魔物の森のソフィア ~ある引きこもり少女の物語 - 彼女が世界を救うまで~

広野香盃

文字の大きさ
21 / 71

21. 性教育を受けるソフィア

しおりを挟む
(ケイト視点)

山賊の男が走り去った後、私はソフィアに尋ねた。

「ソフィア、あの光の球はまだしばらくもつかしら。」

「あと30ぷんくらい。たりなければ、またつくる」

「そう、それだったらここを離れない? さすがに死体の傍で夜を明かしたくないもの。」

 全員の賛成が得られたので、テントを畳んで移動を再開する。あの光の球は数十メートル上空を漂いながらソフィアに付いて来る様で、夜中でも歩くのに不自由はない。もっとも山賊達に私達の居場所を知らせている様なものだけど、あれだけ痛い目に遭った直後に再度襲って来る可能性は低いだろう。

「しかし、酷いもんス。あれじゃ農民が可哀そうス。」

とマイケルがぽつりと独り言を言う。

「まったくだわ、村長が国を嫌っていた理由が良く分かるわね。」

「たすける、どうすればよい?」

「私達みたいな冒険者にはどうしようも無いわ。いっそのことオーガキングが人間の国を征服したら何か変わるのかしら。」

「おいケイト、物騒な事を言うもんじゃない。誰かに聞かれたらやばいぞ。」

「ここだけの話よ。正直オーガキングの方が人間の王様よりましかもしれないわよ。村長もそう思ったから魔族の国に付いたんだし。」

「まあ、異論はないけどな。」

「結局、王様が変わらないと国は良くならないということスかね。」

「そうかもしれんな。マイケルが王様になればどんな国になるかな。」

「俺がっスか? こんな頭の悪い奴が王様になったら、すぐに国が潰れるっスよ。俺なんかよりソフィアちゃんの方がよっぽど王様に向いてるっス。王様じゃなく女王様っスけど。なんか高貴な感じがするっスよ。」

「こうき、なに?」

ソフィアはまだ難しい言葉は分からない様だ。

「高貴って言うのはね、貴族様や王様みたいに偉い人のことよ。」

「わたし、こうきちがう。こうきは、おかあさん。」

「へー、ソフィアちゃんのお母さんは高貴なんだ。」

「おかあさん、おうさま」

「そうなんだ、でもお母さんなら王様じゃなくて女王様だよね。」

「じょうおうさま、ちがう、おうさま」

「そうなんだ...」

 どうも王様と女王様の違いが分かっていない様だ。ソフィアの家ではお父さんよりお母さんが威張っているから、お母さんが王様なんだろうか? まあ、人の家庭のことに首を突っ込むのはやめておこう。

 それからしばらく歩き、戦闘があった場所から少し距離を取れたところで、再びテントを張った。今夜はここで、ふたりずつ交代で見張りしながら眠ることにする。




(ソフィア視点)

 一度人間(山賊と言うらしい)との戦闘があってからは、特に襲われることはなく、数日して私達はマルトと言う町に到着した。この町への途中、寝る時には交代で見張りをした。お母さんに貰った結界石を使うことも考えたが、あれは魔物の侵入を防ぐためのもので、矢の様な飛んで来る武器の侵入は防げないと思い当たって諦めた。

 カラシンさん達はこの数年この町を中心に活動していたらしい。この町の周辺の山々には魔物が生息しているところが多い。カラシンさん達はその山々で魔物退治をしたり、薬草を採取したりして報酬をもらっていたそうだ。

 この町には村よりもずっと沢山の人間がいると言われた。その上、町に入ると擦れ違う人達が皆私を睨んでいる様な気がする。恐怖に固まった私はカラシンさんの上着の裾を掴んでピッタリとくっつき、カラシンさんの背中だけを見つめて歩いている。周りを見て人と目が合うのが怖い。

 まずは宿屋に向かう。町に到着したのは夕方なので、活動するのは明日からにして、今日はゆっくり休んで旅の疲れを取ろうと言う事になっている。町の入り口から少し歩いたところにある宿屋に入った。カラシンさん達がよく利用している宿屋で、一泊朝食付きで銀貨10枚とのことだ。私はお金を持っていないと言ったら、村長さんに村の護衛の報酬をもらっているから大丈夫と言われた。後で皆に分配するよと言われたが、私はお金を貰っても使い方が分からない。カラシンさんに預かっていて欲しいと伝えたら了承してくれた。カラシンさんがいて本当に助かる。

 宿屋で借りた部屋はふたつで、私とケイトさんの部屋、カラシンさんとマイケルさんの部屋だ。私はカラシンさんと同じ部屋が良いのだが、それを言ったらケイトさんが怖い顔で 「ダメ!」 と言ったので素直に従った。女の子のたしなみというやつらしい。

 部屋に付くとケイトさんが、

ようやく女ふたりだけに成れたから、ちょっと女性の身体について教えておくわね。性教育ってやつよ。カラシンと間違いがあってからでは遅いからね。」

と言って来た。

「せいきょういく、なに?」

「子供の作り方についてよ。どうすれば子供が出来るのか知っておけば、望まないのに子供が出来ることも防げるからね。」

「カラシンのこども? わたしほしい。つくりかたしりたい。」

と思わず口走っていた。今じゃないけどカラシンさんの子供は欲しい。どうすれば良いのか是非知りたい。だけどケイトさんは私の勢いに引いたのか、

「ち、ちょっとまって。まだ子供は早いって。」

と言う。

「すぐちがう、いまのわたし、いいおかあさんちがう。」

「そうなの?」

「おかあさん、すごいひと、なんでもできる。わたし、できないこと、しらないこと、たくさんある。いいおかあさん、なれない。」

「そうなんだ。ソフィアのお母さんはすごい人なのね」

「おかあさん、すごい。わたし、かなわない。いいおかあさんなれない。」

何だか話している内に絶望感に襲われた。私はお母さんには決して届かない。知識でも魔力でも力でも...沢山の精霊や魔族がお母さんを尊敬して慕っている。どう考えてもかなわない。私はあんなすごいお母さんに成れない。私が子供を産んだら、子供が可哀そうだ。そんなことを考えていると涙がこぼれた。

「泣かないの。子供はね、すごい親なんて望んでいないのよ。子供が望んでいるのは、一緒にいて自分を愛してくれる親よ。少なくとも私達孤児はなんでも出来る親なんて望まなかった。一緒にいて優しくしてくれる親が欲しかった。馬鹿でも出来ないことが沢山あっても、そんなのどうでも良かったわ。だからね、ソフィアは今のままで十分よ、良いお母さんになれるわよ。」

「ほんとう?」

「本当よ。もしお母さんが馬鹿で何もできない人だったら、ソフィアは嫌いになった?」

そう言われて、初めて自分が間違っていたことに気付いた。ケイトさんの言う様に、たとえお母さんが馬鹿で何も出来なくても、きっと大好きだったと思う。いつも私の傍にいて優しい言葉を掛けてくれ、いつも私のことを気にかけてくれたもの。それが分かるとすごく嬉しくなって、

「わたし、こどもつくる。すぐ、つくる。」

とケイトさんを見つめて叫んでいた。早く子供を作る方法を教えて欲しい。でも、ケイトさんは何故か「しまった! こんなはずじゃ...」とか言って、なかなか教えてくれない。

 その時、扉がノックされた。カラシンさんが「食事に行かないか」と誘いに来てくれたのだ。マイケルさんも一緒だ。ケイトさんはホッとしたように、「続きはまた後でね」と言って来た。仕方がない、カラシンさん達を待たせるわけにもいかないし、子供の作り方は今夜部屋に帰った時に教えてもらおう。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎ 倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。 栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。 「責任、取って?」 噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。 手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。 けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。 看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。 それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。

没落港の整備士男爵 ~「構造解析」スキルで古代設備を修理(レストア)したら、大陸一の物流拠点になり、王家も公爵家も頭が上がらなくなった件~

namisan
ファンタジー
大陸の南西端に位置するベルナ子爵領。 かつては貿易で栄えたこの港町も、今は見る影もない。 海底には土砂が堆積して大型船は入港できず、倉庫街は老朽化し、特産品もない。借金まみれの父と、諦めきった家臣たち。そこにあるのは、緩やかな「死」だけだった。 そんな没落寸前の領地の嫡男、アレン(16歳)に転生した主人公には、前世の記憶があった。 それは、日本で港湾管理者兼エンジニアとして働き、現場で散った「整備士」としての知識。 そして、彼にはもう一つ、この世界で目覚めた特異な能力があった。 対象の構造や欠陥、魔力の流れが設計図のように視えるスキル――【構造解析】。 「壊れているなら、直せばいい。詰まっているなら、通せばいい」 アレンは錆びついた古代の「浚渫(しゅんせつ)ゴーレム」を修理して港を深く掘り直し、魔導冷却庫を「熱交換の最適化」で復活させて、腐るだけだった魚を「最高級の輸出品」へと変えていく。 ドケチな家令ガルシアと予算を巡って戦い、荒くれ者の港湾長ゲンと共に泥にまみれ、没落商会の女主人メリッサと手を組んで販路を開拓する。 やがてその港には、陸・海・空の物流革命が巻き起こる。 揺れない「サスペンション馬車」が貴族の移動を変え、「鮮度抜群の魚介グルメ」が王族の胃袋を掴み、気性の荒いワイバーンを手懐けた「空輸便」が世界を結ぶ。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

処理中です...