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犬は、さまよった。
街中、夏至。なんでこんな日に、と悔しい気持ちや切なさが行ったり来たりした。例えようのない感情だった。
というのも、飼い主とはぐれたのだ。この暑い日に。リードが壊れているのに気付かず走ってしまった私の落ち度だが。しかし、それにしても飼い主は私を見つけ、保護し涼しい自宅へ帰らせる義務があるはずだ!
1時間経っただろうか。私は、とぼとぼと川のほとりを歩いていた。疲れた。街中からだいぶ外れた所に来てしまったし、飼い主も探せないだろう。座ると、川の水を飲んだ。
そして、趣味の俳句を心の中で詠んだ。
「飼い主よ、ああ飼い主よ、飼い主よ」
すると、後ろから声がした。飼い主だ。私の名を呼んでいる。
ようやくか、手間取らせやがって。飼い主のもとへ走ると、ワン、と今日初めて叫んだ。
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