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第1章 惑星ルーテシア編
21. 誘拐
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翌日、馬車は朝早くに出発し、昼前にはトロクの町に到着した。当初の予定より相当早い。
馬車を降りる時、御者さんからもお礼を言われた。
馬車を降りた後、私とハルちゃんはカトリーさんの屋敷に案内される。屋敷に着くなり、カトリーさんの父親であるマンゼート男爵から挨拶とお礼を言われる。40代の温厚そうな男性だ。男爵様の挨拶の後は昼食となった。空腹だったのと馬車の旅の粗末な食事に飽き飽きしていたので大歓迎だ。
昼食のメニューは良い意味で家庭的な料理だった。味は良いが見栄えはあまり気にしていない。でもなぜかホッとする。例えればプロの料理人ではなく、ベテラン主婦の料理と言えばよいかな。さらに、私達が昼食に加わるのは馬車がトロクに到着してから分かったことであるから、準備時間もなかったであろう。もともとは家族だけでの食事のはずだったのだから。さらに言えば、男爵というのは貴族の中で最下位なのだ、それほど裕福ではない。
男爵様はしきりに恐縮していたが、私達は貴族ではないですからお気になさらずにと言っておいた。実際、美味しかったしね。
すこし気になるのは食器類がすべて木製であることだ。女神の祝福亭でも木製の食器を使っていた。神殿では銀製の食器であった。素焼きの皿は屋台で見たのだが釉薬をかけた陶器や磁器の食器は見たことが無い。また、王都に入る前にみた畑では木製の農具が使われていた。金属製の鎧や武器があるにも関わらずである。服装でも絹の様な薄い布やレースは見たことがない。麻や木綿の布は品質の高いものがあるのに。なんか技術の発展のしかたがちぐはぐのような気がするのだ。
食事中の話題が最近の治安悪化の話に移る。
近年人間族の国では生活に困窮するものが増えており、それらの一部が無法者となり全国的に治安が悪化しているが、特にエタルナ領は他の領地から追われた無法者の逃げ込み先となっており、急激に治安が悪化しているらしい。
人間族の国では領主の権限が強い。その点は江戸時代の幕藩体制に似ている。領主は自分の領土の王様の様なもので、それぞれが小さな独立国である。従って警察権はそれぞれの領土限定。ある領主の支配地で犯罪を犯して兵に追われても、隣の領主の土地に逃げ込めれば追ってきた兵士は手が出せない。だから犯罪者は犯罪を犯すと別の領主の土地へ逃げ、その土地でまた犯罪を犯して別の土地へ逃げる。もちろん地球のインターポールみたいに領土を跨いでの警察組織はあるが、対象となるのは凶悪犯に限られる。最終的に犯罪者は領土が広い割に兵士の数の少ない辺境の土地へと逃げてくることになる。そのひとつが、エタルナ伯爵領という訳だ。
エタルナ伯爵も対応を検討しているのだが、予算的にもいきなり兵士の数を増やすわけにもいかず困っているそうだ。
「国王様に相談してみようか?」
とハルちゃんに囁くと、余計なお世話だよと窘められた。女神が相談すれば、即命令と取られるとのこと。気軽に口を挟むべきでは無いらしい。女神の立場って難しい。
ちなみに、夕食にはコカトリスの肉料理が出た。美味であった。私たちの為に奮発してくれたのかもしれない。
夕食も終わって、ハルちゃんと寝室で寛ぐ。お酒も入っているので難しい話は無しだ。 これからどうしようという話になる。個人的にはコカトリスの肉は夕食で食べられた、オークのお肉は神殿で食べた。後はグレートウルフとドラゴンだ。ドラゴンの肉は滅多に出回らないという話だから、グレートウルフのお肉を食べることが出来れば目標達成としたいところだが、正直に言うとひんしゅくを買いそうだ。明日考えようと誤魔化し寝ることにする。
その夜は久々のベッドでぐっすり眠ることが出来た。ハルちゃんが横にいるのも安眠できる要因だ。なぜか安心するんだよね。
翌朝、スッキリ寝覚めた私達が客室を出ると、屋敷中が何やら騒がしいことに気付く。メイドさんやご家族の方が何やら話ながら急ぎ足で動き回っている。馬車の中で一緒だったメイドさん通りかかったので、何かあったのか聞いてみる。
「それが、カトリーナお嬢様が2階にあるご自分の部屋から消えてしまわれたのです。 だれも屋敷から出て行かれる所をお見かけしておりません。 お嬢様のお部屋の窓が開いていて、そこから地上までロープが垂らされていることから、夜中に部屋に侵入した何者かに誘拐されたのではと騒ぎになりまして。」
それは一大事だ! 危険な旅から帰宅したばかりなのに、なんてことだろう。
「ロープを伝ってご自分で部屋を出られた可能性はないのですか?」
とハルちゃんが確認すると。
「お嬢様は高いところが苦手でございます。ロープを伝って降りるなど、なされるとは思えません。」
との返事。家出ではなさそうだ、ご家族とも仲が良さそうだったしね。これは犯罪の匂いがプンプンする。
私は探索魔法でカトリーさんの魔力パターンを探してみたが見つからない。少なくとも半径500メートル以内にはいない様だ。
男爵様がご家族や執事さんと対応を話し合っているのを見ていると、来客の知らせがあった、なんと王室親衛隊の騎士であるという(ちなみに騎士と兵士の違いは貴族か平民かと言うことらしい)。
「王太子キースタリア・モンドール殿下の使いとして参りました。 王太子殿下は当家を訪問する許可をお求めになっておられます。」
「ご用件を伺ってよろしいでしょうか。」
と男爵様がお尋ねになる。
「私の口からは、当家のご令嬢カトリーナ様に関することとしか申し上げられません。詳しくは王太子殿下から直接お聴きください。」
貴族の中で一番位が低い男爵から見ると王太子殿下は雲の上の人だよ。その王太子と男爵の娘であるカトリーさんに接点があったなんて驚きだ。
男爵様が騎士にカトリーさんが今朝から行方不明であることを伝えると、騎士の顔色が変わり、「至急殿下にお伝えします。」と言い捨て風の様に去って行った。
1時間もしない内に、騎馬の騎士達が10名程度、あわただしく男爵様の屋敷の敷地に乗り入れ、玄関先まで馬に乗ったままやって来る。私とハルちゃんはメイドさんや召使さんを真似て騎士達に跪いた。
騎士達が馬を下りると、一際立派な鎧を着た若者が玄関で待っていた男爵様に話しかける。
「マンゼート男爵だな。私は王太子のキースタリア・モンドール。今朝方、私の元に当家の令嬢を誘拐した旨の手紙が届けられた。誰かのいたずらかとも考えたが、令嬢が行方不明と聞き急ぎやって来た。 安心するがよい。我々が必ずや令嬢を救出する。」
馬車を降りる時、御者さんからもお礼を言われた。
馬車を降りた後、私とハルちゃんはカトリーさんの屋敷に案内される。屋敷に着くなり、カトリーさんの父親であるマンゼート男爵から挨拶とお礼を言われる。40代の温厚そうな男性だ。男爵様の挨拶の後は昼食となった。空腹だったのと馬車の旅の粗末な食事に飽き飽きしていたので大歓迎だ。
昼食のメニューは良い意味で家庭的な料理だった。味は良いが見栄えはあまり気にしていない。でもなぜかホッとする。例えればプロの料理人ではなく、ベテラン主婦の料理と言えばよいかな。さらに、私達が昼食に加わるのは馬車がトロクに到着してから分かったことであるから、準備時間もなかったであろう。もともとは家族だけでの食事のはずだったのだから。さらに言えば、男爵というのは貴族の中で最下位なのだ、それほど裕福ではない。
男爵様はしきりに恐縮していたが、私達は貴族ではないですからお気になさらずにと言っておいた。実際、美味しかったしね。
すこし気になるのは食器類がすべて木製であることだ。女神の祝福亭でも木製の食器を使っていた。神殿では銀製の食器であった。素焼きの皿は屋台で見たのだが釉薬をかけた陶器や磁器の食器は見たことが無い。また、王都に入る前にみた畑では木製の農具が使われていた。金属製の鎧や武器があるにも関わらずである。服装でも絹の様な薄い布やレースは見たことがない。麻や木綿の布は品質の高いものがあるのに。なんか技術の発展のしかたがちぐはぐのような気がするのだ。
食事中の話題が最近の治安悪化の話に移る。
近年人間族の国では生活に困窮するものが増えており、それらの一部が無法者となり全国的に治安が悪化しているが、特にエタルナ領は他の領地から追われた無法者の逃げ込み先となっており、急激に治安が悪化しているらしい。
人間族の国では領主の権限が強い。その点は江戸時代の幕藩体制に似ている。領主は自分の領土の王様の様なもので、それぞれが小さな独立国である。従って警察権はそれぞれの領土限定。ある領主の支配地で犯罪を犯して兵に追われても、隣の領主の土地に逃げ込めれば追ってきた兵士は手が出せない。だから犯罪者は犯罪を犯すと別の領主の土地へ逃げ、その土地でまた犯罪を犯して別の土地へ逃げる。もちろん地球のインターポールみたいに領土を跨いでの警察組織はあるが、対象となるのは凶悪犯に限られる。最終的に犯罪者は領土が広い割に兵士の数の少ない辺境の土地へと逃げてくることになる。そのひとつが、エタルナ伯爵領という訳だ。
エタルナ伯爵も対応を検討しているのだが、予算的にもいきなり兵士の数を増やすわけにもいかず困っているそうだ。
「国王様に相談してみようか?」
とハルちゃんに囁くと、余計なお世話だよと窘められた。女神が相談すれば、即命令と取られるとのこと。気軽に口を挟むべきでは無いらしい。女神の立場って難しい。
ちなみに、夕食にはコカトリスの肉料理が出た。美味であった。私たちの為に奮発してくれたのかもしれない。
夕食も終わって、ハルちゃんと寝室で寛ぐ。お酒も入っているので難しい話は無しだ。 これからどうしようという話になる。個人的にはコカトリスの肉は夕食で食べられた、オークのお肉は神殿で食べた。後はグレートウルフとドラゴンだ。ドラゴンの肉は滅多に出回らないという話だから、グレートウルフのお肉を食べることが出来れば目標達成としたいところだが、正直に言うとひんしゅくを買いそうだ。明日考えようと誤魔化し寝ることにする。
その夜は久々のベッドでぐっすり眠ることが出来た。ハルちゃんが横にいるのも安眠できる要因だ。なぜか安心するんだよね。
翌朝、スッキリ寝覚めた私達が客室を出ると、屋敷中が何やら騒がしいことに気付く。メイドさんやご家族の方が何やら話ながら急ぎ足で動き回っている。馬車の中で一緒だったメイドさん通りかかったので、何かあったのか聞いてみる。
「それが、カトリーナお嬢様が2階にあるご自分の部屋から消えてしまわれたのです。 だれも屋敷から出て行かれる所をお見かけしておりません。 お嬢様のお部屋の窓が開いていて、そこから地上までロープが垂らされていることから、夜中に部屋に侵入した何者かに誘拐されたのではと騒ぎになりまして。」
それは一大事だ! 危険な旅から帰宅したばかりなのに、なんてことだろう。
「ロープを伝ってご自分で部屋を出られた可能性はないのですか?」
とハルちゃんが確認すると。
「お嬢様は高いところが苦手でございます。ロープを伝って降りるなど、なされるとは思えません。」
との返事。家出ではなさそうだ、ご家族とも仲が良さそうだったしね。これは犯罪の匂いがプンプンする。
私は探索魔法でカトリーさんの魔力パターンを探してみたが見つからない。少なくとも半径500メートル以内にはいない様だ。
男爵様がご家族や執事さんと対応を話し合っているのを見ていると、来客の知らせがあった、なんと王室親衛隊の騎士であるという(ちなみに騎士と兵士の違いは貴族か平民かと言うことらしい)。
「王太子キースタリア・モンドール殿下の使いとして参りました。 王太子殿下は当家を訪問する許可をお求めになっておられます。」
「ご用件を伺ってよろしいでしょうか。」
と男爵様がお尋ねになる。
「私の口からは、当家のご令嬢カトリーナ様に関することとしか申し上げられません。詳しくは王太子殿下から直接お聴きください。」
貴族の中で一番位が低い男爵から見ると王太子殿下は雲の上の人だよ。その王太子と男爵の娘であるカトリーさんに接点があったなんて驚きだ。
男爵様が騎士にカトリーさんが今朝から行方不明であることを伝えると、騎士の顔色が変わり、「至急殿下にお伝えします。」と言い捨て風の様に去って行った。
1時間もしない内に、騎馬の騎士達が10名程度、あわただしく男爵様の屋敷の敷地に乗り入れ、玄関先まで馬に乗ったままやって来る。私とハルちゃんはメイドさんや召使さんを真似て騎士達に跪いた。
騎士達が馬を下りると、一際立派な鎧を着た若者が玄関で待っていた男爵様に話しかける。
「マンゼート男爵だな。私は王太子のキースタリア・モンドール。今朝方、私の元に当家の令嬢を誘拐した旨の手紙が届けられた。誰かのいたずらかとも考えたが、令嬢が行方不明と聞き急ぎやって来た。 安心するがよい。我々が必ずや令嬢を救出する。」
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