荒野のカップメン

涼格朱銀

文字の大きさ
18 / 21

第18話 カップメン荒野を裂く・後編

 カップメン工場の中央にある貨物用の駅は、いまや戦場と化していた。そこかしこでカップメンが飛び交い、テーブルが敷かれ、カップメンの作り合いが起こっている。

 かつおダシの香りが充満する中、汽車から一人の男が駅へと降りてきた。黒ずくめの服装をした男達がカップメンを作り合う中で、その男だけ真っ白の服装をしていた。
 白のキャトルマンには緑の羽根があしらわれ、土色のポンチョを羽織っている。
「機関室に伝えろ、お湯をどんどん沸かせ! それと、調理済みのカップメンは食堂車に運ぶんだ!」
 白キャトルマンの男は、仲間に指示を飛ばす。

 そのとき、男に向かってカップメンが2つ飛んできた。男はそれぞれ片手で受け止める。
「ショットガン・ジョー! ブラウン様を裏切るのか!」
 見ると、黒ずくめの男が二人、こちらに水筒を突きつけている。
 白キャトルマンの男――ショットガン・ジョーは、口元に笑みを浮かべて、言った。
「おやおや、おかしな話だな。ここはフォックスの工場だぜ。フォックス社を襲撃したら、どうしてキリングの野郎を裏切ることになるんだ?」
 彼らが話をしている間にも、ショットガン・ジョーの配下が彼らの間にテーブルを置き、戦いの準備を調えている。
 テーブルの上に投げ付けられたカップメンを置き、ショットガン・ジョーは言った。
「御託はいい。かかってこいよ、二人とも」
 男達はテーブルにやって来ると、それぞれにカップメンを置いた。テーブルに置かれたカップメンは4つとも同じ。フォックス社のきつねうどん。丼型の5分、お湯の目安410ml、1ピース。

 3人はほぼ同時に動いた。ショットガン・ジョーは2つあるカップメンをそれぞれ片手でふたを開け、粉末だし袋を取り出す。
 だし袋を持った手を交差させたかと思うと、すでに封は切られており、すぐさまそれをカップメンに投入する。
 その時点で黒服の男達も、それぞれだしの封を切り、カップメンに投じようとしているところだった。
 一対一の勝負なら、この時点で黒服達の負けはほぼ決まっている。しかし、二食分のカップにお湯を注ぐとなると話は別である。見たところ、ショットガン・ジョーは一丁しか水筒を持っておらず、近くにやかんもない。

 ――そのとき、ショットガン・ジョーが背中の辺りを探り、何かを取り出した。バレルが水平にふたつくっついた、奇妙な形状の水筒である。
 ショットガン・ジョーはそれぞれの水筒の口をそれぞれのカップに向けると、水筒の底を叩くような動作をした。すると、水筒の中から勢いよくお湯が飛び出し、あっという間にお湯注ぎを完了してしまう。

「このカップうどんは、だしっ気がなくて最低だからな」
 黒服が必死にお湯を注ぐのを尻目に、ショットガン・ジョーは悠々とふたに割り箸を置いた。
「このお湯には根昆布だしを混ぜてある。いい香りだろ?」
「なっ……なんなんだその水筒は!」
 ようやくお湯を注ぎ終えた黒服の一人が叫ぶ。
 ショットガン・ジョーは呆れた顔をして言った。
「水平二連ショットガン水筒だ。……俺の異名を知ってるんだろ?」
 そう言いながら、ショットガン・ジョーは水筒のバレルにあるボタンを押した。すると、水筒の底からカートリッジのようなものが排出される。
 空のカートリッジは懐に収め、代わりにお湯が満たされたカートリッジを取り出し、装填する。

 そのとき、背後から声がした。
「元気そうだな、JJ!」
 ショットガン・ジョーは振り返らずに応える。
「やあ、ラクーン。君も元気だったかい?」
「ラクーンはやめてくれ。世間ではミスター・サイモンで通ってるんだ」
 ショットガン・ジョーは鼻で笑った。
「バレバレの正体をなぜ隠すんだ? まあいい。ここは俺達で引き受けるから、さっさと保安官を助けに行きな。そのために来たんだろ?」
「わかった」
 サイモンとテンガロンハットの男は、そのまま駅を通り抜け、さきほど崖の岩棚から当たりを付けていた建物へと走る。


 その建物は、小さな事務所のようだった。上から偵察したときは、この周囲には巡回の警備がいたが、今は誰もいない。
「妙だな。静かすぎる」
 テンガロンハットの男が言った。
「とはいえ、もうこうなったら突入するしかないですね」
 サイモンが応える。
 テンガロンハットの男は頷くと、事務所のドアを開けた。

 中には誰もいなかった。入り口の側には机があるが、椅子が倒れている。
 奥には地下へと続く階段がある。サイモンが予想した通りである。二人は慎重な足取りで建物の中へと入り、階段を下りていく。

 と、下の方から声がした。
「旦那ですかい? こっちですよ、こっち!」
 テンガロンハットの男には、聞き覚えのある声だった。保安官と一緒に待ち伏せの中へと突撃していった、背の低い男である。
 地下は暗く、小男の声は反響しており、何がどうなっているかよくわからない。
 と、後ろで明かりが灯った。振り返ると、サイモンがカンテラを手に提げていた。
「上にあったんですよ」
 サイモンが言った。
「助かるよ。じゃあ、先導してくれ」
 テンガロンハットの男はそう言うと、サイモンと位置を変えた。
 サイモンはカンテラを掲げながら、暗い地下室の中を進んでいく。
「ああ、助けに来てくれたんですね、旦那。信じてましたよ! あれっ、旦那ですよね?」
「誰のことを言ってるか知らないが、たぶん私は旦那じゃありませんよ」
「俺のことを言ってるんだろう。顔見知りだ」
 テンガロンハットの男は、サイモンが照らす明かりの先へと顔を覗かせた。
 どうやらそころ牢屋か何かのようだった。鉄格子の向こう側に、ぶかぶかのカウボーイスタイルの服を着た小男がしゃがみ込んでいる。
「彼は誰なんです?」
 サイモンが訊いた。テンガロンハットの男が答える。
「ああ。あんたの積み荷を襲撃してきた奴の片割れだよ」
「そうなんですか。じゃあ、このままほっときましょうか」
「いやいやいや、待ってください、待ってくださいよ旦那! あっしが悪うございました、そりゃもう深ぁく反省しています。だから出してくださいよう」
「お前を出すようにミスター・サイモンを説得してもいいが、情報をくれ。保安官はどうした」
「ええ、ええ。そうですよ。それそれ。実は、さっきまで保安官とはご一緒していたんですが、あの悪徳マーシャルの奴に連れて行かれたんですよ!」
「そうなのか」
「あと、あの腐れマーシャルの野郎から手紙を預かってます」
「ふむ」
 テンガロンハットの男は顎に手を当てて、しばし考え込むようだった。やがて、サイモンに言った。
「まあ、出してやろう。その手紙と引き換えに」
「ええ、ええ。もちろんお渡ししますよ!」
 サイモンは周囲をカンテラで照らして調べ回り、やがて、小さな机の上に鍵束を見つけた。小男の捕らえられている牢の鍵穴に、その鍵束からいくつか鍵を試して、やがて、そのひとつが合った。
 軋んだ音を立てて鉄格子の扉が開く。
「いやあ、旦那。ありがとうございます。助かりましたよほんと」
「それはいいから手紙を寄越してくれ」
「もちろんですとも。どうぞ」
 小男は懐から大事そうに手紙を取り出すと、もったいぶってテンガロンハットの男に渡した。
 テンガロンハットの男はそれを開き、サイモンはその紙面に明かりをかざす。
 書かれた内容はシンプルだった。

 ――農場で待つ。 ダニエル・ブラウン
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。