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2.理解不能
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鏡を見て混乱した僕は、過呼吸を起こしてふらつき倒れたらしい。
ベッドから遠ざけられていた、点滴立てにぶつかったみたいで、深夜にものすごく大きな音がしたそうだ。
そのおかげで、あっという間に
担架で運ばれたと看護師さんに言われた。また僕は、死に損ないになったみたいだ。
「君を見つけた時は、駄目かと思ったよ。真っ青になっていて本当に危なかった。」と黒崎先生に言われた。
ああ、だから呼吸が、止まってしまえば良かったんだ。
そうすれば、この先の事を考えずに終わる事が出来たのに。
いつの間にか、処置が終わっていてベッドに寝かされ目には包帯が巻かれている。
確認しなければ──
「先生。誰の瞳を移植したんですか?」
「叶夢君?
どうした。昨日、言ったろ。ご両親とかじゃないって。」
「もう1人。あの事故で亡くなったって聞きました。彼は、日本人ですか?彼には、家族はいないって本当ですか?
それこそ、死人に口なしとか─」
目に包帯を巻かれていて見えないからか、感覚が鋭くなっているみたいだ。
だから──靴音がしなかった先生が、ベッドに座って話す僕のすぐ隣に来たのが分かった。
先生がいるだろう方向に顔を向けて話を続ける。
「昨日、見えたんです。
僕の、瞳の色──ワインレッドでした。嘘じゃありません。」
事故の直前に見えた、彼の瞳だ。
ギュッと先生に抱きしめられた。
「黒崎先生?」
「成功だ。アシェル様の瞳が君に根付いた──」
「え?」
どう言う意味?
アシェル、さま?
あれ?待って。
黒崎先生って、誰?
お父さんの後輩で、医師だったって…本当に?
大学病院だから、沢山の医師も看護師もいるけど──
僕は、ここに来て、黒崎先生以外の先生に会っただろうか?
看護師さんは、女性だった事は間違いない。
だけど、看護師さん…どんな声色だった?
いつも、同じ声の様な気がする。
朝も昼も夜も、毎日どころかこの人以外の看護師さんとも話して無い気がする。
どう言う事だろう。
──おかしい。
安東院長先生に会っていない。
お父さんと同じ外科医で同僚の佐々木先生が、僕の心配しないのも変だ。
会いに来れない理由は何だろう。
他にも何度か会った事がある先生や看護師さんに、誰にも会わないなんておかしい。
ここ、本当に大学病院?
急に、怖くなってきて鳥肌が立つ。
抱きしめられたら、温かいはずなのに。
──寒い。
「ア、アシェル様?って誰の事ですか?黒崎先生は、本当にお父さんの後輩なんですか?」
──怖い。
先生の手が、頬に触れてきた。思わず、後ろに逃げようとするが壁か何かがあって身動きが取れない。
シュルシュルと
包帯が、解かれていく。
最後のガーゼが、剥がされて両手が顔を逸らせないように添えられた。
暗闇の世界から、少しずつ黒崎先生の顔の輪郭がわかる様になってきた。
名前、黒崎って日本人の名前なのに。
でも目の前のこの人は…どう見ても外国人にしか見えない。
茶髪で青い瞳。随分と体格が良くて、医師になんて1ミリも思えない。軍人とか、騎士みたいだと何故か思う。
僕は、何かの事故か事件に巻き込まれて何処かに拉致されてしまったんだろうか…。
じゃ、あ、もしかしたら…
お父さん達が死んだとか、お葬式が済んだという事の方が、嘘なのかも知れない。
その、気持ちが筒抜けになったんだろう。
自称・黒崎先生が、指をさした。
ずっと、大学病院にいるのだと思っていた。
見えなくて手探りで移動していた時も、病室だと思っていた。
包帯を外したばかりの時にも確かに病室に見えていた。
でも、空間が揺らぎ壁や洗面台や
そういった作られた病室が消えていった。
リビングの中に電動ベッドが置かれていた。
ここは、僕がずっと両親と妹と暮らしていた、マンションの中だ。
目の前の状況が受け入れきれない。
先生が指をさしたままなので、その先に視線を送ると棚があった。
その上に刺繍がほどこされた包みが、3つ並んで置かれている。
コップに花がひっそりと飾ってあって、その包みがお父さん達の遺骨なんだとそれだけは、理解出来た。
だけど──
もう自分の頭では情報を処理するのは不可能に近い。
視界が滲む。呼吸が苦しくなっていく。ヒューヒューと乾いた自分の呼吸音だけが聞こえる。
視界が暗くなっていく──
誰か──僕を──
ベッドから遠ざけられていた、点滴立てにぶつかったみたいで、深夜にものすごく大きな音がしたそうだ。
そのおかげで、あっという間に
担架で運ばれたと看護師さんに言われた。また僕は、死に損ないになったみたいだ。
「君を見つけた時は、駄目かと思ったよ。真っ青になっていて本当に危なかった。」と黒崎先生に言われた。
ああ、だから呼吸が、止まってしまえば良かったんだ。
そうすれば、この先の事を考えずに終わる事が出来たのに。
いつの間にか、処置が終わっていてベッドに寝かされ目には包帯が巻かれている。
確認しなければ──
「先生。誰の瞳を移植したんですか?」
「叶夢君?
どうした。昨日、言ったろ。ご両親とかじゃないって。」
「もう1人。あの事故で亡くなったって聞きました。彼は、日本人ですか?彼には、家族はいないって本当ですか?
それこそ、死人に口なしとか─」
目に包帯を巻かれていて見えないからか、感覚が鋭くなっているみたいだ。
だから──靴音がしなかった先生が、ベッドに座って話す僕のすぐ隣に来たのが分かった。
先生がいるだろう方向に顔を向けて話を続ける。
「昨日、見えたんです。
僕の、瞳の色──ワインレッドでした。嘘じゃありません。」
事故の直前に見えた、彼の瞳だ。
ギュッと先生に抱きしめられた。
「黒崎先生?」
「成功だ。アシェル様の瞳が君に根付いた──」
「え?」
どう言う意味?
アシェル、さま?
あれ?待って。
黒崎先生って、誰?
お父さんの後輩で、医師だったって…本当に?
大学病院だから、沢山の医師も看護師もいるけど──
僕は、ここに来て、黒崎先生以外の先生に会っただろうか?
看護師さんは、女性だった事は間違いない。
だけど、看護師さん…どんな声色だった?
いつも、同じ声の様な気がする。
朝も昼も夜も、毎日どころかこの人以外の看護師さんとも話して無い気がする。
どう言う事だろう。
──おかしい。
安東院長先生に会っていない。
お父さんと同じ外科医で同僚の佐々木先生が、僕の心配しないのも変だ。
会いに来れない理由は何だろう。
他にも何度か会った事がある先生や看護師さんに、誰にも会わないなんておかしい。
ここ、本当に大学病院?
急に、怖くなってきて鳥肌が立つ。
抱きしめられたら、温かいはずなのに。
──寒い。
「ア、アシェル様?って誰の事ですか?黒崎先生は、本当にお父さんの後輩なんですか?」
──怖い。
先生の手が、頬に触れてきた。思わず、後ろに逃げようとするが壁か何かがあって身動きが取れない。
シュルシュルと
包帯が、解かれていく。
最後のガーゼが、剥がされて両手が顔を逸らせないように添えられた。
暗闇の世界から、少しずつ黒崎先生の顔の輪郭がわかる様になってきた。
名前、黒崎って日本人の名前なのに。
でも目の前のこの人は…どう見ても外国人にしか見えない。
茶髪で青い瞳。随分と体格が良くて、医師になんて1ミリも思えない。軍人とか、騎士みたいだと何故か思う。
僕は、何かの事故か事件に巻き込まれて何処かに拉致されてしまったんだろうか…。
じゃ、あ、もしかしたら…
お父さん達が死んだとか、お葬式が済んだという事の方が、嘘なのかも知れない。
その、気持ちが筒抜けになったんだろう。
自称・黒崎先生が、指をさした。
ずっと、大学病院にいるのだと思っていた。
見えなくて手探りで移動していた時も、病室だと思っていた。
包帯を外したばかりの時にも確かに病室に見えていた。
でも、空間が揺らぎ壁や洗面台や
そういった作られた病室が消えていった。
リビングの中に電動ベッドが置かれていた。
ここは、僕がずっと両親と妹と暮らしていた、マンションの中だ。
目の前の状況が受け入れきれない。
先生が指をさしたままなので、その先に視線を送ると棚があった。
その上に刺繍がほどこされた包みが、3つ並んで置かれている。
コップに花がひっそりと飾ってあって、その包みがお父さん達の遺骨なんだとそれだけは、理解出来た。
だけど──
もう自分の頭では情報を処理するのは不可能に近い。
視界が滲む。呼吸が苦しくなっていく。ヒューヒューと乾いた自分の呼吸音だけが聞こえる。
視界が暗くなっていく──
誰か──僕を──
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