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2「昼休み」

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 スイに使えないアドバイスを貰った次の日。アオは解決策を思いつかないまま、ズルズルと昼休みに突入してしまっていた。
 というのも、アカネが驚くほどにいつも通りだったからである。普通に登校して、普通に話しかけてくる。突然襲い掛かってくる事もなく、かと言ってアオが行った『脅し』を気にかけている様子もない。

 アオとしては冗談のつもりだったが、これは「アカネは本当に学校では、人を襲うつもりは一切ないのかも」と思い始めていた。
 アカネがどういう思考回路で、今の行動をしているのか全く分からない。だからどんな働きかけをすれば、どういう反応をするのか理解できない。どういう言葉を投げかければ、問題が解決に向かうのかも予測不能だ。

 まさに化け物。人間を相手にしている気がしない。ならやはり、人間ではない者の発想……スイの納得させると言う行為に、本気で取り組んでみてもいいのかも知れなかった。

「でも、納得させるとは言うけど、あの化け物を大人しくさせるだけの話術が、俺にあるかな?」

 アオは廊下の窓から、中庭を見下ろしながら考える。中庭では、アカネが熱心に何かをしていた。
 聞く所によると昨日の帰りに、アカネは嫌がらせを受けたらしい。その嫌がらせは今日も続いており、アカネは現在その処理をしているとの事だ。

「……いや、あの機械的な奴だからこそ、説得は不可能じゃないのかな?」

 アカネの口癖は、『映画で言ってた』『漫画で言ってた』。一見するとただのサブカル好きで、作品の影響を受け易い奴だと思える。しかし学友の目からすれば『彼女の情報源は、本当にそれしかないんじゃないか?』という風に見えるのだ。
 アカネは実に機械的だ。毎朝同じ時間に学校に来て、いつも『普段より遅くなった』みたいな顔をして。作業の様に面白味のない話をして、等間隔で居眠りをする。授業が終わればスイッチが切れたみたいに夕方まで椅子に座って、皆が居なくなった後に一人ぼっちで帰っていく。

「……」

 しかもアカネの恒常性は、昼間だけの話ではない。
 アオはもしもの時のために、家の周囲や部屋の中にカメラを設置している。それらには、アカネが毎晩同じ時間に家の周りを徘徊して、難しい顔をして帰っていく姿が映っていた。そして夜2時頃にもう一度来て、家に侵入して何もせずに帰っていく。

 それでその日のルーティーン終了という次第である。滑稽だが、笑ってはいられない。アオを殺そうと家に侵入しているのに、アオが家にいないので何かしらバグが起きているのだろう。
 そうだ、彼女はゲームのNPCのように、状況に合わせて反応的に動く。状況が変わらぬ限り、永遠に同じ行動を取り続けるだろう。

「なら環境の方を変えてやればいい。俺が望む動きを取る様に。どんな獰猛なモンスターでも、首輪を付ければ怖くないってね」

 ――血で真っ赤に染まったアカネの顔を思い出した。
 ポケットに忍ばせたナイフから手を離して、アオは中庭へと向かった。
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