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17. 身分証を受け取るソフィア
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(カラシン視点)
その日の夕食時、そろそろ村の用心棒としての俺たちは不要ではないかと言うことと、今後は魔族の国の国民になって、森での薬草の採取と販売を生業にすることを考えていることを伝えた。
「そう言うわけで、一旦村を出て、薬草を売りに町に行ってみたいと考えています。宜しいでしょうか。」
「勿論じゃよ。いや、世話になった。結果的に戦いにはならんかったが、オーガキングが来た時に一緒にいてくれたのは心強かったわい。」
「あの時は、オーガキングを前にしての村長の堂々とした受け答えに関心しましたよ。俺なんか震えが止まりませんでしたからね。」
「何を言っとる。あの時は膝がガクガクして、座り込みそうなのを必死で堪えておったよ。儂こそ冒険者というのは大したものじゃと関心しておったのに
。」
「それでは、お互い様だったんですね。」
「そのようじゃの。」
それから、俺たちはお互いの顔を見つめ合いながら笑い出した。お互い様だったのが可笑しかったのだ。
その後、今度戻ってくる時は宿泊料を払いたい旨話をすると、「それなら家を一軒やろう」と言われた。
「はい?」
と、思わず言葉に詰まる。いくら田舎とはいえ、家だぞ、簡単に人にあげるものじゃ無いだろう。
「実は、この前オーガキングが来た時に村から逃げ出した奴らがいてな、そいつらの住んでた家が何軒か空き家になっとる。村の皆と話し合ったんじゃが、そいつらの家は村の共同財産にすることにした。まあ、共同財産なんで正確にはやるわけでは無い、無償貸与ということじゃ。家財道具も残っとるからな、そのまま住めるぞ。」
「しかし、良いのですか? 自分で言うのもおかしいですが、冒険者なんて身元のはっきりしない者に貸して。」
「なあに、あんた達の人となりを見せてもらって信用できると判断した。それに、そっちの嬢ちゃんには孫の命を助けてもらったしな。せめてもの恩返しじゃ。儂らにはこれくらいのことしか出来んが勘弁してくれ。」
ソフィアは、とんでもないと言うように胸の前で手を振っている。村長相手にはあまり話さないが、礼を言われて恐縮しているのだろう。魔族なのに結構人間ぽいところがある。そう言えば、ソフィアは森から追い出されたと言っていたけれどこの村にいるのはOKなのだろうか。一応森からは出ているとも言えるが微妙なところだ...。それに...と今頃気付いた。ソフィアはこの森の魔族じゃない。この森に住む魔族はエルフ、ドワーフ、アラクネ、ラミア、オーガだけだ。とすると、ソフィアはどこか他の魔族の住むところから森に来たことになる。でもせっかく来たのに、森を追い出されることになったわけだ。きっと複雑な事情があるんだろうな...。
10日目の朝、約束通りオーガキングが再び村を訪れた。慌てて出迎えに向かう村長や隊長と一緒にオーガキングの元に走る。村の護衛としての最後の仕事のつもりだ。俺達の前に来るとオーガキングは満足そうにいった。
「こうじ、おわった。にんげんのくににつづくみち、とおりやすくなった。じゆうにつかってよい。」
なんと、やはり人間の国には自由に行って良いらしい。これなら計画どおり薬草の販売に出かけられそうだと喜ぶ。だが、オーガキングは続けて言う。
「おさは、おれといっしょにくる。どくりつせんげんにいく。」
いよいよ独立宣言をするのか。戦争にならなければ良いが....。戦争になったら薬草の販売どころではなくなる。俺達の人生がかかっているのだ。祈るような気持ちでいると、村長が隊長を同伴して良いかオーガキングに尋ねている。オーガキングが快諾すると、村長と隊長はオーガキングと共に出発した。
その日の昼なると、村に魔族が何人かやって来た。トクスも一緒にやって来たが、彼は通訳と言うことらしい。森からこちらにやって来た魔族は沢山いたのだが、ほとんどが村を迂回して山の方に向かって行き、村に入って来たのはトクス以外には3人だけだ。驚いたことに村に入って来たのはラミアの女性ばかりだ。話には聞いていたがラミアを見るのは初めてだ。ラミアは上半身は人間そっくりだが下半身が蛇の魔族だ。下半身の蛇の部分は5メートルくらいの長さがある。高齢のラミアがひとり、後は若い娘がふたりだ。高齢のラミアは見事な白髪だが、娘はふたりとも黒髪を長く伸ばした美人で、胸部がソフィア並みに魅力的だ。上半身には人間と同じ様な服を着ているが、下は腰に短いスカートの様なものを着用していて、そこから蛇の下半身が出ている。
ちなみに、いままで俺達は魔族を1匹、2匹と数えていたが、村長からの通達で、今後は人間と同様、ひとり、ふたりと数えることになった。同じ国民になったのに差別的な数え方をしていては、良い関係を築く妨げになるということらしい。俺も同感だ。
ドワーフのトクスが流暢な人間の言葉で、恐々と広場に集まったに村人に呼びかける。
「今日は、今日は皆さんに魔族の国の身分証をお渡しに来ました。これは通行許可書でもあります。この身分証を持っていれば国内のどこに行っても咎められることはありません。ただし、残念なことに、魔族の中には人間に恨みを持っている者達が一定数居ることも事実です。ですので、この村の外に出る場合は、前もって我々に相談していただくことをお勧めします。行先によっては警護の者を手配させていただきます。
それでは、順に手続きしていきますので、1列に並んでください。最初に名前を伺います。その次に魔道具に手を置いて魔力パターンを登録し、最後に身分証のお渡しとなります。
なお、もちろん魔族の国の国民になることを希望しない方にはお渡しできません。その方達は列には並ばないでください。」
トクスの指示に合わせ俺達も列に並ぶ。トクスはああいったが、村人は全員魔族の国の国民になることを選んだ様だ。列の最後に並んでいた俺達に順番が回って来るのに2時間ほど掛ったが、200人という人数を考えたら仕方ないだろう。まず最初に高齢のラミアの前のカウンターに行く。ラミア達はとぐろを巻いてその上に腰かけている。ラミアが座るときはこうするのだと初めて知った。ラミアの横にいるトクスが「お名前をお願いします。」と言う。「カラシン」と答えると、ラミアがなにか石板の様な道具に書き込んでいる。ひとり目の手続きはこれで終わったようで。ふたり目の前に行くと。カウンターの上に巨大な水晶球が置いてあり、「て、のせる」とジェスチャー付きで指示された。言われるまま水晶に手を乗せると水晶が淡く光るが、それだけだ。3人目のラミアの前に行くと緑色の長さ10センチメートル、幅5センチメートルくらいの板状の物を渡された。これが身分証と言うことらしい。表面には何か文字が書かれている。トクスの話では魔族の言葉で名前と性別、種族、住んでいる場所が書かれているらしい。
俺が最後だったので、手が空いたトクスに先ほど山に向かった魔族達が何をしに行ったのか聞いてみる。機密事項ですと言われるかと覚悟していたのだが、意外にも答えが返って来た。
「昨日出来た人間の国に続く道の守備隊だ。一緒に居たドワーフ達道に門を設けるための工夫だな。国境なので出入りする者達を確認しないわけに行かない。でも、確認するのは主に人間の国からこちらに入ってくる者達に対してだ。おまえ達は身分証を示せば自由に通行できるぞ。」
まあ当然だな。あのように戦略上重要な場所を放って置く方がおかしいからな。それから人間の国の通貨が魔族の国でも使えるのかも尋ねた。今までうっかりしていたのだが、いくら薬草を売って金を儲けても、その金を使えるのが人間の国だけでは不便極まりない。だが、トクスの回答は俺達を安心させるものだった。
「大丈夫だ。金、銀、銅の貴金属は魔族の国でも価値があるからな。それに魔族の国でも独自の通貨を作る計画がある、将来は貴金属の含有量に合わせて通貨を交換することも可能になる予定だ。」
なんと魔族の国独自の通貨を作るのか。オーガキングは色々と考えている様だ。とんでもない切れ者なのか、それとも優秀な参謀が付いているのか知らないが、只者で無いことだけは確かだな。
(ラミアの娘視点)
婆様から、次の目的地は人間の村だと聞いて気を失いそうになった。隣で聞いていたトルネも顔が引きつっている。人間...凶悪な侵略者。私達の森を奪い、沢山の仲間を殺したと聞いている。我ら魔族の王、マルシ様が人間を魔族の国の6番目の種族として認めたと聞いた時には、自分の耳を疑ったものだ。
「婆様、無理です。そんな所に行けません。私、食べられてしまいます。」
頭の中には、私達3人が何十人もの人間に襲われ、串刺しにされてる光景が目に浮かぶ。
「アリスよ、王の命に逆らうつもりかの。身分証の発行は我らラミアに課された仕事じゃ、たとえ相手が人間であろうともなさねばならん。」
「でも...」
「大丈夫じゃ、最強の結界の魔道具を持って行く。それに村にはオーガ族の護衛もおるという。何かあったら助けてくれようぞ。」
確かに王の命令に逆らってはこの森で生きていけない。しかし、なんで人間なんかを国民と認めたんだ? 婆様は、きっと王には私達には分からない深いお考えがあるのだと言うが、せめて説明だけはして欲しい。
死地に向かう気分で人間の村に向かう。幸いにも、道中は新しく出来た道の守備に赴任するオーガ族やアラクネ族の兵士と一緒で心強かった。ドワーフ族の工夫達も一緒だ。だがそれも村の入り口までで、ここからは私達3人だけ...と思ったが、村の護衛に当たっているドワーフが付いて来てくれることになった。なんでも人間の言葉を話せるので通訳の役目も任されているそうだ。
人間の村に入ると、前もって知らせが行っていたからか、すでに村の広場に全員が集まっている様だった。全員で200人くらい。武器の様な物を持っている人間がいないことを確認してホッとする。でも油断はしない。首からぶら下げた結界の魔道具を何時でも発動できるように握りしめる。
まずドワーフのトクスさんが村人達に呼びかけた。何と言っているのかは分からないが、恐らく人間の言葉で今から行う作業の説明をしているのだろう。説明が終わったら、用意されていた台の上に身分証発行用の魔道具を並べ作業を開始する。各種族の村を回って何度も繰り返している作業なので慣れたものだ。
トクスさんは婆様に付いて、村人の名前を確認する係を引き受けてくれた。私は水晶球の魔道具での魔力パターンの測定係だ。村人が私のところへ来ると、トクスさんに教えてもらった通り、「て、のせる」とジェスチャーを混ぜて伝えると、たいていの村人はすぐにこちらの意図を理解して水晶球に手を乗せてくれた。今のところ危険はなさそうだ。
少し気持ちが落ち着いてくると、何かを感じ始めた。美味しそうな匂いだ...。何の匂いなんだろうと不思議に思っていたが、しばらくして気付いた。これは人間の発する匂いだ。人間ってこんな美味しそうな匂いがするんだと初めて知った。なんという矛盾、憎い敵のはずなのにこんなにいい匂いがするなんて...。特にマイケルとかいう体格の良い黒髪の人間からはたまらない程良い匂いがして、思わず涎が垂れるところだった。あの美味しそうな肩の肉をひと齧りさせてくれたら、この人の卵を産んでもいいと思わせる匂いだ。もちろん理性でそんなはしたない欲求はねじ伏せたが。
美味しそうな匂いの男性の次は、金髪の女性だ。かなりの美人で、胸も私と同じくらいある。負けてないからねと思わず胸をそらす。名前はソフィアだそうだ。魔道具の水晶に手を置かせて魔力パターンを測定するが、台座に表示される魔力値を見て驚いた。3200! 故障かと思い、もう一度計ったが同じだった。嘘だろう...。魔族の中でも私達ラミア族とエルフ族は特に魔力が強い。それでも魔力値は多くて1000くらいだ。私の魔力値は1200。ラミアで最高だと自負していたのに人間に負けるなんて...。
あれ? 人間で名前がソフィアね、どこかで聞いたような...。確か精霊王様が森で拾った子供がソフィアじゃなかったかな。子供の頃に聞いた話なので自信は無いが、金髪で青い目だったと思う。森で会っても決して危害を加えてはならないと親からきつく言われたから印象に残っている。精霊王様を怒らせたら私達など簡単に消されてしまうぞ、と脅かされたものだ。ひょっとして、この人があのソフィア? まさか...だって本物なら精霊王様と一緒にいるはずだ。でも...もしそうだとしたら王様がこの村の人間を魔族として認めたのも納得がいく。精霊王様が育てている子供に何かあったら、どの様な罰が下されるか分からない...。
とんでもないことに気付いてしまった。私達に知らされていないと言うことは極秘事項なんだろう。国家機密ってやつだ。うかつに喋ったら殺されるかもしれない。うわ~~~っ、どうしよう...。
その日の夕食時、そろそろ村の用心棒としての俺たちは不要ではないかと言うことと、今後は魔族の国の国民になって、森での薬草の採取と販売を生業にすることを考えていることを伝えた。
「そう言うわけで、一旦村を出て、薬草を売りに町に行ってみたいと考えています。宜しいでしょうか。」
「勿論じゃよ。いや、世話になった。結果的に戦いにはならんかったが、オーガキングが来た時に一緒にいてくれたのは心強かったわい。」
「あの時は、オーガキングを前にしての村長の堂々とした受け答えに関心しましたよ。俺なんか震えが止まりませんでしたからね。」
「何を言っとる。あの時は膝がガクガクして、座り込みそうなのを必死で堪えておったよ。儂こそ冒険者というのは大したものじゃと関心しておったのに
。」
「それでは、お互い様だったんですね。」
「そのようじゃの。」
それから、俺たちはお互いの顔を見つめ合いながら笑い出した。お互い様だったのが可笑しかったのだ。
その後、今度戻ってくる時は宿泊料を払いたい旨話をすると、「それなら家を一軒やろう」と言われた。
「はい?」
と、思わず言葉に詰まる。いくら田舎とはいえ、家だぞ、簡単に人にあげるものじゃ無いだろう。
「実は、この前オーガキングが来た時に村から逃げ出した奴らがいてな、そいつらの住んでた家が何軒か空き家になっとる。村の皆と話し合ったんじゃが、そいつらの家は村の共同財産にすることにした。まあ、共同財産なんで正確にはやるわけでは無い、無償貸与ということじゃ。家財道具も残っとるからな、そのまま住めるぞ。」
「しかし、良いのですか? 自分で言うのもおかしいですが、冒険者なんて身元のはっきりしない者に貸して。」
「なあに、あんた達の人となりを見せてもらって信用できると判断した。それに、そっちの嬢ちゃんには孫の命を助けてもらったしな。せめてもの恩返しじゃ。儂らにはこれくらいのことしか出来んが勘弁してくれ。」
ソフィアは、とんでもないと言うように胸の前で手を振っている。村長相手にはあまり話さないが、礼を言われて恐縮しているのだろう。魔族なのに結構人間ぽいところがある。そう言えば、ソフィアは森から追い出されたと言っていたけれどこの村にいるのはOKなのだろうか。一応森からは出ているとも言えるが微妙なところだ...。それに...と今頃気付いた。ソフィアはこの森の魔族じゃない。この森に住む魔族はエルフ、ドワーフ、アラクネ、ラミア、オーガだけだ。とすると、ソフィアはどこか他の魔族の住むところから森に来たことになる。でもせっかく来たのに、森を追い出されることになったわけだ。きっと複雑な事情があるんだろうな...。
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「こうじ、おわった。にんげんのくににつづくみち、とおりやすくなった。じゆうにつかってよい。」
なんと、やはり人間の国には自由に行って良いらしい。これなら計画どおり薬草の販売に出かけられそうだと喜ぶ。だが、オーガキングは続けて言う。
「おさは、おれといっしょにくる。どくりつせんげんにいく。」
いよいよ独立宣言をするのか。戦争にならなければ良いが....。戦争になったら薬草の販売どころではなくなる。俺達の人生がかかっているのだ。祈るような気持ちでいると、村長が隊長を同伴して良いかオーガキングに尋ねている。オーガキングが快諾すると、村長と隊長はオーガキングと共に出発した。
その日の昼なると、村に魔族が何人かやって来た。トクスも一緒にやって来たが、彼は通訳と言うことらしい。森からこちらにやって来た魔族は沢山いたのだが、ほとんどが村を迂回して山の方に向かって行き、村に入って来たのはトクス以外には3人だけだ。驚いたことに村に入って来たのはラミアの女性ばかりだ。話には聞いていたがラミアを見るのは初めてだ。ラミアは上半身は人間そっくりだが下半身が蛇の魔族だ。下半身の蛇の部分は5メートルくらいの長さがある。高齢のラミアがひとり、後は若い娘がふたりだ。高齢のラミアは見事な白髪だが、娘はふたりとも黒髪を長く伸ばした美人で、胸部がソフィア並みに魅力的だ。上半身には人間と同じ様な服を着ているが、下は腰に短いスカートの様なものを着用していて、そこから蛇の下半身が出ている。
ちなみに、いままで俺達は魔族を1匹、2匹と数えていたが、村長からの通達で、今後は人間と同様、ひとり、ふたりと数えることになった。同じ国民になったのに差別的な数え方をしていては、良い関係を築く妨げになるということらしい。俺も同感だ。
ドワーフのトクスが流暢な人間の言葉で、恐々と広場に集まったに村人に呼びかける。
「今日は、今日は皆さんに魔族の国の身分証をお渡しに来ました。これは通行許可書でもあります。この身分証を持っていれば国内のどこに行っても咎められることはありません。ただし、残念なことに、魔族の中には人間に恨みを持っている者達が一定数居ることも事実です。ですので、この村の外に出る場合は、前もって我々に相談していただくことをお勧めします。行先によっては警護の者を手配させていただきます。
それでは、順に手続きしていきますので、1列に並んでください。最初に名前を伺います。その次に魔道具に手を置いて魔力パターンを登録し、最後に身分証のお渡しとなります。
なお、もちろん魔族の国の国民になることを希望しない方にはお渡しできません。その方達は列には並ばないでください。」
トクスの指示に合わせ俺達も列に並ぶ。トクスはああいったが、村人は全員魔族の国の国民になることを選んだ様だ。列の最後に並んでいた俺達に順番が回って来るのに2時間ほど掛ったが、200人という人数を考えたら仕方ないだろう。まず最初に高齢のラミアの前のカウンターに行く。ラミア達はとぐろを巻いてその上に腰かけている。ラミアが座るときはこうするのだと初めて知った。ラミアの横にいるトクスが「お名前をお願いします。」と言う。「カラシン」と答えると、ラミアがなにか石板の様な道具に書き込んでいる。ひとり目の手続きはこれで終わったようで。ふたり目の前に行くと。カウンターの上に巨大な水晶球が置いてあり、「て、のせる」とジェスチャー付きで指示された。言われるまま水晶に手を乗せると水晶が淡く光るが、それだけだ。3人目のラミアの前に行くと緑色の長さ10センチメートル、幅5センチメートルくらいの板状の物を渡された。これが身分証と言うことらしい。表面には何か文字が書かれている。トクスの話では魔族の言葉で名前と性別、種族、住んでいる場所が書かれているらしい。
俺が最後だったので、手が空いたトクスに先ほど山に向かった魔族達が何をしに行ったのか聞いてみる。機密事項ですと言われるかと覚悟していたのだが、意外にも答えが返って来た。
「昨日出来た人間の国に続く道の守備隊だ。一緒に居たドワーフ達道に門を設けるための工夫だな。国境なので出入りする者達を確認しないわけに行かない。でも、確認するのは主に人間の国からこちらに入ってくる者達に対してだ。おまえ達は身分証を示せば自由に通行できるぞ。」
まあ当然だな。あのように戦略上重要な場所を放って置く方がおかしいからな。それから人間の国の通貨が魔族の国でも使えるのかも尋ねた。今までうっかりしていたのだが、いくら薬草を売って金を儲けても、その金を使えるのが人間の国だけでは不便極まりない。だが、トクスの回答は俺達を安心させるものだった。
「大丈夫だ。金、銀、銅の貴金属は魔族の国でも価値があるからな。それに魔族の国でも独自の通貨を作る計画がある、将来は貴金属の含有量に合わせて通貨を交換することも可能になる予定だ。」
なんと魔族の国独自の通貨を作るのか。オーガキングは色々と考えている様だ。とんでもない切れ者なのか、それとも優秀な参謀が付いているのか知らないが、只者で無いことだけは確かだな。
(ラミアの娘視点)
婆様から、次の目的地は人間の村だと聞いて気を失いそうになった。隣で聞いていたトルネも顔が引きつっている。人間...凶悪な侵略者。私達の森を奪い、沢山の仲間を殺したと聞いている。我ら魔族の王、マルシ様が人間を魔族の国の6番目の種族として認めたと聞いた時には、自分の耳を疑ったものだ。
「婆様、無理です。そんな所に行けません。私、食べられてしまいます。」
頭の中には、私達3人が何十人もの人間に襲われ、串刺しにされてる光景が目に浮かぶ。
「アリスよ、王の命に逆らうつもりかの。身分証の発行は我らラミアに課された仕事じゃ、たとえ相手が人間であろうともなさねばならん。」
「でも...」
「大丈夫じゃ、最強の結界の魔道具を持って行く。それに村にはオーガ族の護衛もおるという。何かあったら助けてくれようぞ。」
確かに王の命令に逆らってはこの森で生きていけない。しかし、なんで人間なんかを国民と認めたんだ? 婆様は、きっと王には私達には分からない深いお考えがあるのだと言うが、せめて説明だけはして欲しい。
死地に向かう気分で人間の村に向かう。幸いにも、道中は新しく出来た道の守備に赴任するオーガ族やアラクネ族の兵士と一緒で心強かった。ドワーフ族の工夫達も一緒だ。だがそれも村の入り口までで、ここからは私達3人だけ...と思ったが、村の護衛に当たっているドワーフが付いて来てくれることになった。なんでも人間の言葉を話せるので通訳の役目も任されているそうだ。
人間の村に入ると、前もって知らせが行っていたからか、すでに村の広場に全員が集まっている様だった。全員で200人くらい。武器の様な物を持っている人間がいないことを確認してホッとする。でも油断はしない。首からぶら下げた結界の魔道具を何時でも発動できるように握りしめる。
まずドワーフのトクスさんが村人達に呼びかけた。何と言っているのかは分からないが、恐らく人間の言葉で今から行う作業の説明をしているのだろう。説明が終わったら、用意されていた台の上に身分証発行用の魔道具を並べ作業を開始する。各種族の村を回って何度も繰り返している作業なので慣れたものだ。
トクスさんは婆様に付いて、村人の名前を確認する係を引き受けてくれた。私は水晶球の魔道具での魔力パターンの測定係だ。村人が私のところへ来ると、トクスさんに教えてもらった通り、「て、のせる」とジェスチャーを混ぜて伝えると、たいていの村人はすぐにこちらの意図を理解して水晶球に手を乗せてくれた。今のところ危険はなさそうだ。
少し気持ちが落ち着いてくると、何かを感じ始めた。美味しそうな匂いだ...。何の匂いなんだろうと不思議に思っていたが、しばらくして気付いた。これは人間の発する匂いだ。人間ってこんな美味しそうな匂いがするんだと初めて知った。なんという矛盾、憎い敵のはずなのにこんなにいい匂いがするなんて...。特にマイケルとかいう体格の良い黒髪の人間からはたまらない程良い匂いがして、思わず涎が垂れるところだった。あの美味しそうな肩の肉をひと齧りさせてくれたら、この人の卵を産んでもいいと思わせる匂いだ。もちろん理性でそんなはしたない欲求はねじ伏せたが。
美味しそうな匂いの男性の次は、金髪の女性だ。かなりの美人で、胸も私と同じくらいある。負けてないからねと思わず胸をそらす。名前はソフィアだそうだ。魔道具の水晶に手を置かせて魔力パターンを測定するが、台座に表示される魔力値を見て驚いた。3200! 故障かと思い、もう一度計ったが同じだった。嘘だろう...。魔族の中でも私達ラミア族とエルフ族は特に魔力が強い。それでも魔力値は多くて1000くらいだ。私の魔力値は1200。ラミアで最高だと自負していたのに人間に負けるなんて...。
あれ? 人間で名前がソフィアね、どこかで聞いたような...。確か精霊王様が森で拾った子供がソフィアじゃなかったかな。子供の頃に聞いた話なので自信は無いが、金髪で青い目だったと思う。森で会っても決して危害を加えてはならないと親からきつく言われたから印象に残っている。精霊王様を怒らせたら私達など簡単に消されてしまうぞ、と脅かされたものだ。ひょっとして、この人があのソフィア? まさか...だって本物なら精霊王様と一緒にいるはずだ。でも...もしそうだとしたら王様がこの村の人間を魔族として認めたのも納得がいく。精霊王様が育てている子供に何かあったら、どの様な罰が下されるか分からない...。
とんでもないことに気付いてしまった。私達に知らされていないと言うことは極秘事項なんだろう。国家機密ってやつだ。うかつに喋ったら殺されるかもしれない。うわ~~~っ、どうしよう...。
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一人の客人をもてなしたのだ。
その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。
【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。
彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。
そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。
そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。
やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。
ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、
「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。
学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。
☆第2部完結しました☆
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