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40. ボルダール伯爵を見捨てる宰相
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(宰相視点)
突然ドラゴンが城を襲い、ブレス1発で城の城壁を広範囲に破壊した。しかも投石器も魔法兵たちの攻撃も全く効果が無い。俺はたまらず"神の力"の使用を命じた。魔族との戦いに取って置くつもりだったが、こうなっては仕方がない。その結果ドラゴンの殲滅に成功したが、城にいた魔法兵1000人の内500人が犠牲となった。
"神の力"は10年前に魔道具研究所のドレーク博士が発明した魔道具だ。送信機と受信機に分かれており、送信機を装着した魔法使いの魔力を、受信機を装着した人間に送ることが出来る。複数の送信機から同じ受信機に魔力を送ることが出来るから、送信機を装着した魔法使いが多数いれば、それだけ沢山の魔力を受信機を装着した人間に送ることができ、条件次第では、受信機を装着した人間は何十人、何百人分の魔力を使って魔法を行使し、まさに名前の通り、神のごとき力を使うことが出来るわけだ。しかも受信機は魔法使いでなくても使用可能と言うのが俺の興味を引いた。俺は魔法が使えないことに強い劣等感をもっていた。だが、この魔道具を使えば魔法の才能がない俺でも強力な魔法が使える。
もっとも俺が気付いた時には、この発明は失敗作として忘れ去られていた。致命的な欠点があったのだ。それは、魔力の送信者と受信者のタイミングが合わなければ魔力の受け渡しがうまく行かないこと。そのため魔力の送信者と受信者は直ぐ近くにいて互いに合図をしながらタイミングを合わせる必要がある。すぐ近くに多くの魔法使いが居るのであれば、何も魔力をひとりに集めなくても全員で同じ魔法を使えば結果は同じだと判断され失敗作とされた。誰が判断したのか分からないが戦争を知らない奴のたわごとだ。例えば敵の城壁をファイヤーボールで攻撃するとして、沢山の魔法使いがバラバラに攻撃するのと、同じ魔力で巨大なファイヤーボールを作って攻撃するのとでは威力が全く違う。攻撃のタイミングと位置を正確に合わせることが出来れば、威力は格段に増す。今日のドラゴンへの攻撃が良い例だ。
この魔道具の可能性に気付いた俺は、博士に"神の力"と"隷属の首輪"とを組み合わせることを命じた。"隷属の首輪"は子機と親機に分かれ。親機を装着した人間は子機を装着した人間に念波を送り思い通りに動かすことが出来る。距離も数キロメートルまでは離れていても問題ない。親機を装着した人間も常に念波を出すわけに行かないから数時間が限度だが、この間は相手を完全にコントロールできる。またコントロールされている間の出来事は記憶に残らないだけでなく、暗示を掛ければ偽の記憶を埋め込むことも可能だ。これと神の力を組み合わせれば、送信機を装着した魔法使いと受信機を装着した魔法使いでタイミングがずれることは無いし、送信者と受信者に距離があっても使用できる。受信者だけで行動できるから機動力も格段に上がるわけだ。
ドレーク博士は当初、人道に外れるとして国家間の条約で禁止されている"隷属の首輪"を使うことに躊躇していたが、少し脅すだけで言うことを聞いた。出来上がったのは神の力と隷属の首輪を組み合わせた魔道具だ。一方には"神の力"の送信機と"隷属の首輪"の子機、もう一方には"神の力"の受信機と"隷属の首輪"の親機を組み合わせてある。早速行った実験の成果は素晴らしいものだった。魔法の発動は一度も不発に終わることなく、その威力も一段と上がっていた。だが新たな問題も発覚した。神の力の送信機を装着した10名の魔法使いの内、ふたりが死亡、ふたりが精神に異常をきたして廃人となったのだ。自分の限界を超えて魔力を放出した反動らしい。自分の意思で魔力を放出している時は限界内でしか魔力を使わないが、"隷属の首輪"のコントロール下にあるときは自制が効かないらしい。
まあ良い、魔法使いを消耗品と考えれば良いだけだ。"神の力"が実用化されれば、国家の戦力は兵士の数だけでなく、魔法使いの数で決まってくる様になるだろう。私は軍に命じて魔法兵を大々的に募集させた。もちろん待遇は他の兵士より格段に上にする。給料、宿舎、食事、階級、すべてにおいて特別扱いだ。さらに兵のひとりひとりに女奴隷をあてがって身の回りの世話をさせる。もちろん夜の相手をさせるのも自由だ。この策は当たり、国内だけでなく国外からも続々と魔法使いがやって来た。その結果、我が国の魔法兵の数は1万人を超えた。周辺の国の中では断トツだろう。"神の力"の送信機は彼らの制服の襟に仕込んである。普段は脱着可能だが、いざという時は受信機を装着した者の操作ひとつでロックされ外せなくなる仕掛けだ。もちろん魔法兵に"神の力"の魔道具のことは秘密だ。敵に知られないためと言う事もあるが、一旦発動すれば死亡するか、廃人になる恐れがあると知られたら不味いからな。
ドラゴンを殲滅した日の夜、私は国王に呼び出され、あのドラゴンについて尋ねられた。国王とは彼がまだ王子だった時からの付き合いだ。競争相手だった兄に王座に就かれ失望していた彼をそそのかし兄の暗殺に導いたのは私だ。すべては俺の大いなる計画のためだ。子供の時、俺はこの国の王になると決めたのだ。
俺はある落ちぶれた侯爵家の5男として生まれた、しかも妾の子だ。小さい時は兄達からは散々虐められた。父親からも可愛がられなかった。使用人達も俺が家族の中で軽視されているのを感じたのだろう。俺のことは適当に扱って良いとみなしていた。なまじ頭が良かっただけに余計に疎まれた。そんな中で唯一俺を可愛がってくれていた母が死んだ。それから俺の生活は更に悲惨になった。周り中が敵だらけだった。しかも俺には魔法の才能が無かった。貴族家には魔法の才がある者が多い、尊い血筋の証だと考えられているのだ。魔法の才能が無い俺は、周りから貴族の資格すらないとまで言われた。そんな中で俺は誓った、俺の方が上だと分からせてやると。
俺は頭だけは良かった。周り中がバカに見えた。そのバカな奴らが俺をさげすんでいるのだ。だったらどちらが上か分からせてやる。この国の一番上は国王だ。ならば国王に成れば誰も俺を蔑むことは出来ない。俺は国王になると決めた。10歳の時だった。周り中敵だらけなら好都合、敵には遠慮する必要はない。それからは成人するまではひたすら目立たない様に振舞った。そして、成人して家督を継ぐことのできる歳になってから、侯爵家には奇妙な事件が続くことになった。まずは兄たちが次々に死んだ。あるものは不慮の事故で、あるものははやり病で、あるものは自殺して、そして最後に家督を継いでいた長男と、その子供がなくなり、後継ぎは俺しかいなくなった。もちろんすべて俺がやったことだ。目論見どおり侯爵家を乗っ取った俺は、しかし新たなる苛めに会うことになった。俺が継いだ侯爵家は経済的に行き詰っていた。父の事業が失敗したことが原因だったが、以前羽振りが良かった時に敵対していた貴族達から疎まれていたため、明に暗に様々な嫌がらせを受けることになった。
今の王に出会ったのはそんな時だ、当時の王は兄王子が王太子に決まり落ち込んでいた。今までちやほやしていた貴族達も自分達が支援していた王子が王に成れないと知り蜘蛛の子を散らすようにいなくなる。そんな王子に俺は起死回生の光を見た。この王子を王にすることができれば俺は王の恩人となれる。それが先王の暗殺だ、もっとも王は単に暗殺者達に命令しただけだ。それだけでうまく行くはずがない。俺がすべての段取りを付けたのだ。
そのこともあり、このバカな国王は俺のことを心から信頼して国政のほとんどを任せてくれている。おかげで俺はやりたい放題出来るわけだ。常に機嫌をとって置かねばならないのが面倒だが。
「宰相、あのドラゴンはどこから来たと思う。」
「伝説の中は別にして、ドラゴンが実際に目撃されたのはオーガキングがドラゴンに乗ってボルダール伯爵の城に乗り付けた時だけです。となれば、今回のドラゴンもオーガキングが関係していると考えるのが自然でしょう。」
「お前もそう思うか...。オーガキングもとんでもない隠し玉を持っていたな。しかし、そうだとするとオーガキングの目的は何なんだ?」
「案外、陛下のお命かもしれませんよ。タイミング的にソフィリアーヌ様の誘拐計画が実行される頃です。計画が失敗して、ボルダール伯爵当たりの口から首謀者として陛下の名前が出たのかもしれません。」
「ボルダール....あの小物め...」
「まあ、あくまで想像でしかありません。すでに情報収集の指示をだしていますので、数日の内には何か分かるでしょう。」
「分かった、それで宰相の想像が当たっていた場合だがな、俺を殺すのに失敗したと分かれば第二、第三のドラゴンを寄越すかもしれない。これ以上貴重な魔法兵を消耗することは避けたいな。いっそのこと直ちに戦争を仕掛けるか、魔法兵を使えばあの谷底の道も通過できるだろう。」
「それは愚策でございます。オーガキングにはドラゴンがあるのですよ、谷底の道を越えるのに多くの魔法兵を消耗してしまったら、後はドラゴンにやられるだけです。」
「くそ...ならばどうする。」
「ボルダール伯爵に犠牲になってもらいましょう。ソフィリアーヌ様を誘拐しようとしたのはボルダール伯爵が独断でやったことにするのです。その上でボルダール伯爵領をオーガキングに進呈して機嫌を取るのですよ。」
「正気か!? オーガキングに領地を差し出すだと。それもかなり大きな領地だぞ。そんな屈辱的なことが出来るか!」
「陛下、よくお考え下さい。いま戦争を開始してはオーガキングに勝てません。ボルダール伯爵領をオーガキングに与えれば、彼はアルトン山脈の西側にも領地を持つことになるのですよ。この意味がお分かりになりませんか?」
「まさか...オーガキングをアルトン山脈の西側におびき出すつもりか?」
「その通りでございます。間者からの報告では、オーガキングは国民を大切にする王として評判が高いとか。開拓村の人間も魔族の一員として平等に扱っている様です。それならば、ボルダール伯爵領を手に入れ、そこに住む人間達を魔族の国の国民として受け入れたなら彼らも平等に扱おうとするでしょう。視察に訪れるかもしれませんし、我が国との会議にボルダール伯爵領を指定すればやってくるかもしれません。もしボルダール伯爵領が攻撃されたらオーガキングが自ら兵を率いて出陣するかもしれません。何らかの方法で一旦谷底の道を通ってアルトン山脈の西側におびき出せれば色々と手はあります。戦争は敵国の王を殺すことができれば勝利なのですから。」
「なるほどな、流石は宰相だ。相変わらず悪知恵が働く様だな。」
「お褒めに預かり光栄にございます。」
突然ドラゴンが城を襲い、ブレス1発で城の城壁を広範囲に破壊した。しかも投石器も魔法兵たちの攻撃も全く効果が無い。俺はたまらず"神の力"の使用を命じた。魔族との戦いに取って置くつもりだったが、こうなっては仕方がない。その結果ドラゴンの殲滅に成功したが、城にいた魔法兵1000人の内500人が犠牲となった。
"神の力"は10年前に魔道具研究所のドレーク博士が発明した魔道具だ。送信機と受信機に分かれており、送信機を装着した魔法使いの魔力を、受信機を装着した人間に送ることが出来る。複数の送信機から同じ受信機に魔力を送ることが出来るから、送信機を装着した魔法使いが多数いれば、それだけ沢山の魔力を受信機を装着した人間に送ることができ、条件次第では、受信機を装着した人間は何十人、何百人分の魔力を使って魔法を行使し、まさに名前の通り、神のごとき力を使うことが出来るわけだ。しかも受信機は魔法使いでなくても使用可能と言うのが俺の興味を引いた。俺は魔法が使えないことに強い劣等感をもっていた。だが、この魔道具を使えば魔法の才能がない俺でも強力な魔法が使える。
もっとも俺が気付いた時には、この発明は失敗作として忘れ去られていた。致命的な欠点があったのだ。それは、魔力の送信者と受信者のタイミングが合わなければ魔力の受け渡しがうまく行かないこと。そのため魔力の送信者と受信者は直ぐ近くにいて互いに合図をしながらタイミングを合わせる必要がある。すぐ近くに多くの魔法使いが居るのであれば、何も魔力をひとりに集めなくても全員で同じ魔法を使えば結果は同じだと判断され失敗作とされた。誰が判断したのか分からないが戦争を知らない奴のたわごとだ。例えば敵の城壁をファイヤーボールで攻撃するとして、沢山の魔法使いがバラバラに攻撃するのと、同じ魔力で巨大なファイヤーボールを作って攻撃するのとでは威力が全く違う。攻撃のタイミングと位置を正確に合わせることが出来れば、威力は格段に増す。今日のドラゴンへの攻撃が良い例だ。
この魔道具の可能性に気付いた俺は、博士に"神の力"と"隷属の首輪"とを組み合わせることを命じた。"隷属の首輪"は子機と親機に分かれ。親機を装着した人間は子機を装着した人間に念波を送り思い通りに動かすことが出来る。距離も数キロメートルまでは離れていても問題ない。親機を装着した人間も常に念波を出すわけに行かないから数時間が限度だが、この間は相手を完全にコントロールできる。またコントロールされている間の出来事は記憶に残らないだけでなく、暗示を掛ければ偽の記憶を埋め込むことも可能だ。これと神の力を組み合わせれば、送信機を装着した魔法使いと受信機を装着した魔法使いでタイミングがずれることは無いし、送信者と受信者に距離があっても使用できる。受信者だけで行動できるから機動力も格段に上がるわけだ。
ドレーク博士は当初、人道に外れるとして国家間の条約で禁止されている"隷属の首輪"を使うことに躊躇していたが、少し脅すだけで言うことを聞いた。出来上がったのは神の力と隷属の首輪を組み合わせた魔道具だ。一方には"神の力"の送信機と"隷属の首輪"の子機、もう一方には"神の力"の受信機と"隷属の首輪"の親機を組み合わせてある。早速行った実験の成果は素晴らしいものだった。魔法の発動は一度も不発に終わることなく、その威力も一段と上がっていた。だが新たな問題も発覚した。神の力の送信機を装着した10名の魔法使いの内、ふたりが死亡、ふたりが精神に異常をきたして廃人となったのだ。自分の限界を超えて魔力を放出した反動らしい。自分の意思で魔力を放出している時は限界内でしか魔力を使わないが、"隷属の首輪"のコントロール下にあるときは自制が効かないらしい。
まあ良い、魔法使いを消耗品と考えれば良いだけだ。"神の力"が実用化されれば、国家の戦力は兵士の数だけでなく、魔法使いの数で決まってくる様になるだろう。私は軍に命じて魔法兵を大々的に募集させた。もちろん待遇は他の兵士より格段に上にする。給料、宿舎、食事、階級、すべてにおいて特別扱いだ。さらに兵のひとりひとりに女奴隷をあてがって身の回りの世話をさせる。もちろん夜の相手をさせるのも自由だ。この策は当たり、国内だけでなく国外からも続々と魔法使いがやって来た。その結果、我が国の魔法兵の数は1万人を超えた。周辺の国の中では断トツだろう。"神の力"の送信機は彼らの制服の襟に仕込んである。普段は脱着可能だが、いざという時は受信機を装着した者の操作ひとつでロックされ外せなくなる仕掛けだ。もちろん魔法兵に"神の力"の魔道具のことは秘密だ。敵に知られないためと言う事もあるが、一旦発動すれば死亡するか、廃人になる恐れがあると知られたら不味いからな。
ドラゴンを殲滅した日の夜、私は国王に呼び出され、あのドラゴンについて尋ねられた。国王とは彼がまだ王子だった時からの付き合いだ。競争相手だった兄に王座に就かれ失望していた彼をそそのかし兄の暗殺に導いたのは私だ。すべては俺の大いなる計画のためだ。子供の時、俺はこの国の王になると決めたのだ。
俺はある落ちぶれた侯爵家の5男として生まれた、しかも妾の子だ。小さい時は兄達からは散々虐められた。父親からも可愛がられなかった。使用人達も俺が家族の中で軽視されているのを感じたのだろう。俺のことは適当に扱って良いとみなしていた。なまじ頭が良かっただけに余計に疎まれた。そんな中で唯一俺を可愛がってくれていた母が死んだ。それから俺の生活は更に悲惨になった。周り中が敵だらけだった。しかも俺には魔法の才能が無かった。貴族家には魔法の才がある者が多い、尊い血筋の証だと考えられているのだ。魔法の才能が無い俺は、周りから貴族の資格すらないとまで言われた。そんな中で俺は誓った、俺の方が上だと分からせてやると。
俺は頭だけは良かった。周り中がバカに見えた。そのバカな奴らが俺をさげすんでいるのだ。だったらどちらが上か分からせてやる。この国の一番上は国王だ。ならば国王に成れば誰も俺を蔑むことは出来ない。俺は国王になると決めた。10歳の時だった。周り中敵だらけなら好都合、敵には遠慮する必要はない。それからは成人するまではひたすら目立たない様に振舞った。そして、成人して家督を継ぐことのできる歳になってから、侯爵家には奇妙な事件が続くことになった。まずは兄たちが次々に死んだ。あるものは不慮の事故で、あるものははやり病で、あるものは自殺して、そして最後に家督を継いでいた長男と、その子供がなくなり、後継ぎは俺しかいなくなった。もちろんすべて俺がやったことだ。目論見どおり侯爵家を乗っ取った俺は、しかし新たなる苛めに会うことになった。俺が継いだ侯爵家は経済的に行き詰っていた。父の事業が失敗したことが原因だったが、以前羽振りが良かった時に敵対していた貴族達から疎まれていたため、明に暗に様々な嫌がらせを受けることになった。
今の王に出会ったのはそんな時だ、当時の王は兄王子が王太子に決まり落ち込んでいた。今までちやほやしていた貴族達も自分達が支援していた王子が王に成れないと知り蜘蛛の子を散らすようにいなくなる。そんな王子に俺は起死回生の光を見た。この王子を王にすることができれば俺は王の恩人となれる。それが先王の暗殺だ、もっとも王は単に暗殺者達に命令しただけだ。それだけでうまく行くはずがない。俺がすべての段取りを付けたのだ。
そのこともあり、このバカな国王は俺のことを心から信頼して国政のほとんどを任せてくれている。おかげで俺はやりたい放題出来るわけだ。常に機嫌をとって置かねばならないのが面倒だが。
「宰相、あのドラゴンはどこから来たと思う。」
「伝説の中は別にして、ドラゴンが実際に目撃されたのはオーガキングがドラゴンに乗ってボルダール伯爵の城に乗り付けた時だけです。となれば、今回のドラゴンもオーガキングが関係していると考えるのが自然でしょう。」
「お前もそう思うか...。オーガキングもとんでもない隠し玉を持っていたな。しかし、そうだとするとオーガキングの目的は何なんだ?」
「案外、陛下のお命かもしれませんよ。タイミング的にソフィリアーヌ様の誘拐計画が実行される頃です。計画が失敗して、ボルダール伯爵当たりの口から首謀者として陛下の名前が出たのかもしれません。」
「ボルダール....あの小物め...」
「まあ、あくまで想像でしかありません。すでに情報収集の指示をだしていますので、数日の内には何か分かるでしょう。」
「分かった、それで宰相の想像が当たっていた場合だがな、俺を殺すのに失敗したと分かれば第二、第三のドラゴンを寄越すかもしれない。これ以上貴重な魔法兵を消耗することは避けたいな。いっそのこと直ちに戦争を仕掛けるか、魔法兵を使えばあの谷底の道も通過できるだろう。」
「それは愚策でございます。オーガキングにはドラゴンがあるのですよ、谷底の道を越えるのに多くの魔法兵を消耗してしまったら、後はドラゴンにやられるだけです。」
「くそ...ならばどうする。」
「ボルダール伯爵に犠牲になってもらいましょう。ソフィリアーヌ様を誘拐しようとしたのはボルダール伯爵が独断でやったことにするのです。その上でボルダール伯爵領をオーガキングに進呈して機嫌を取るのですよ。」
「正気か!? オーガキングに領地を差し出すだと。それもかなり大きな領地だぞ。そんな屈辱的なことが出来るか!」
「陛下、よくお考え下さい。いま戦争を開始してはオーガキングに勝てません。ボルダール伯爵領をオーガキングに与えれば、彼はアルトン山脈の西側にも領地を持つことになるのですよ。この意味がお分かりになりませんか?」
「まさか...オーガキングをアルトン山脈の西側におびき出すつもりか?」
「その通りでございます。間者からの報告では、オーガキングは国民を大切にする王として評判が高いとか。開拓村の人間も魔族の一員として平等に扱っている様です。それならば、ボルダール伯爵領を手に入れ、そこに住む人間達を魔族の国の国民として受け入れたなら彼らも平等に扱おうとするでしょう。視察に訪れるかもしれませんし、我が国との会議にボルダール伯爵領を指定すればやってくるかもしれません。もしボルダール伯爵領が攻撃されたらオーガキングが自ら兵を率いて出陣するかもしれません。何らかの方法で一旦谷底の道を通ってアルトン山脈の西側におびき出せれば色々と手はあります。戦争は敵国の王を殺すことができれば勝利なのですから。」
「なるほどな、流石は宰相だ。相変わらず悪知恵が働く様だな。」
「お褒めに預かり光栄にございます。」
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この度ついに完結しました。
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途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
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追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
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