手を探す事すら出来なかったんです。
 まあ彼以上に面白い男性がいたなら逆らいもしましたが、案外悪くない奴なので不満がなかったというか。
 ですから自由に心のままにお相手を探せるのは、私にとっては憧れなんですよ。
 マルーセル様は望みのままに、焦らず幸せな結婚をなさってください」

 勝手に託すのはどうかと思うけれども。

 本当に好きな相手と腕を組んで、純白のドレスに身を包み、幸せに笑う友人を祝福したいから。

「私はいつでもマルーセル様を応援していますよ」

「ニファさぁん⋯⋯」

 ずれた眼鏡の奥で、漆黒の瞳が潤んだ。

 酔いでほんのりと色づいた顔が、こどもみたいにくしゃりと歪むのが可愛くて、私はつい微笑んでよしよしと頭を撫でてしまう。

「大丈夫ですよ。私がついてますから」

「はい⋯⋯」

 ぐしぐしと両手で目元を拭うマルーセル様の背中を撫でていると、前方から人の足音が近づいて来た。

 こんな時間に外に居るのは酔客が多い。
 対してこちらは女性二人。

 私はそれとなく、肩掛け鞄の中に手を差し入れて目的のものを掴む。

 鞄の底に隠している護身用の短剣の柄だ。

 危害を加えてくるような輩では無いことを願いながら、足音の主を見据えた。






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