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第6話 第一回戦・3
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一.最近の嬉しかったエピソード『眼帯をとれたこと』
二.苦手なこと『お化け屋敷』
三.一目惚れはありかなしか『あり』
「正解。小田正人、白井ひとみ。ゲームクリア」
一.苦手な異性のタイプ『金遣いが荒い人』
二.理想の告白シチュエーション『ラブレターでの放課後呼び出し』
三.性格『見た目はギャルだけど中身は普通』
「正解。田中亨、大山愛。ゲームクリア」
一.得意な教科『社会』
二.好きな本『帝王学とブルジョア』
三.特技『ドーナツの早食い』
「正解。小川諒、小林麗子。ゲームクリア」
互いを良く知るのは、京平と萌音の専売特許というわけではない。
同じ中学校、同じ部活、同じクラス、同じ趣味という偶然によって、彼らと彼女らは知りあった。
たまたまわかりやすいプロフィールを持っていて、たまたまわかりやすいプロフィールが項目として挙がっている偶然によって、彼らと彼女らは生き延びた。
紙が三枚、燃えて消える。
一.起床時間『午前五時』
二.好きな色『赤』
三.好きな季節『夏』
「はずれ。小嶋秀樹、ゲームオーバー」
そう、全ては偶然。
だから、正解する者がいれば、はずれる者もいる。
「はは……あはは……」
乾いた笑いと共に、小嶋秀樹の頭が破裂し、周囲に血と肉をまき散らす。
拘束が溶けた秀樹の体は、頭部を失ったがゆえに自身を支える器用な動きなどできるはずもなく、左へぐらりと傾いて、椅子と共に床へ倒れた。
「ひいっ!?」
両隣の席の男子が、机に飛び散った赤を見て悲鳴を上げる。
うっかり椅子から立ち上がろうとするも、幸か不幸か体が固定されていて動けない。
はずしたら、死。
言葉としてしか認識できていなかった恐怖が、現実という形で生徒たちに突きつけられた。
三組がゲームクリア。
一人がゲームオーバー。
「はずれ。小野恭平、ゲームオーバー」
さらにもう一人。
残り、男子が十五人、女子が十七人。
ゲームクリアの枠は七組。
男子たちの、鉛筆を持つ手が止まった。
十七枚の紙を机に広げてプロフィールを眺め、女子の顔を眺めるも、どれが誰のプロフィールだかわからない。
一.起床時間『午前五時』
二.好きな色『赤』
三.好きな季節『夏』
誰が、ただの友達の起床時間など把握しているのだろうか。
誰が、ただの友達の好きな色など把握しているのだろうか。
誰が、ただの友達の好きな季節など把握しているのだろうか。
プロフィール当てゲーム。
その難しさを、皆が強く感じ始めていた。
そして、最も強く感じていたのは、他でもない京平だ。
そもそもプロフィール当てゲームのルールは、京平だけが萌音のプロフィールを知っていて、他の男子が萌音のプロフィールを知らないという前提のもと設計された。
裏を返せば、萌音以外の女子に対しては、京平自身も他の男子の一人に成り下がる。
萌音を確実に助けるルールが、裏目に出ていた。
京平は頭の中で、名前を当てるプロフィールの中に名前が含まれている理不尽を怒る。
神を恨む。
神はこの状況を予想していたのか、それとも偶然か、京平にはわからない。
鉛筆が動かないまま、十分が経過した。
不安そうな目で男子を見る女子たち。
黒板の前に移動し、不安そうにゲームの行く末を見守るゲームクリアの六人。
すかい君はやはり笑顔で、教室を眺めていた。
京平は静かに深呼吸し、気持ちを落ち着かせる。
もう一度、京平は残る十七枚の紙を見る。
そして、十七人の女子を見る。
誰一人として、プロフィールと完全に一致させることはできなかった。
数人、もしかしたらと思うプロフィールもあったが、確信がない。
確率は五分五分と言ったところで、萌音と東京都の高校生全員の命を天秤にかけるには、あまりにも確率が低かった。
京平は、自身を奮い立たせるため、萌音を見た。
黒板の前で不安そうな表情を浮かべる萌音に、京平の決意は固まった。
もう一つの仕込みを使う決意が。
あえてルールに残しておいた穴をつく決意が。
ルールを破ってはいないが、ルールの意図には反した行為。
もしもすかい君が、後者を重視する性格であれば、口にした瞬間に京平は死ぬだろう。
そして全員死ぬだろう。
しかし、五分五分よりは一厘ばかり、ルールの穴をつく方が生きる可能性が高いだろうと京平は踏んだ。
京平は、プロフィールから一枚の紙を手前に引き寄せて、鉛筆を持った。
そして、十七人の女子に向かって叫んだ。
「今、『ぴょんこつ』のパンツを履いている人がいたら、手を上げてくれ!」
ルールの穴は単純だ
京平が口を開くこと。。
ルールで禁止しているのは、女子が口を開くことと、男子が女子にプロフィールの紙を見せることだけ。
男子が女子にプロフィールを口で伝えることも、女子が応じて手を上げることも、禁止などしていない。
ただ、それだけ。
明確な、カンニングと言える行為だ。
よくもこんなルールを通してくれたものだと京平が呆れるくらいに、大きな穴。
ちなみに、ぴょんこつとは、昔流行ったカエルのゆるキャラである。
ゆるキャラブームの後半に、今後流行るゆるキャラとして紹介され、流行る前にゆるキャラブームが下火となって消えたマイナーなゆるキャラだ。
つまり、十七人中二人以上が好きだという可能性が低いプロフィール項目である。
一.好きな歌手『Ado』
二.誰にも言えないこだわり『下着はぴょんこつで揃えている』
三.好きなテレビ番組『日本全国すごろく旅 サイコロ振ってどこ行くの?』
まして、既に販売を終えている下着をそろえているなど、十七人の内、たった一人にしか当てはまらない可能性が高い。
京平に、全員の注目が集まる。
京平は視線を気にせず、十七人の女子の動きを注視し、一人の手が動いたことを誰よりも早く見つけた。
白石青澄(しらいしあすみ)。
白いロングヘア―が霞むほどに顔を赤く染め、京平から顔を背け、恥ずかしそうに手を上げた。
学年一の美人と有名で、凛とした雰囲気からはぴょんこつのイメージなどまるで浮かばない。
京平にとっては、もっとも意外な相手であった。
が、京平は驚くより先に、手を動かした。
萌音の名前を最初に書きそびれたのは驚いたせいなので、反省はとっくに終えた。
そのうえ、この作戦は最初の一人しか使えないのだから。
「……正解。東京平、白石青澄。ゲームクリア」
京平が書き終わるとともに、青澄のプロフィールが書かれた紙は燃えて消え、すかい君が今までにない低い声でゲームクリアを告げた。
「……っはあ!」
京平は、緊張のあまり止まっていた呼吸に気づいて、思いっきり深呼吸をする。
そして、恐る恐るすかい君の方を見た。
「はーい! ゲームクリアした二人は、黒板の前まで来てくださーい!」
すかい君の表情は、右半分が怒り、左半分が笑顔へと変わっていた。
右側、つまり男子が――京平がいる側が、怒りだ。
京平と青澄は立ち上がって、黒板へと向かって歩く。
同時に始まるのは、教室中を走り回る叫び声だ。
「趣味! 趣味がアニメ鑑賞の人!……駄目だ、これだと多すぎる!」
「今一番行きたい場所が南極の人! 手を上げて……いや、俺を指差してくれ!」
「晴れが好きで、水曜日が好きで、チュムチュムのアプリが好きな人!」
攻略法が暴かれれば、後は泥仕合だ。
男子は叫び、女子は無言で応じる。
プロフィールを知る者が勝つのではない。
真っ先に動き、声が良く通り、名前を速く書いた物が勝つ肉体戦。
残りは五組。
「正解。大塚祐樹、小野幸。ゲームクリア」
残りは四組。
「正解。寺井大輔、鈴木めぐみ。ゲームクリア」
残りは三組。
「正解。鈴木慧一、稲垣真理子。ゲームクリア」
残りは二組。
「正解。安藤俊介、武田眞菜。ゲームクリア」
残りは一組。
「やめろー! やめてくれー!」
断末魔。
ゲームにはいつだって、勝者と敗者がいる。
勝者は笑い、敗者は泣く。
しかし、結果は変わらない。
「正解。田村直哉、鈴木陽子。ゲームクリア」
ゲームクリア者が十組となった時点で、さっきまでの騒々しさが嘘のように、教室中がシンと静まり返った。
勝者は、勝利を喜ばない。
敗者は、敗北を悲しまない。
否、絶望が悲しむという余裕さえ持たせてくれない。
「あ……ああ……」
「新井大輔。小川タイル。田中茂。長島翔。西良太。原卓士。森田伸。吉田哲也。阿部沙織。大森佳奈。木村久美子。黒部朱。齊藤由佳。佐藤香織。佐藤景虹。柴田麻里子。塚本愛。松本遥香。ゲームオーバー」
容赦なく。
躊躇なく。
十七人の頭部が爆散し、床へと倒れた。
二.苦手なこと『お化け屋敷』
三.一目惚れはありかなしか『あり』
「正解。小田正人、白井ひとみ。ゲームクリア」
一.苦手な異性のタイプ『金遣いが荒い人』
二.理想の告白シチュエーション『ラブレターでの放課後呼び出し』
三.性格『見た目はギャルだけど中身は普通』
「正解。田中亨、大山愛。ゲームクリア」
一.得意な教科『社会』
二.好きな本『帝王学とブルジョア』
三.特技『ドーナツの早食い』
「正解。小川諒、小林麗子。ゲームクリア」
互いを良く知るのは、京平と萌音の専売特許というわけではない。
同じ中学校、同じ部活、同じクラス、同じ趣味という偶然によって、彼らと彼女らは知りあった。
たまたまわかりやすいプロフィールを持っていて、たまたまわかりやすいプロフィールが項目として挙がっている偶然によって、彼らと彼女らは生き延びた。
紙が三枚、燃えて消える。
一.起床時間『午前五時』
二.好きな色『赤』
三.好きな季節『夏』
「はずれ。小嶋秀樹、ゲームオーバー」
そう、全ては偶然。
だから、正解する者がいれば、はずれる者もいる。
「はは……あはは……」
乾いた笑いと共に、小嶋秀樹の頭が破裂し、周囲に血と肉をまき散らす。
拘束が溶けた秀樹の体は、頭部を失ったがゆえに自身を支える器用な動きなどできるはずもなく、左へぐらりと傾いて、椅子と共に床へ倒れた。
「ひいっ!?」
両隣の席の男子が、机に飛び散った赤を見て悲鳴を上げる。
うっかり椅子から立ち上がろうとするも、幸か不幸か体が固定されていて動けない。
はずしたら、死。
言葉としてしか認識できていなかった恐怖が、現実という形で生徒たちに突きつけられた。
三組がゲームクリア。
一人がゲームオーバー。
「はずれ。小野恭平、ゲームオーバー」
さらにもう一人。
残り、男子が十五人、女子が十七人。
ゲームクリアの枠は七組。
男子たちの、鉛筆を持つ手が止まった。
十七枚の紙を机に広げてプロフィールを眺め、女子の顔を眺めるも、どれが誰のプロフィールだかわからない。
一.起床時間『午前五時』
二.好きな色『赤』
三.好きな季節『夏』
誰が、ただの友達の起床時間など把握しているのだろうか。
誰が、ただの友達の好きな色など把握しているのだろうか。
誰が、ただの友達の好きな季節など把握しているのだろうか。
プロフィール当てゲーム。
その難しさを、皆が強く感じ始めていた。
そして、最も強く感じていたのは、他でもない京平だ。
そもそもプロフィール当てゲームのルールは、京平だけが萌音のプロフィールを知っていて、他の男子が萌音のプロフィールを知らないという前提のもと設計された。
裏を返せば、萌音以外の女子に対しては、京平自身も他の男子の一人に成り下がる。
萌音を確実に助けるルールが、裏目に出ていた。
京平は頭の中で、名前を当てるプロフィールの中に名前が含まれている理不尽を怒る。
神を恨む。
神はこの状況を予想していたのか、それとも偶然か、京平にはわからない。
鉛筆が動かないまま、十分が経過した。
不安そうな目で男子を見る女子たち。
黒板の前に移動し、不安そうにゲームの行く末を見守るゲームクリアの六人。
すかい君はやはり笑顔で、教室を眺めていた。
京平は静かに深呼吸し、気持ちを落ち着かせる。
もう一度、京平は残る十七枚の紙を見る。
そして、十七人の女子を見る。
誰一人として、プロフィールと完全に一致させることはできなかった。
数人、もしかしたらと思うプロフィールもあったが、確信がない。
確率は五分五分と言ったところで、萌音と東京都の高校生全員の命を天秤にかけるには、あまりにも確率が低かった。
京平は、自身を奮い立たせるため、萌音を見た。
黒板の前で不安そうな表情を浮かべる萌音に、京平の決意は固まった。
もう一つの仕込みを使う決意が。
あえてルールに残しておいた穴をつく決意が。
ルールを破ってはいないが、ルールの意図には反した行為。
もしもすかい君が、後者を重視する性格であれば、口にした瞬間に京平は死ぬだろう。
そして全員死ぬだろう。
しかし、五分五分よりは一厘ばかり、ルールの穴をつく方が生きる可能性が高いだろうと京平は踏んだ。
京平は、プロフィールから一枚の紙を手前に引き寄せて、鉛筆を持った。
そして、十七人の女子に向かって叫んだ。
「今、『ぴょんこつ』のパンツを履いている人がいたら、手を上げてくれ!」
ルールの穴は単純だ
京平が口を開くこと。。
ルールで禁止しているのは、女子が口を開くことと、男子が女子にプロフィールの紙を見せることだけ。
男子が女子にプロフィールを口で伝えることも、女子が応じて手を上げることも、禁止などしていない。
ただ、それだけ。
明確な、カンニングと言える行為だ。
よくもこんなルールを通してくれたものだと京平が呆れるくらいに、大きな穴。
ちなみに、ぴょんこつとは、昔流行ったカエルのゆるキャラである。
ゆるキャラブームの後半に、今後流行るゆるキャラとして紹介され、流行る前にゆるキャラブームが下火となって消えたマイナーなゆるキャラだ。
つまり、十七人中二人以上が好きだという可能性が低いプロフィール項目である。
一.好きな歌手『Ado』
二.誰にも言えないこだわり『下着はぴょんこつで揃えている』
三.好きなテレビ番組『日本全国すごろく旅 サイコロ振ってどこ行くの?』
まして、既に販売を終えている下着をそろえているなど、十七人の内、たった一人にしか当てはまらない可能性が高い。
京平に、全員の注目が集まる。
京平は視線を気にせず、十七人の女子の動きを注視し、一人の手が動いたことを誰よりも早く見つけた。
白石青澄(しらいしあすみ)。
白いロングヘア―が霞むほどに顔を赤く染め、京平から顔を背け、恥ずかしそうに手を上げた。
学年一の美人と有名で、凛とした雰囲気からはぴょんこつのイメージなどまるで浮かばない。
京平にとっては、もっとも意外な相手であった。
が、京平は驚くより先に、手を動かした。
萌音の名前を最初に書きそびれたのは驚いたせいなので、反省はとっくに終えた。
そのうえ、この作戦は最初の一人しか使えないのだから。
「……正解。東京平、白石青澄。ゲームクリア」
京平が書き終わるとともに、青澄のプロフィールが書かれた紙は燃えて消え、すかい君が今までにない低い声でゲームクリアを告げた。
「……っはあ!」
京平は、緊張のあまり止まっていた呼吸に気づいて、思いっきり深呼吸をする。
そして、恐る恐るすかい君の方を見た。
「はーい! ゲームクリアした二人は、黒板の前まで来てくださーい!」
すかい君の表情は、右半分が怒り、左半分が笑顔へと変わっていた。
右側、つまり男子が――京平がいる側が、怒りだ。
京平と青澄は立ち上がって、黒板へと向かって歩く。
同時に始まるのは、教室中を走り回る叫び声だ。
「趣味! 趣味がアニメ鑑賞の人!……駄目だ、これだと多すぎる!」
「今一番行きたい場所が南極の人! 手を上げて……いや、俺を指差してくれ!」
「晴れが好きで、水曜日が好きで、チュムチュムのアプリが好きな人!」
攻略法が暴かれれば、後は泥仕合だ。
男子は叫び、女子は無言で応じる。
プロフィールを知る者が勝つのではない。
真っ先に動き、声が良く通り、名前を速く書いた物が勝つ肉体戦。
残りは五組。
「正解。大塚祐樹、小野幸。ゲームクリア」
残りは四組。
「正解。寺井大輔、鈴木めぐみ。ゲームクリア」
残りは三組。
「正解。鈴木慧一、稲垣真理子。ゲームクリア」
残りは二組。
「正解。安藤俊介、武田眞菜。ゲームクリア」
残りは一組。
「やめろー! やめてくれー!」
断末魔。
ゲームにはいつだって、勝者と敗者がいる。
勝者は笑い、敗者は泣く。
しかし、結果は変わらない。
「正解。田村直哉、鈴木陽子。ゲームクリア」
ゲームクリア者が十組となった時点で、さっきまでの騒々しさが嘘のように、教室中がシンと静まり返った。
勝者は、勝利を喜ばない。
敗者は、敗北を悲しまない。
否、絶望が悲しむという余裕さえ持たせてくれない。
「あ……ああ……」
「新井大輔。小川タイル。田中茂。長島翔。西良太。原卓士。森田伸。吉田哲也。阿部沙織。大森佳奈。木村久美子。黒部朱。齊藤由佳。佐藤香織。佐藤景虹。柴田麻里子。塚本愛。松本遥香。ゲームオーバー」
容赦なく。
躊躇なく。
十七人の頭部が爆散し、床へと倒れた。
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