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ちらつく影
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はげ上がった恰幅の良い男が眼科を訪れた。
「正面には特に何も見えんのですが、視界の隅っこの方に影がちらつくんですな。これがどうにも鬱陶しい」
若い眼科医はうなずく。
「飛蚊症の可能性が高いですね。加齢によってどうしても出て来ます。小さな点のようなものでしょうか」
「最初は小さな点だったのです。しかしこれが最近、どんどん大きくなりまして」
「ああ、それはいけません」
眼科医は顔を曇らせた。
「網膜剥離の初期症状かも知れません。放っておくと失明しますよ」
「そりゃ大変だ。何とかなりますか」
深刻に受け止めたらしい男をなだめるように、眼科医は微笑んだ。
「大丈夫、簡単な手術で進行を止めることができます」
「手術、ですか」
「いえ、手術といっても入院が必要になる訳でもありません。患部をレーザーで軽く焼くだけですから、三十分とかかりませんよ。何なら今日この後すぐにでもできますが、どうします」
「ああ、それならお願いします。もうさっきからデカいのが動いて仕方ないので」
男の言い方に興味を引かれたのか、眼科医はカルテに書き込む手を止めてたずねた。
「そんなに大きいですか」
「大きいですよ。おまけにコイツが人間みたいな格好しとりまして」
「へえ、それは珍しい。ちなみにその人間は、いま何かしてますか」
すると男は苦笑しながら首を振った。
「いえいえ、ただウロウロしとるだけです。大きな鎌を持って、先生の後ろで」
「正面には特に何も見えんのですが、視界の隅っこの方に影がちらつくんですな。これがどうにも鬱陶しい」
若い眼科医はうなずく。
「飛蚊症の可能性が高いですね。加齢によってどうしても出て来ます。小さな点のようなものでしょうか」
「最初は小さな点だったのです。しかしこれが最近、どんどん大きくなりまして」
「ああ、それはいけません」
眼科医は顔を曇らせた。
「網膜剥離の初期症状かも知れません。放っておくと失明しますよ」
「そりゃ大変だ。何とかなりますか」
深刻に受け止めたらしい男をなだめるように、眼科医は微笑んだ。
「大丈夫、簡単な手術で進行を止めることができます」
「手術、ですか」
「いえ、手術といっても入院が必要になる訳でもありません。患部をレーザーで軽く焼くだけですから、三十分とかかりませんよ。何なら今日この後すぐにでもできますが、どうします」
「ああ、それならお願いします。もうさっきからデカいのが動いて仕方ないので」
男の言い方に興味を引かれたのか、眼科医はカルテに書き込む手を止めてたずねた。
「そんなに大きいですか」
「大きいですよ。おまけにコイツが人間みたいな格好しとりまして」
「へえ、それは珍しい。ちなみにその人間は、いま何かしてますか」
すると男は苦笑しながら首を振った。
「いえいえ、ただウロウロしとるだけです。大きな鎌を持って、先生の後ろで」
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