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拒絶
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「おはよう、トーカ。昨日は来られなくてごめんね。ゆっくり休めた?」
いつも通りのフィルの笑顔に、透花は拍子抜けしたような気分になったが、同時にひどく安心している自分に気づいた。
「おはよう。昨日は授業もお休みだったからゆっくり出来たよ。ありがとう」
心配していたよりも、するりと言葉が出てあんなに悩んでいたのが馬鹿馬鹿しく思えてくる。
あれからフィルは自分の勘違いに気づいたのだろう。あの事に触れさえしなければ、きっと以前のように友達でいられるはずだ。
(もうパーティー全体について話題に出さなきゃいいんだよね。あ、でもそうすると噂のことも聞いちゃ駄目かな?ネイワース伯爵令嬢の処罰も気になるんだけど……)
陛下は言及しなかったが、どんな噂が流れていたのか知っておいたほうがいいと思っていたのだ。自分に関係することだし、何かのきっかけで悪意を持って聞かされるより嫌な気持ちにならないだろう。
「トーカ、何か悩んでいることでもあるの?もしそうなら遠慮せずに教えてほしいな」
考え事に耽っていたせいかフィルは心配そうな口調で訊ねたあと、何故か透花の隣に腰を下ろした。どうして場所を変えたのだろうと不思議に思っていると、フィルは小さな笑みを浮かべる。
「良かった。僕の好意を不快に感じているわけではないんだね?」
「っ、フィー?!」
さらりと告白のことを口にしたフィルに、透花は勘違いに気づいたのではなかったのかと愕然とした。このままなかったことになるのだろうと考えていた透花は、どう反応していいか分からない。
そんな透花を見て、フィルは柔らかく目を細めて言った。
「あのタイミングで言うべきことじゃなかったけど、あれは間違いなく僕の本心だよ。僕はトーカを心から愛しく想っている。だけど僕が勝手にトーカを好きになっただけで、トーカは何も気にしなくていいからね」
透花に負担を掛けないように気遣ってくれているのが伝わってくる。だがそのことを嬉しく思うよりも、不安と混乱が一気に押し寄せて来る。
(フィーが私のことを愛してる……?)
その可能性を考慮しなかったのは、あり得ないことだと認識していたからだ。そして今、そんなフィルの言葉に透花は嫌な予感を覚えている。
「急にそんなこと言われて戸惑わせてしまっているけど、トーカを困らせたいわけじゃないんだ。トーカが許してくれるならこれまで通り側にいさせてほしい」
(……これまで通りに?)
友達だったらずっと一緒にいられたかもしれない。だけど片方の気持ちが変わってしまったなら、友達のままでいられないのだ。透花が何もしなくても、恋人になったとしても、気持ちが冷めてしまったら、もう元の関係には戻れないだろう。
(そうしたら……フィーがいなくなってしまう)
そう考えた途端に、見えない手で首を絞められているかのように、上手く息が出来なくて苦しい。
「っ、トーカ!?どうして…………ごめん、僕が悪かった。お願いだから泣かないで」
狼狽した声と胸が苦しくなるような懇願が痛いほど伝わってくるのに、透花のなかにどろりとした黒い気持ちが広がっていく。
(この関係を壊そうと、変えようとしているのはフィーなのに……)
狡いと思ってしまったのだ。言い出したフィルがどうしてそんなに辛そうな表情をするのか。
友達だって言ってくれて嬉しかった。フィルと一緒に過ごす時間が、他愛ないお喋りがとても楽しくて幸せだったのだ。
それをいとも簡単に悪気なく取り上げてしまったフィルに対して、負の感情が急速に膨らんでいくのを止められない。
(一緒にいたかっただけなのに……)
嫌われたくないと思ったし、側にいたいと望んだけど、これは違う。自分が誰かに愛されることはないのだから。
愛して欲しいと願ったことはある。だけどそうやって伸ばした手は何度も振り払われて握り返してはくれなかった。稀に気まぐれのように差し伸べられた手も、結局はすぐに他の誰かを選ぶ。
父に殴られた痛みや、透花をいない者として扱う母の横顔を思い出す。
『あんたなんか大っ嫌い!』
家族にさえ愛されなかったのに、他人が愛してくれるはずがない。
『もう一緒にいたくないの』
あんなに一緒に笑っていたのに、突然背中を向けられる。
「トーカ」
もうあんな思いはしたくないし、これ以上何も聞きたくない。
「フィーの嘘吐き!友達だって言ったのに」
涙で滲む視界の中でも、はっきりとフィルの傷つく顔が見えた。好意を向けてくれた相手に自分勝手で傲慢な言葉を投げつけたのだから、もう友達になんか戻れない。
(どうせもう戻れないなら、壊れてしまっても同じこと)
瑠璃色の瞳と大切にしていたスノードームが重なって粉々に砕け散る音が聞こえた気がした。
いつも通りのフィルの笑顔に、透花は拍子抜けしたような気分になったが、同時にひどく安心している自分に気づいた。
「おはよう。昨日は授業もお休みだったからゆっくり出来たよ。ありがとう」
心配していたよりも、するりと言葉が出てあんなに悩んでいたのが馬鹿馬鹿しく思えてくる。
あれからフィルは自分の勘違いに気づいたのだろう。あの事に触れさえしなければ、きっと以前のように友達でいられるはずだ。
(もうパーティー全体について話題に出さなきゃいいんだよね。あ、でもそうすると噂のことも聞いちゃ駄目かな?ネイワース伯爵令嬢の処罰も気になるんだけど……)
陛下は言及しなかったが、どんな噂が流れていたのか知っておいたほうがいいと思っていたのだ。自分に関係することだし、何かのきっかけで悪意を持って聞かされるより嫌な気持ちにならないだろう。
「トーカ、何か悩んでいることでもあるの?もしそうなら遠慮せずに教えてほしいな」
考え事に耽っていたせいかフィルは心配そうな口調で訊ねたあと、何故か透花の隣に腰を下ろした。どうして場所を変えたのだろうと不思議に思っていると、フィルは小さな笑みを浮かべる。
「良かった。僕の好意を不快に感じているわけではないんだね?」
「っ、フィー?!」
さらりと告白のことを口にしたフィルに、透花は勘違いに気づいたのではなかったのかと愕然とした。このままなかったことになるのだろうと考えていた透花は、どう反応していいか分からない。
そんな透花を見て、フィルは柔らかく目を細めて言った。
「あのタイミングで言うべきことじゃなかったけど、あれは間違いなく僕の本心だよ。僕はトーカを心から愛しく想っている。だけど僕が勝手にトーカを好きになっただけで、トーカは何も気にしなくていいからね」
透花に負担を掛けないように気遣ってくれているのが伝わってくる。だがそのことを嬉しく思うよりも、不安と混乱が一気に押し寄せて来る。
(フィーが私のことを愛してる……?)
その可能性を考慮しなかったのは、あり得ないことだと認識していたからだ。そして今、そんなフィルの言葉に透花は嫌な予感を覚えている。
「急にそんなこと言われて戸惑わせてしまっているけど、トーカを困らせたいわけじゃないんだ。トーカが許してくれるならこれまで通り側にいさせてほしい」
(……これまで通りに?)
友達だったらずっと一緒にいられたかもしれない。だけど片方の気持ちが変わってしまったなら、友達のままでいられないのだ。透花が何もしなくても、恋人になったとしても、気持ちが冷めてしまったら、もう元の関係には戻れないだろう。
(そうしたら……フィーがいなくなってしまう)
そう考えた途端に、見えない手で首を絞められているかのように、上手く息が出来なくて苦しい。
「っ、トーカ!?どうして…………ごめん、僕が悪かった。お願いだから泣かないで」
狼狽した声と胸が苦しくなるような懇願が痛いほど伝わってくるのに、透花のなかにどろりとした黒い気持ちが広がっていく。
(この関係を壊そうと、変えようとしているのはフィーなのに……)
狡いと思ってしまったのだ。言い出したフィルがどうしてそんなに辛そうな表情をするのか。
友達だって言ってくれて嬉しかった。フィルと一緒に過ごす時間が、他愛ないお喋りがとても楽しくて幸せだったのだ。
それをいとも簡単に悪気なく取り上げてしまったフィルに対して、負の感情が急速に膨らんでいくのを止められない。
(一緒にいたかっただけなのに……)
嫌われたくないと思ったし、側にいたいと望んだけど、これは違う。自分が誰かに愛されることはないのだから。
愛して欲しいと願ったことはある。だけどそうやって伸ばした手は何度も振り払われて握り返してはくれなかった。稀に気まぐれのように差し伸べられた手も、結局はすぐに他の誰かを選ぶ。
父に殴られた痛みや、透花をいない者として扱う母の横顔を思い出す。
『あんたなんか大っ嫌い!』
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『もう一緒にいたくないの』
あんなに一緒に笑っていたのに、突然背中を向けられる。
「トーカ」
もうあんな思いはしたくないし、これ以上何も聞きたくない。
「フィーの嘘吐き!友達だって言ったのに」
涙で滲む視界の中でも、はっきりとフィルの傷つく顔が見えた。好意を向けてくれた相手に自分勝手で傲慢な言葉を投げつけたのだから、もう友達になんか戻れない。
(どうせもう戻れないなら、壊れてしまっても同じこと)
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