霊飼い術師の鎮魂歌

夕々夜宵

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第6章 剣士学校

第47話 決闘の印

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   「エスプレッソひと…あ、いや、4つで」
   「バナナオレよこせ。」
   ソルトとタイガ……と取り巻きの3人は剣士学校のキャンパス内にあるカフェへと足を運んでいた。
   「てかタイガ・アーガイル。お前どんだけエスプレッソ飲むんだよ。4つとかカフェイン中毒かよ。」
   「後ろを向いてから言え。」
   タイガの言葉にソルトは従順に振り返る。するとそこには目をギラギラ輝かせた例の取り巻き3人がいた。流石にこれには空気の読めないソルトでも察せたのだ。奴らは目線で『同じものを飲む』と語っている。
   「さっすがタイガさまぁ!私達の飲みたいものまで頼んでいただけるなんて!光栄です!それに比べてそこの腐れ金髪は、何?バナナオレとかちょーウケるんですけどー。あんたそんなんだから髪黄色いんじゃない?」
   「うるせぇよストーカー。」
   「ま、まぁまぁ。落ち着けよ二人とも。んで、ソルト・ブレイクロック。俺に用とはなんだ?」
   「決まってんだろ。決闘の申し込みだ。」
   「友達申請かと思ってたぜ。そんなに平和じゃねぇってか。」
   「あぁ、残念ながらな。」
   「良いだろう。俺もちょうどお前が気になっていた。順位も実技で被ってる。どっちが上か下か、決めようじゃないか。」
   「その心意気は気に入ったぜ。伊達にAランクやってねぇって訳か。」
   「当たり前だ。」
   「熱くなろうじゃねぇの?タイガ・アーガイル。」
   「どっちが先に灰になるかってとこかソルト・ブレイクロック。」

   「「俺が!!お前を倒しt…「お待たせしましたー。エスプレッソ4つと、バナナオレ一つでーす。ごゆっくりどうぞ~」

   「…………。」
   「…………。」
   空白。机に並べられたドリンクに口をつける。
   ズズズズ………。
   「今日の夕方でいいか?」
   「あぁ、いいぜ。バナナオレうま…」
   「じゃあ、そゆことで」
   
   「ちょっと待ちなさい!!」
   「んだよクソアマ。今いい感じに話が丸まってたじゃねぇか。黙ってエスプレッソ飲んどけよ。」
   「あんた如きがタイガ様と決闘なんて許されるとでも思ってるの?タイガ様に立ち合いたければ私達を倒してからにしなさい。」
   「はぁ?んなめんどくせぇ事しねぇっての。」
   「あらぁ?女の子に負けるのが怖いのかしら?」
   「あぁ?」
   取り巻きの内の1人にそう言われると、ソルトは額に青筋を浮かべる。
   「随分と偉そう言ってくれんじゃねぇの女。俺はテメーみたいなやつに一番腹が立つぜ。」
   「あっそ、そんで?どうするの?」
   「こいよ、ぶっ飛ばしてやっから」
   「態度だけはデカイのね。」
   「夕方に武道場で待っててやる。タイガ・アーガイルと愚行な仲間達ちゃんよ。」
    そう言ってソルトは手に持ってたバナナオレを一気に飲み干して容器を握りつぶす。手近なゴミ箱に投げ捨てると、そのまま何も言わず去っていった。
   「何よアイツ腹立つ!!」
   「無駄にカッコつけてるのもムカつくわ!」
   「でもバナナオレの飲み方カッコよかったです!」
   ソルトが去った後、タイガの取り巻きの3人はキーキーと声を上げる。タイガはそんな事を気にする事もなく、容器に少しだけ残っていた嗜好飲料を飲み干した。
   「…(ソルト・ブレイクロックか…)」
   ソルトは見た感じでは、とても単純な奴だ。煽れば怒るし、それと同じく褒めれば頭に乗るガキ傾向の強い人種なのだろう。
   だが、ここで奴をガキ扱いにするのは、大きな誤算と言える。
   奴は。ソルト・ブレイクロックは見た目と行動ほど頭が悪くない。奴はそう振る舞っているだけだ。
   「…(勝てるかわかんねぇな。アイツに。)」
   タイガはそう言って、口元に微かな笑みを浮かべた。

    ◇

   太陽が頭上を通りすぎたのも随分と前になる。傾いた陽は燃えるように真紅に染まりその身を沈めていく。カチャカチャと装備の音がソルトの耳に届くが、ソルトは慣れたことだと、気にする事もないまま武道場の中央に佇む。
   「おいでなすったか。」
   ソルトがそう言うと、夕暮れに染まる紅い道を歩く四人の姿が見える。遠目に見てもシルエットでわかる、流線型をした鎧を携え、3人の丸みのある線の奴は腰に鞘を刺し、真ん中を歩く青年は背中に巨大とも形容できる剣を担いでいた。
   「覚悟はいいかしら。」
   「こっちのセリフだぜ。」
   「鎧をつけてないとか、あんた舐めてんの?」
   「はっ、バカか。鎖帷子なら体にまいてるぜ。」
   一歩踏み出した細い剣が特徴的の女性はソルトを鼻で笑う。
   そして両者。共に距離をとり、その鞘に納められた木刀を取り出した。
   決闘。主に武道場でやる際の決闘では真剣を使う事は禁止されている。理由は相手を傷つけないためだ。実に単純明快だが、元々組手や稽古など、実際の戦を型とした物なので、傷つける目的ではない。
   だからこの学校では、自分が持つ剣と全く同じ形、質量を持つ木刀が与えられる。
   だが、そんな決闘の中にも例外がある。それが闘技場での決闘だ。
   この決闘は本当に殺そうとしてる奴らがやりあう決闘である。入学して間もない頃はこれを知らず。格上の奴から決闘を半ば強制的に受けさせられ殺されるという嫌な話も無きにしも非ずだ。
   「そろそろいいかしら。」
   「………。」
   ソルトが正面で剣を構えようとする女生徒を頭の先から爪先まで見る。そして一言。
   「足りねぇな。」
   「は?」
   「3人一気にかかってこいよ。」
   「はぁ!?あんたほんとになめてんの!?」
   ソルトの言葉に女生徒は激昂するが、ソルトはどこ吹く風と言わんばかりに笑い飛ばした。
   「俺が負けたら中庭で裸になって踊ってやんよ。なんなら"女子の前でカッコつけて2秒で負けたださ男"なんて張り紙だしても構わねぇぜ?」
   「言ったわね。後悔するわよ」
   「わかんねぇのか?俺と決闘しようと思った時点でお前らが後悔するんだよ。」
   女生徒の合図で取り巻きの2人が一歩、前へ出る。2人とも鞘から剣を抜き構える。それと同時に、ソルトも構えをとる。
   「ルールを確認する。勝敗の決定は初撃。有効打突と思われる太刀が一撃当たった時点で負けとなる。異論は?」
   タイガの声に四人は言葉を返さない。これが異議なしという、剣士学校での暗黙の了解だ。
   「細剣。Aランク剣士、レゼ・セロニア。」
   「刺剣。Aランク剣士、サルカ・セロニア。」
   「た…短剣…Aランク剣士、ハナ・セロニアです。」
   「なんだよ、姉妹かよ。揃いも揃ってストーカーしやがって。片手剣、Aランク剣士、ソルト・ブレイクロック。」
   全員、決められた型の構えを実行。そのまま3秒間の沈黙の果てに、決闘が開始する。
   「3……」
   時が経つのが暫時、遅く感じる。ソルトは相手の筋肉の流動、力の入れをその間しっかり見る。
   「2……」
   気を殺し、情けを殺す。そこにあるのは修羅の血だけだ。
   「1……」
   一際強く剣の柄を握る。ギリリと言う音が耳に届き、呼吸の間隔を狭める。

   「……はじめ!!!」

   刹那、床を蹴る音が同時に無音の空間を裂く。突きに特化した刺剣と細剣は思った通り突きのモーションを取る。短剣を持つ乳女…ハナは後ろに回り込むスタイルだろうか。いざ始まってからというもの、ソルトは悔しいことに、3人の目が剣士の目になっている事を認めた。
   だからこそ。
   「……つまらねぇな。」

   "教え込まれた型通りに剣を捌く奴ら"を見ていると滑稽で笑いが止まらなかった。
   幾重にも重なる木刀の空を裂く音がソルトの耳元を通過する。三対一というハンディを背負っていることなど思えない様な動きだった。
   「何笑ってんのよ。」
   「あめぇよクソアマどもが。そんな動きで俺に一撃与えれるなんて考えてんじゃねぇよ。」
   「なに言ってん…のよ!!!」
   レゼが怒りに身を任せ細剣を大きく振るう。ソルトはそれを待っていたと言わんばかりにイタズラな笑みを浮かべて思い切り屈んだ。
   「しまっ…!!」
   思い切り振るうとそれ相応の力で遠心力が働き、身体が持っていかれるのだ。ソルトはそこを狙う。
   「レゼ!!スイッチ!!」
   瞬間、庇うように右脇から視界に映り込む。サルカと名乗った少女は次こそはと、音速の突きを放とうとする。だがそれをもソルトは読んでいた。
   ソルトはサイドステップの行動をとる。この行動にサルカは驚愕する。だが、そんなサルカをさらに驚愕させる事態が起きることになる。

   ソルトがサイドステップを取ったあと、ソルトの身体に隠れて見えなかったが、背後にハナが攻撃のモーションを取っていたのだった。
   「そんなっ!!!」
   「う、うそっ!?サルカちゃん!?」
   攻撃をしようと意識して繰り出した動きは止めることは出来ず、サルカの太刀筋はハナに当たり、ハナの太刀筋はサルカにヒットする。2人とも技術がうまい上、確実に有効打突となっていた。
   「どうだ?三対一で負ける気分」
   「っ!!」
   横に回り込んだソルトはレゼの脇腹へと片手剣の攻撃を叩き込む。鎧を揺るがす衝撃音とともにレゼの身体はくの字に曲がり飛ばされる。
   「安心しろ。救いの手だけは差し伸べてやる。これがソルト・ブレイクロックだ!!」

   「勝者、ソルト・ブレイクロック。」
   タイガは静かに息を吐くように、この言葉を紡いだ。
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