ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします! ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~

浅海 景

文字の大きさ
15 / 57

領地への旅路

王都から領地まで馬車で半日ほどかかる。一度邸に戻るより寮から直接向かうほうが早いためシモンと二人で向かうことになった。
それほど長い時間をシモンと過ごしたことがなかったため始めのうちは不安だったが、学園のことやシモンの研究について話しているとあっという間に時間が過ぎていく。

食堂で昼食を摂った後に再び馬車に揺られていると眠気がやってきた。
気晴らしに窓の外に目を向けるが、代り映えのない田園風景は眠気覚ましには不向きである。長時間の移動のため姿勢を崩すぐらいなら良いが、暇だからといってうたた寝するのは淑女として好ましくないのだ。

「サーシャ、眠っていいよ。誰も見ていないし実は僕も昼寝がしたいと思っていたんだ」
シモンの言葉は自分を気遣ったものであることは明らかだ。通常であれば使用人の立場でそんなことはできないと突っぱねただろう。
だけど今の自分はシモンの義妹として領地に向かっているし、正直昨晩の夢見が悪かったせいで寝不足だ。シモンの好意を無駄にするのも何となく気が引けた。

「…ではお言葉に甘えて少し休みます」
そう言うとシモンは嬉しそうな顔で頷いた。
目を瞑ったものの母以外の前で眠るなどは初めてのことだ。眠れないかもしれないと思ったのは一瞬で、馬車が大きく揺れたのを感じて、はっと意識を取り戻した。

「すみません!急に獣が飛び出してきたので。大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ」
御者の声に答えるシモンの声がすぐ頭上から聞こえて、サーシャは一瞬自分がどこにいるのか分からなかった。

(えっと、これはつまり――お義兄様に抱きしめられてるってこと?!)
「サーシャ?怪我はないね?」
無言で首を縦に振ると、シモンはサーシャの肩に回していた手を離してサーシャの身体を起こしてくれた。

「折角ぐっすり眠っていたのに起こされてしまったね。……少し休憩を取ろうか?」
「いえ、大丈夫です。――あの、もしかして眠っている間、支えていてくれたのですか?」

気づかないうちにすっかり熟睡してしまったのだから、窓に頭をぶつけていてもおかしくなかった。首や頭を痛めることなく、しっかりと支えられていたような感触が僅かに残っている。恐らくシモンが肩を貸してくれていたから、急な揺れにも間に合ったのだろう。

「平坦な道ばかりではないから、念のためにね」
ご迷惑をかけて申し訳ございません――そう口にしかけたが、実際に出てきたのは別の言葉だった。

「気遣ってくださってありがとうございます、お義兄様」
「これぐらいかわいい妹のためならお安い御用だよ」
慈愛に満ちた眼差しでシモンは微笑んだ。そこには邪な思いが一片たりとも混じっていない妹を想う兄の姿があった。

「サーシャ、屋敷に着く前に話しておきたいことがあるんだ」
和やかな雰囲気の中で、どことなく躊躇いがちにシモンは口を開いた。
「ユーゴ様がサーシャと話をしたいそうだ。サーシャに面会する許可をもらえないか訊ねて欲しいと頼まれた」

学年は違うがシモンは今年から生徒会に所属しているため、ユーゴとの接点がある。一方的に関わるなと告げたサーシャを尊重し、あれ以来ユーゴと話すどころか顔を合わせることもなかった。
代わりにシモンに言伝を頼んだからといって、責められることではない。

「ユーゴ様にサーシャを何故知っているのか尋ねたら、サーシャの許可なしに話すことはできないと断られたよ。でもできれば僕はその理由を知りたい、兄としても子爵令息としても」

高位貴族である侯爵家との繋がりはプラスマイナスどちらに転がるか分からない。ましてや学園で関わりのある先輩と義妹に接点があると聞いたシモンはさぞかし驚いただろう。

「お義兄様、恐らくお父様と奥様は知っている話だと思います。ですからお話しても構いまわせんわ。ただ、私はそのことで何も影響を受けておりませんし、ご心配いただく必要もございません。それをご承知おきくださいませ」
優しい義兄がこれ以上過保護になっても困る。そう思ってあらかじめ釘を差しておくことにした。シモンが頷いたのを見て、記憶を辿りながらサーシャは8年前の誘拐事件のことを話し始めた。

「サーシャ……」
話し終えると気遣うような表情で何かを言いかけたが、最初に念を押されたことを思い出したのか、そのまま口を噤んだ。

「ユーゴ様は責任感の強いお方ですから、学園で再会した私のことを気に掛けてくださったのですわ。ですが、私はこれ以上噂を立てられるようなことを避けたかったので、ユーゴ様とお会いすることはご遠慮させていただきました」
「そうか。ユーゴ様がいたく気にしていらっしゃるようだった。あの人から家族について訊ねられることなどなかったから驚いたけれど、そういうことだったんだね」

ちくちくと罪悪感が胸を刺す。あの時はレイチェルのことで悩んでいた矢先、見知らぬ上級生から不快な言葉を掛けられ苛々していたのだ。
普段だったらもう少し言葉を選んだのに、さっさと立ち去りたいとユーゴの気持ちを慮ることなく関わり合いを避けてしまった。

「サーシャが会いたくないなら断りの連絡を入れるよ。どうする?」
「……少し考えるお時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
シモンの承諾を得ると、外の風景を見ながらサーシャはユーゴのことを考えた。

関わらないほうがいいのは分かっているが、あの時の傷ついたようなユーゴの表情が気にかかっていた。たとえサーシャが距離を置いたとしても強制力によって、ユーゴと接点を持つようになるかもしれない。

(それだったらいっそ会って心残りを解消しておいたほうが安全かしら?だけどそれが好感度を上げるきっかけになったら……下手に動くのもまずいわ)
堂々巡りするサーシャの思考をよそに、馬車は領地へと順調に歩を進めていった。
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした

果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。 そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、 あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。 じゃあ、気楽にいきますか。 *『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

無能だとクビになったメイドですが、今は王宮で筆頭メイドをしています

如月ぐるぐる
恋愛
「お前の様な役立たずは首だ! さっさと出て行け!」 何年も仕えていた男爵家を追い出され、途方に暮れるシルヴィア。 しかし街の人々はシルビアを優しく受け入れ、宿屋で住み込みで働く事になる。 様々な理由により職を転々とするが、ある日、男爵家は爵位剥奪となり、近隣の子爵家の代理人が統治する事になる。 この地域に詳しく、元男爵家に仕えていた事もあり、代理人がシルヴィアに協力を求めて来たのだが…… 男爵メイドから王宮筆頭メイドになるシルビアの物語が、今始まった。

目覚めたら魔法の国で、令嬢の中の人でした

エス
恋愛
転生JK×イケメン公爵様の異世界スローラブ 女子高生・高野みつきは、ある日突然、異世界のお嬢様シャルロットになっていた。 過保護すぎる伯爵パパに泣かれ、無愛想なイケメン公爵レオンといきなりお見合いさせられ……あれよあれよとレオンの婚約者に。 公爵家のクセ強ファミリーに囲まれて、能天気王太子リオに振り回されながらも、みつきは少しずつ異世界での居場所を見つけていく。 けれど心の奥では、「本当にシャルロットとして生きていいのか」と悩む日々。そんな彼女の夢に現れた“本物のシャルロット”が、みつきに大切なメッセージを託す──。 これは、異世界でシャルロットとして生きることを託された1人の少女の、葛藤と成長の物語。 イケメン公爵様とのラブも……気づけばちゃんと育ってます(たぶん) ※他サイトに投稿していたものを、改稿しています。 ※他サイトにも投稿しています。

恐怖侯爵の後妻になったら、「君を愛することはない」と言われまして。

長岡更紗
恋愛
落ちぶれ子爵令嬢の私、レディアが後妻として嫁いだのは──まさかの恐怖侯爵様! しかも初夜にいきなり「君を愛することはない」なんて言われちゃいましたが? だけど、あれ? 娘のシャロットは、なんだかすごく懐いてくれるんですけど! 義理の娘と仲良くなった私、侯爵様のこともちょっと気になりはじめて…… もしかして、愛されるチャンスあるかも? なんて思ってたのに。 「前妻は雲隠れした」って噂と、「死んだのよ」って娘の言葉。 しかも使用人たちは全員、口をつぐんでばかり。 ねえ、どうして?  前妻さんに何があったの? そして、地下から聞こえてくる叫び声は、一体!? 恐怖侯爵の『本当の顔』を知った時。 私の心は、思ってもみなかった方向へ動き出す。 *他サイトにも公開しています

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。 人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。 転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。 せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。 少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

幼馴染みが描いた悪役令嬢ものの世界に「メイド」として転生したので、6年後の断罪イベントをどうにか回避したい

ゆずまめ鯉
恋愛
通勤途中、猫好きではないのに轢かれそうな黒猫をうっかり助けてしまい、死んでしまった主人公──水縞あいり(26) 鳥の囀りで目を覚ますとそこは天国……ではなく知らない天井だった。 狭い個室にはメイド服がかかっている。 とりあえず着替えて備えつけの鏡を見ると、そこには十代前半くらいの子どもの姿があった。 「この顔……どこか見覚えが……」 幼馴染みで漫画家、ミツルギサイチ(御剣才知)が描く、人気漫画「悪役令嬢が断罪されるまで」の登場人物だということに気がつく。 名前はミレア・ホルダー(本名はミレア・ウィン・ティルベリー) 没落貴族の令嬢で、現在、仕えているフランドル侯爵によって領地と洋館を奪われ、復讐のために、フランドル侯爵の長女イザベラが悪役令嬢になるのを止めず、むしろ後押しして見事断罪されてしまうキャラだった。 原作は未完だが、相談を受けていたのでどういう結末を迎えるのか知っている。 「二期アニメもまだ見てないし、どうせ転生するなら村人Aとかヒロインの母親がよかった……!!」 幼馴染みの描く世界に転生してしまった水縞あいり=ミレアが、フランドル侯爵家で断罪回避するべく、イザベラをどうにかお淑やかな女性になるように導いている途中。 病弱で原作だと生死不明になる、イザベラの腹違いの兄エミールに、協力してもらっているうちに求愛されていることに気づいてしまい──。 エミール・ディ・フランドル(20)×ミレア・ウィン・ティルベリー(18) 全30話の予定で現在、執筆中です。2月下旬に完結予定です。 タイトルや内容が変更になる場合もあります。ご了承ください。

なりゆきで妻になった割に大事にされている……と思ったら溺愛されてた

たぬきち25番
恋愛
男爵家の三女イリスに転生した七海は、貴族の夜会で相手を見つけることができずに女官になった。 女官として認められ、夜会を仕切る部署に配属された。 そして今回、既婚者しか入れない夜会の責任者を任せられた。 夜会当日、伯爵家のリカルドがどうしても公爵に会う必要があるので夜会会場に入れてほしいと懇願された。 だが、会場に入るためには結婚をしている必要があり……? ※本当に申し訳ないです、感想の返信できないかもしれません…… ※他サイト様にも掲載始めました!