桜の下

柚緒駆

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桜の下

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 人も通らぬ山奥に、ただ一本花をつける桜がある。しんしんと光の降る満月の夜、私はその満開の根元を掘った。

 かつて愛した男の墓標として、これ以上の物はない。私に一欠片の夢と希望を与え、そしてすべてを奪いすべてを汚しすべてを壊した大切な人。その血肉を美しい花へと変えて、永劫の苦しみを味わって欲しい。それだけが、ただ一つの願い。

 人の体の厚みは三十センチとない。命と人生を賭けるに値しない、いまにして思えば貧弱な厚み。埋めるには五十センチも掘れば十分か。

 いや、山の獣に見つかるかも知れない。

 罪が暴かれる事は怖れていない。いまさら人殺しと罵られようと構わない。しかしこの男の魂が救われる事は許せない。ならば一メートルも掘ればいいだろう。


 あっれえ?


 三十センチと掘らないうちに、見つけてしまった。若い女の死体。

 これは、いったい何だ。いや何だって事はない。普通に考えて、誰か先にここに死体を埋めたヤツがいるのだ。え、そんなのアリか。普通死体の埋め場所なんてかぶるか。どうする、警察に届け……られる訳ないだろバカ!

 まあ、仕方ない。

 死体を見つけてしまったのは想定外だが、幸い朝までまだ時間はある。とりあえず一メートルも掘れば二人分の死体を埋めるのに十分な深さは確保できるはずだ。

 落ち葉が重なり腐り、様々な生物に分解された山の土は柔らかい。女の腕でもさほど 苦労する事なく一メートルは掘れるだろう。

 この女が誰かは知らないが、さすがの私も死体には嫉妬しない。二人で仲良く山の一部となってもらえば話は済む。


 あっれえ?


 七、八十センチほど掘ったのだろうか、また見つけてしまった。スーツ姿の男の死体。何だよここ、共同墓地か。

 どうする。どうするって言っても、もうここまで掘ったら仕方ない。アレだ。とりあえず一メートル半ほど掘ったら、三人分の死体埋められるだろ。そうしよう。


 あっれえ?


 一メートルほど掘ったところで出てきたのは白骨化した死体。何人分だ、これ。

 日本人! おーい日本人! おまえら桜の下に死体埋めすぎだろ! 何がいいんだよ桜の下なんて! 死体なんぞ、そこら辺の地面掘って埋めときゃいいじゃんか! もう勘弁してよ。

 とりあえず掘ろう。とにかく掘ろう。掘って掘って掘り進めれば、そのうち全員の死体を放り込んでも埋まる穴が……。


 あっれえ?


 穴の縁に手が届かない。しまった、深く掘りすぎた。いや落ち着け、冷静になれ私。シャベルは手元にあるんだ、穴の側面を斜めにすれば脱出できるじゃない。そう、慌てる事はない。

 ……え?

 土が落ちてくる。何で。穴が崩れてる? 違う。誰かが土を落としてるんだ。私を生きたまま埋めようとしている。やめて、やめて誰か! 誰か助けて!

 ……え?

 月明かりの下、穴の縁に立った逆光のシルエットに、私の頭は混乱した。


 何で生きてるの?
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