D-コンティニューズ。なんちゃってヒロインと等身大の英雄。

D−con

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望んだモノ

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「なんとなくでも理解出来ましたか? これから始まるのはあなたの第二の人生、必要なのは戦う力です。 さあ、あなたはどんな能力を望みますか?」

「僕は・・・」

 問われた少年は記憶の中の少女を想う。
 諦めないと笑った少女を。

「僕は叶わない願いを叶えられる力が欲しい」




 8人分の席が用意されたテーブルに残りの空席は1つ、空いた席の横で白いローブ姿の少年文弘 永遠ふみひろ とわは手を膝の上に乗せて行儀よく座っていた。

 ちょんちょん、とわの肩が指で叩かれる、相手は隣の席・・・金髪のツインテールという目立つ外見の少女だった。

「私は北条・B・花火、よろしくね」

 黒い手袋に包まれた手を口に添えて笑う花火にきょとんとしたとわは慌てて頭を下げる。

「文弘永遠です、よろしくお願いします」

「よろしくー」

 人懐っこい笑顔の花火はちょいちょいととわを手招きするとその耳に両手を添えた。

「さすがファンタジー世界、なかなか濃い面子が揃ってるよね」

「そう、かな?」

 とわはボンヤリと首を傾げるが花火の目に映るこの場にいる人物達は中々個性的だった。
 まずはとわだが白いローブ姿でさらさらの黒髪に中性的な整った顔立ちはショートカットのかわいい女の子にも見える。
 火花自身も金髪のツインテールに赤い瞳、着ているのは赤いドレスで両手には黒い手袋と生前の現代社会ではハードルの高い姿をしている自覚はある。
 精神年齢は別にしてもこの世界では皆が15才から再スタートという事だから出来た格好でもある。

 そんな2人以外には兵士の人形を抱えた大人しそうな少女に、長い黒髪に全身黒い服の怖いくらいに綺麗な顔立ちの少女、男性陣は茶髪のオールバックに黒のライダースジャケットが一人に、黒いコート姿の男で大きな剣をテーブルに立てかけているのが一人、中でも一番インパクトがあるのがとわと反対側の花火の隣、黒い前髪で目元を隠した眼鏡の男、何故かこの男の後ろには青みがかった白髪のメイド服の美女が直立不動で立っているのだ。

 見た目的には人間そのもののメイドだが、どうにも意思らしきものを感じない。

(1つだけもらえる特殊能力をこれにしたんだろうな)

 何度見てもドン引きしてしまい、その度に花火は少しずつとわの方に椅子を近づけていった。

 その他にもこの場にはもう一人、いや、もう一鬼、頭に角を生やした割烹着姿の女性がいた。
 この建物の管理人を名乗る鬼に全員揃うまでこの場に待つ様に言われ、とわ達は最後の一人が来るのをここで待っているのだ。

「個室を用意してもらっての共同生活でしょ?」

 こしょこしょと耳元で話す花火にとわは一つ頷く。
 とわ達は気付くと小さな部屋に立っていたのだ、ベッドと大きな鏡だけあるシンプルな部屋は木のいい匂いがした。
 ずっと住んで良いわけではなくて、ここにいていいのは最初の一ヶ月だけらしい。

「なんかさ、順番に一人ずつ殺されそうなシュチュだよね?」

「ひえっ!」

 耳元で囁かれた言葉にとわは小さく悲鳴を上げて、花火は笑う。
 自分に周りの視線が集まるのを感じてとわは赤くなった顔で俯いた。

「ごめんごめん、でも、そんな感じあるよね? 木造だからかな? 蝋人形とかもあれば完璧だったのにね」

 謝罪する花火だが悪びれた様子もなくフヒヒヒと笑った。

「もう、やめてくださいよ」

 困った顔でとわが言った時、遠くでドアの開く音がした。

「最後の一人だね」

「・・・そうみたいですね」

 こっこっこっ、足音が聞こえる。

「あれ、もしかして俺、いや私待ちだった?」

 現れると同時、驚いた表情を見せる少女の姿に、座っていた七人は一人を除きみんなが息を飲む。

「いやー、鏡に映る自分の姿があまりに可愛くてさ。 鏡の前から離れられなかったよ、待たせてごめんね」

 そう言って笑うのは絵に描いたような、絵にも描けない程の美少女だった。

「ゆうきかんなさん? 空いている席に座ってください」

「ん」
 
 割烹着姿の女性鬼に促されるままに歩く少女の姿を言葉なく周りが見つめる。
 桃色の髪の毛に、ファンタジーの騎士の様な服装、本人がそう言った様に一度見たら目を離せない、時間を忘れて見続けてしまいそうな魔性の美しさがあった。
 見た目だけじゃない、ただ歩くだけで中の方に揺るがない芯の様なものを感じさせ、それが美しさを倍増させる、そんな少女だった。

「隣、失礼」

 声をかけられたとわはペコんと頭を下げる。

「では、皆さま揃いましたのでもう一度私の方から説明させていただきます。 事前に聞いた話と被ってしまうかもしれませんが大人しく聞いてくださいね。 まず始めに私は四鬼、見ての通りの鬼でここ初心者荘の管理を任されています。 食事の準備も私がしますので、リクエストなどがありましたらおっしゃってください。 得意料理は鳥のクリーム煮です」

 鬼の四鬼は優しい笑顔でそう言った後にお茶目にウインクをしてみせた。

「美味しそうだね」

 花火がまたとわの耳元でこしょこしょと喋る、それを見てとった桃色の美少女もとわの耳に手を添える。

「私はコロッケが食べたい」

「え・・・そ、そうなんですか。」

 両サイドから順番に囁かれても対応に困るととわは肩をすぼめた。

「知ってのとおり、これから始まるのは一度死んでしまった貴方達の第2人生、正確に言うなら三途の川を渡る事の出来なかったあなた達に対する延長戦ですね。 生前の世界よりも暴力や死の近い世界です、とはいえ三途の川を渡る資格を得るまであなた方は死ねないのでレベル1になって再スタートになるだけですけど」

「三途の川を渡る資格ってなんだろうね?」

 花火からのコソコソにとわは首を傾げる。

「というか、その資格を手に入れたら私達はどうなるの?」

「どうもなりません。 ただ資格を満たした状態でこの世界で死んだ場合はそのまま三途の川を渡ってもらいますが」

 コソコソ話でも聞こえていたらしく、四鬼から答えが返ってくる。

「資格が何かは内緒なんでしょ? ・・・結局は死ななきゃいいんだよね」

 質問しても問題なさそうだと割り切った花火はコソコソするのをやめて直接四鬼に話しかける、四鬼はそれにいい笑顔で応えた。

「そのとおり。 結局は強くなればいいのです。 逆に言えば強くなければ何も成し得ない。 なので皆さんはレベルアップに励んでくださいまし」

 一旦言葉を止めてぐるりと人の表情を見回す四鬼、わくわくと希望を抱いているのが三人、びくびくと怯えるのが二人、興味なさそうなのが二人と何を考えているのか分からないのが一人。

(今回の人員も前途多難そうですね、純粋な戦闘能力保持者じゃないのが半数の4人、いつ後悔する事になりますのやら)

「戦闘になれるまではダンジョンをオススメしてます、ダンジョン内では死亡ではなく戦闘不能とカウントされますのでレベルダウンもありませんし、モンスターも勝手に消えて解体する必要もないので、お手軽です。 この街の近辺には森と草原があります、こちらは倒したモンスターの素材がそのまま残りますので稼げる金額は多くなります、ただ死亡した場合はレベルダウン、やり直しになりますのでご注意くださいまし。」

「ダンジョンにフィールドのモンスター、何度聞いてもゲームだよね」

 また口を挟んだのは花火、他の面々は緊張か元々の性格か今は話すつもりは内容だった。

「そうですね、少しでも皆さんに楽しんでいただければと。 死んだ場合はここにある個室で再スタートになります。 街を移動した場合は冒険者ギルドでセーブが出来ますのでお忘れない様に」

「冒険者ギルドって、ますますお約束だね」

「分かりやすい方がいいでしょう? ダンジョンは各冒険者ギルドが一つずつ管理しておりますので、入りたい場合は冒険者ギルドに行ってくださいまし」

「管理されたダンジョンか、やっぱりゲーム要素が強いんだね」

 自分の方を向いて花火が話していた為にとわは曖昧に頷く、その奥でテーブルに頬杖をついていた桃色髮の少女が他人事の様に口元を緩める。

「その方が安全そうでいいんじゃないかな?」

「私からはこんな所で、後は・・・」

 言葉の途中で四鬼が口を閉ざし顔を動かす。

「・・らー! ・・グルーーッ!!」

 それは女の叫び声だった。
 四鬼が向いた方、廊下の先、それぞれの個室がある方から響いた声、続いて何かの破砕音、ドシンという足音が続く。

「誰だ! 誰が小鳥を殺したのーーー!!」

 凄い勢いでこの空間に飛び込んで来たのは大きな鎌を持った少女だった。
 血走る目、大きく歪む口、普段なら愛らしいだろう顔は今はただ見る者に恐怖を与える。

 突然現れた紫色のツインテールにゴシック風のドレスを着た半狂乱の少女、突然の異常事態に言葉を失いながらも花火は見た目のコンセプトが早くも人と被ってしまった事を感じていた。

 





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