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15二人の習慣①
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毎日、推しに抱きしめられたまま同じベッドで眠る。魔導書は同じ部屋にあれば十分だと伝えても、レライエは拒否するのだ。一緒に過ごして、もうすぐ三年になる。レライエは、この三年で背が伸びてセラフィーレより大きくなったので、この体勢は正直恥ずかしい。
レライエと契約して最初の数ヶ月は、魔導書の中にいたのだけど、魔導書を取られたくないのか、ギュッと抱きついてくるので心配になった。
「硬いよね?腕とか痛くならない?」
「寝ている間に、セーレ様に何かあったら困るので。このままで大丈夫です」
「いや……でも、近くに置いておきたいなら、枕元くらいで大丈夫だと思うよ?」
「安心できません」
「魔導書って抱き心地悪いよね?そんなに心配しなくても。僕は強いと思うけど」
「抱き心地? だったらセーレ様の本体なら痛くないかも」
「本体……?」
しばらく、その状況を考えてみた。枕元に魔導書を置き、セラフィーレが片手でそれに触れていたら、人型でレライエと添い寝が出来るわけだ。
食事の時も嬉しそうだった。人間不信気味だったから、余計に信頼されたのは頷ける。
まだ誰か傍にいて欲しい年頃なのかも知れない。ベッドも広いし、確かに傍で寝ても人型なら痛くなさそうではある。
「じゃあ、試してみる?」
「エッ、いいのですか?」
軽く言ったのに、嬉しそうな顔をされると悪い気はしない。試してみようと、本からそっと上半身を乗りだしてみる。
「その服装だと、苦しくないですか?」
「え、全然平気」
寝衣を着ているレライエの横に、ローブを着たままでいるのは、確かに邪魔かも知れない。
ごそごそとローブを脱ぎ、魔導書の中へ押し込んだ。長袖で黒いハイネックのシャツと黒いスリムなズボン姿でレライエの隣にゴロンと横になった。
片手は伸ばして、枕元の魔導書に触れている。
「セーレ様。それこそ体勢が辛くありませんか?」
「いや、平気だけど」
「セーレ様は、魔導書を抱えても痛くはないのですよね?」
「うん。僕の一部だからね」
「──なら」
枕元の魔導書を抱きかかえるように促され、レライエを背にして横向きになる。背後から魔導書ごと抱きつかれた。
「ひょっわ……」
まだ小さい手が、セラフィーレの手と重なった。
「レイ……この体勢本当にキツくない?」
「温かくて、安心出来ます」
「そ、そうなんだ。そっか……じゃあ遅いし今日はとりあえず寝てみようか? しっかり寝るとレイも大きく育つからね」
「しっかり寝るとですか?」
「昔からね、寝る子は育つって言うから。ちゃんと食べるようになったし、剣の練習とかで体も動かしてる。あとは熟睡する環境が出来たらね。きっと大きくなるよ」
実際アプリのレライエは、第一王子と並んでも遜色がないビジュアルだ。虐めの体験から捻くれてしまっていたけどその影響を減らしているので、未来は明るいな……なんて思わず笑みがこぼれた。
「──じゃあ、ずっと傍にいて下さい」
「ふふ、いいよ」
──そんな約束の結果。
三年で見事に身長を越され、ディードにはまだ追いつかないけど、痩せ過ぎていた体躯も、引き締まった綺麗な筋肉がつき始めた。
十六歳にして、イケメン度が増してきて眩しい。後ろから抱きつかれてるので、寝顔が見えないのはある意味、ホッとしている。
(美形の顔が前にあったら、眠れる気がしないよ)
セラフィーレの体は寝なくても問題ない。ただ傍にいるとレライエの魔力を感じて、それはとても体を軽くしてくれる不思議な感覚だった。
(なんか、浄化されてるみたいなんだよね)
意識が深く沈み、メンテナンスでもされているみたいだ。
一度レライエが眠っている間に向きを変えたことがある。
手だけ、もぞもぞと伸ばしてレイの頭を撫でてみた。まつ毛が揺れた後、薄らと瞼が開いた。セーレの紫色の瞳をじっと見たレイが破顔して、抱きつき直して顔を胸にすり寄せてきた後、また寝息が聞こえてきた。
(か、かわいい……弟がいたらこんな感じだったのかな?)
六花は星七の動かない足のことなど気にせずに、普通に扱ってくれた人だ。それが嬉しくて大好きだった。姉として星七の心を、ずっと温かく護ってくれた一人。
(僕も、大切な人を護れる男になるからね)
なんとなく、本の中に戻らずにこのままでいいかと、レイを抱きしめ返して目を閉じた。
でもまさか、こんなに長く抱きつかれて寝ることになるとは、思っていなかったんだ。
レライエと契約して最初の数ヶ月は、魔導書の中にいたのだけど、魔導書を取られたくないのか、ギュッと抱きついてくるので心配になった。
「硬いよね?腕とか痛くならない?」
「寝ている間に、セーレ様に何かあったら困るので。このままで大丈夫です」
「いや……でも、近くに置いておきたいなら、枕元くらいで大丈夫だと思うよ?」
「安心できません」
「魔導書って抱き心地悪いよね?そんなに心配しなくても。僕は強いと思うけど」
「抱き心地? だったらセーレ様の本体なら痛くないかも」
「本体……?」
しばらく、その状況を考えてみた。枕元に魔導書を置き、セラフィーレが片手でそれに触れていたら、人型でレライエと添い寝が出来るわけだ。
食事の時も嬉しそうだった。人間不信気味だったから、余計に信頼されたのは頷ける。
まだ誰か傍にいて欲しい年頃なのかも知れない。ベッドも広いし、確かに傍で寝ても人型なら痛くなさそうではある。
「じゃあ、試してみる?」
「エッ、いいのですか?」
軽く言ったのに、嬉しそうな顔をされると悪い気はしない。試してみようと、本からそっと上半身を乗りだしてみる。
「その服装だと、苦しくないですか?」
「え、全然平気」
寝衣を着ているレライエの横に、ローブを着たままでいるのは、確かに邪魔かも知れない。
ごそごそとローブを脱ぎ、魔導書の中へ押し込んだ。長袖で黒いハイネックのシャツと黒いスリムなズボン姿でレライエの隣にゴロンと横になった。
片手は伸ばして、枕元の魔導書に触れている。
「セーレ様。それこそ体勢が辛くありませんか?」
「いや、平気だけど」
「セーレ様は、魔導書を抱えても痛くはないのですよね?」
「うん。僕の一部だからね」
「──なら」
枕元の魔導書を抱きかかえるように促され、レライエを背にして横向きになる。背後から魔導書ごと抱きつかれた。
「ひょっわ……」
まだ小さい手が、セラフィーレの手と重なった。
「レイ……この体勢本当にキツくない?」
「温かくて、安心出来ます」
「そ、そうなんだ。そっか……じゃあ遅いし今日はとりあえず寝てみようか? しっかり寝るとレイも大きく育つからね」
「しっかり寝るとですか?」
「昔からね、寝る子は育つって言うから。ちゃんと食べるようになったし、剣の練習とかで体も動かしてる。あとは熟睡する環境が出来たらね。きっと大きくなるよ」
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「──じゃあ、ずっと傍にいて下さい」
「ふふ、いいよ」
──そんな約束の結果。
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セラフィーレの体は寝なくても問題ない。ただ傍にいるとレライエの魔力を感じて、それはとても体を軽くしてくれる不思議な感覚だった。
(なんか、浄化されてるみたいなんだよね)
意識が深く沈み、メンテナンスでもされているみたいだ。
一度レライエが眠っている間に向きを変えたことがある。
手だけ、もぞもぞと伸ばしてレイの頭を撫でてみた。まつ毛が揺れた後、薄らと瞼が開いた。セーレの紫色の瞳をじっと見たレイが破顔して、抱きつき直して顔を胸にすり寄せてきた後、また寝息が聞こえてきた。
(か、かわいい……弟がいたらこんな感じだったのかな?)
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(僕も、大切な人を護れる男になるからね)
なんとなく、本の中に戻らずにこのままでいいかと、レイを抱きしめ返して目を閉じた。
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