ストーム! ストーム! ストーム!

柚緒駆

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陰陽並び立つ

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 際限なく響く銃声と立ち込める硝煙の匂い。ヒカルは眼を閉じ耳を塞ぎ、座り込んでいた。大丈夫、大丈夫、きっとお父さんが、きっとインカさんたちが、何とかしてくれる。そう心の中で唱えながら。

 その耳を塞ぐ手を握り、立たせようとする者がいた。

「インカさん?」

 振り仰いだそこにいたのは、しかしインカではなく、どこか見覚えのある少年。

「流れ弾に当たる。早くこっちへ」

 手を強く引き上げるその横顔に、ヒカルの記憶が弾けた。

「……もしかして、エイ兄ちゃん?」

 はっと振り返ったその顔は、間違いない、面影がある。十年前に生き別れた兄のエイイチである。彼は少し面食らっていたが、ふっ、と優しい笑みを浮かべた。

「よくわかったね」
「忘れないよ。だってお兄ちゃんだもん」

 この場に似合わぬ笑顔をみせるヒカルに、エイイチは何故か悲しげにうなずいた。

「そうか……とにかく、いまはここを離れよう」
「どこへ行くの」

「安全な場所さ」

 そう言い終わる寸前、エイイチの顔に何かが飛来した。手刀で叩き落せば、床に突き立つのは鋭いクナイ。

「ヒカル様から離れなさい」

 エイイチとヒカルの周囲を、インカ、大政、小政の三人が取り囲んだ。小政の腕時計が点滅する。

「お嬢、グラン反応だ」
「日本解放戦線はグランアーマーを持っていないはず」

 大政の言葉を受け、インカはクナイを構えた。

「あなた、何者」
「ちょっと待って、インカさん、違うの」

 ヒカルはエイイチとインカの間に割って入った。

「ヒカル様はお下がりください」
「お願い、話を聞いて、この人は」

 懸命に声を上げるヒカル――その視界の端――壁の穴からロケットランチャーを構える男――その照準の先には招待客――最も目立つのは集団から離れた場所にいるヒカルたち――トリガースイッチが押される――轟音。

 それはほんの一瞬の出来事。



 舞台にたどり着いたイナズマは振り返った。鳴り響く銃声の向こう側、轟く発射音。そして見た。己の娘に向けて撃ち込まれるロケット砲の炎を。



 爆光と同時に鳴り響く轟音が、銃声にも慣れつつあった鼓膜を破らんかの如き勢いで打ち叩いた。

 耳がキーンとする。けれどそれは生きている証。

 ロケット弾はその破片も熱も煙をも、ヒカルの元まで届かせる事はなかった。まるで目の前に見えない壁があるかの如く。

 そこで初めてヒカルは気付いた。自分の手前数メートルのところに、いつの間にか一人の少年が立っていた事に。

 彼はまるで何も起こらなかったと言わんばかりに、涼しい顔で振り向いた。その顔を見て、ヒカルは、インカは、大政小政は、あっと声を上げた。

 それはエイイチと同じ顔。同じではあったが、同じではなかった。

 ヒカルたちはエイイチを見る。だがそこにさっきまでのエイイチの姿はない。

 代わりに立っていたのは、三角形の頭部と鋭い眼を持つ、青白い、サメを思わせるシルエットのグランアーマー。ヒカルは思わず後退った。

「やあ、間に合ったようで何よりだ」

 エイイチと同じ顔をした少年は、何気ない足取りで近付いて来る。

「僕の声が聞こえるかな。それともまだ耳が痛いだろうか」

 グランアーマーは身構えた。右の手刀を前に。左の手刀を腰に。

「おまえ……ヨウジか」
「はて、貴様は誰だろう」

 ヨウジと呼ばれた少年は立ち止まり、さも驚いたかのように片眉を上げた。

「助けてもらっておきながら顔も見せられんようなクズに名乗ってやらねばならん義理はないし、仮に顔を見せたところで、貴様如きカスに名乗ってやるような名前など最初から持ち合わせてはいないのだが」

「ふざけるな、よくものうのうと俺の前に出て来れたものだな」

「だから貴様など知らんと言っている。もし仮に知っていたところで、貴様の如き低能に気を使ってやらねばならん理由など、そもそも僕には毛の先ほどもない。理解できるか?」

 ヨウジは笑顔で自分の頭をツンツンと指さした。相手を怒らせる気満々としか見えない。

 インカはヒカルをグランアーマーから引き離すと、じわり、動いた。

 いまなら後ろが取れる。無論、背後が取れたところでグランアーマーを破る算段がある訳ではない。だがヒカルを逃がすための一瞬の隙が作れるかもしれない。

 インカが一歩踏み出したとき、ピシッ、目の前に火花が散った。どこからか飛んできた小石が、インカの鼻先を打ったのだ。

 その瞬間、目の前のグランアーマーの姿が揺れた。

 旋風脚。鎌の如く脚が中空を円く斬り裂く。

 インカは理解した。もう一歩前に出ていたなら、あのグランアーマーの脚に、自分の首が斬り落とされていた事を。

「無駄な事はやめておけ」

 ヨウジは泰然と、しかし意地悪げに、ニッと歯を剥き笑っていた。



 爆風はイナズマの足下にまで、まるで透明な床の上を滑ったかのように真っ直ぐに舞台の上まで届いた。

 しかしその直前のほんの一瞬、イナズマの眼は捉えていた。迫り来るロケット弾の前に立ちはだかった少年の影を。

 それが誰なのか確認はできない。だが確信があった。自分は、こいつを知っている。

 イナズマの足はヒカルの方に向かおうとした。

 いまこの場において、状況的に最優先すべきなのはリタの安全だ。それは間違いない。

 だがイナズマの内にある、剣客の勘ともいうべきものがいざなうのだ。あそこで何かが、とてつもない何かが起こっていると。

 けれどその足は止まった。

 爆煙に煙る舞台下に、鉄より硬いグランの爪をかざす人影が。両耳を立てた、犬を思わせる頭部デザインのグランアーマー。さらにその後ろ、音もなく銃を手に天井から降り立った女の影が。

「ク・クー、援護する」
「いいや、ノナ。こいつは俺一人にやらせろ」

 グランアーマーが一歩前に出る。

「待て、こいつは」
「たまにゃ、ご褒美があってもいいんじゃねえの」

 しかしここで神討イナズマの発した言葉に、二人のテロリストは戦慄した。

「なるほど、オシリスの四拳聖か」

 イナズマは脇差を正眼に構えている。

「ならば、あそこにいるのはシロワニのエイイチだな」
「おいおい、いい勘してんじゃん。聞いてねーぜ」

 思わず身構えたク・クーに、イナズマも一歩踏み出し、脇差しの切っ先を上げた。

「息子の不出来は親が始末を付けねばなるまい。どいてもらおう」
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