【完結】 魔導書の守護者は悪役王子を護りたい

Shizukuru

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33別邸①

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 旅行の記憶はない。星七せなの不自由な足のせいで、家族の行動に制限がかかってしまうから、行きたいなどと言えなかった。
 それがまさか、異世界でこんな体験をしているとか、六花ゆき姉が知ったらずるいって言うかも知れない。元の世界で二人が、幸せになっていることをただただ願う。ナキア様ならきっと、願いを叶えてくれていると信じている。

 不自由だったけれど、不満なんて感じなかったのに……今は全部やってみたいことが、叶いそうな旅行に嬉しくて自然と頬が緩む。

(何よりレイの傍にいることが出来る。ここに来れて本当に良かった)

 レライエの魔力によって、作り変えられるような不思議な感覚がある。魔力が馴染むまで、向かい合わせでレライエの厚くなった胸板に頬を寄せて、窓から景色を見ながら待っているところだ。レライエの成長と共に、セラフィーレより魔力の質が良くなっている。指輪のおかげで結界の維持も楽になり、体へ負担がなくなりとても調子がいい。魔導書の中の人である、守護者ガーディアンの体を実体化させようと、レライエと一緒に魔導書を更に深く読み取った。ただ、この馴染ませている間は、無防備になりがちでレライエに身を預ける。

(悪役になるくらい魔力は高かったから。才能はそれこそチート級なんだけど。今使っている魔法とか……本当に優しくて温かいんだよね)

 外の景色はヨーロッパ風な街並みから、さらに奥に進み西洋風の田舎町に入ったみたいだった。都会の街並みの記憶しかないので、全てが新鮮で好奇心で浮かれてしまう。

「すごいね……緑がこんなに綺麗だなんて」
「何もありませんが、とても自然が豊かで屋敷の近くには、湖が見えてとても綺麗でした。母が療養用に以前使用していた所なんです。今は俺の名義になっていて、予算も全て補填されてたので、改修をセバスに頼んでいたんです。いい思い出ばかりではありませんが、ここなら、セーレ様に人目を気にせずに、自由を感じてもらえそうなので。俺も久しぶりで楽しみです」

 とても優しい顔になっているので、あの頃と変わらず可愛いままなレライエで安心だ。
(本当に悪役になんて似合わない。可愛いなあ)

 思わずレライエの頭を撫でてしまうと、驚いた後に、真っ赤になってしまった。

「え? か、可愛い──。いつも、僕を揶揄からかうけど、めちゃレイ可愛い。あはは。弟がいたら、こんな感じかな──」

「弟?俺が?セーレ様の……」
(あれ? 嫌だったかな? 今やレイより僕は小さいもんね。傷つけたかな?)

「レイ……? 嫌だった? ごめん。、家族と離れてしまって、もう二度と会えなくなったんだ。初めて会った時のレイは、僕より小さくて、可愛くてずっと傍で護るって決めたから。弟というか家族って思ってた。本当にディードみたいに僕が格好よかったらいいのに」

 ギュッと抱きつかれると、今度はセラフィーレの方が真っ赤になってしまう。
「レ、レイ?」
「このままのセーレ様がいい」
「ありがと。頼りなくてごめんね。でもそれだけレイが強くて、格好良くなってる証拠だね。僕も強く在りたいよ」

「セーレ様と一緒に、俺ももっと強くなります」
「うん。一緒にね」

 思わずコツンと額を合わせると、推しに何してるんだとセルフツッコミをして、窓の外に目を向けた。

「ここがレイの大切な場所だね」
「そうですね……ああ、もうすぐ着きますよ。このまま出ますか?」
 コアラの様に抱きついているのは、流石に変だと上半身を反射的に反った。

「どうしよう?この姿をセバスさんとメグに見せても大丈夫だよね?あ、コアラ抱っこのままってことじゃなくて」
「コアラ?なんですかそれは?」

「木に抱きついて寝る……動物」
「コアラ……きっとセーレ様みたいに愛らしいのでしょうね」
「そんなことはないから!」

 クツクツと楽しそうに笑うレライエに文句を言っても、ただただ楽しそうに笑ったままだ。

「コアラ抱っこと、縦抱きとどちらで運びましょうか?ただ、姿は部屋に入るまで隠します」

 心配してくれるのは、当たり前だ。現地のメイド達のことも確認してからだ。離宮に覗き魔が来てるかも知れないが、一年近くも、覗いてた相手が本当にレライエが移動したことに気づかないのだろうか?

(用心しておかないと)

「いつも通りでいいですか?」

「そうだね。いつも通りかな」

 では……そう言ったレライエに片手抱きされて、馬車から降りた。





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