惑星ラスタージアへ……

荒銀のじこ

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第二部 1章 気になるあの子

第4話

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「そろそろ実験行くからついてこいー」
 まるで欠伸を誘うように気怠くそう言うと、ユースケの返事も待たずにケイイチの方にも呼びかけてさっさと研究室を出て行く。ユースケはパソコンの画面を睨み、まあこのままで良いかと判断し、点けっぱなしにしてレイの後をついて行く。
 研究室を出て、長い廊下を延々と歩いて行った先に、贅沢にも一年中冷房のついた部屋に辿り着く。レイは扉の横に掛けられてるボードと自分のノートを見比べ、使用記録を記入しながら部屋に入っていく。ユースケたちも中に入っていくと、ひんやりとした空気が肌に当たるのと同時に、目に優しくないほど金色でびかびかしている、ぱっと見では巨大なパイプオルガンのようなものがいくつも並んでいるのがガラス越しに見えた。そのパイプオルガンのようなものは、ユースケたちとは完全に隔たれており、ユースケたち側にあるパソコンと繋がっていた。レイは、他の席に誰もいないことを確認して、右端の席に座った。
「……ここまでは昨日説明した通りだけど、何か訊いておきたいことはあるか?」
 レイはパソコン画面から目を逸らさずに、スリープしたパソコンを起動させながら後ろに立つユースケたちに尋ねる。ユースケは大丈夫だという風に首を振り、ケイイチの方を見るが、ケイイチもびくびくしながらも首を横に振ったので「大丈夫みたいです」と伝えた。レイも「ん」と答えるだけでパソコンの操作に集中していた。しばらくしてパソコンの画面に新しいウインドウが開き、それをしばらく睨め回すように眺めていたレイがいきなり、無言のまま大きく仰け反り、椅子の背もたれを最大限引き伸ばしながら天を仰いでいた。見るからに結果が芳しくなかったことが窺えて、ユースケはどんな反応をすればよいか困惑した。とりあえず慰めれば良いのかなとユースケが無理やり笑みを浮かべると、レイが首だけユースケに向け、目を見開き絶句していた。ユースケが元の顔に戻すとレイも安心したように目を元の大きさに戻した。
「……あー、まあえっと、こうやって結果が出たらだな、このデータを持ち帰るために」
 天を仰いでいたレイは、ぼこぼこにされて打ちひしがれた表情のまま、ポケットをまさぐってUSBメモリを取り出して説明を唐突に始めた。ユースケたちも慌ててノートを開いてメモしていく。
 ぼそぼそと一通り説明し終えると、レイは最後にパソコンの消し方を説明してから部屋を出る。研究室に戻るまでの間、レイはずっと「あー」と声をしゃがれさせて唸っていた。気を紛らわせてやろうと感じたユースケもハモるように「あー」と高い声で混ざると、レイも一段声を大きくさせた。ユースケも楽しくなってさらに声を大きくさせたところで、ちょうど研究室の教授室のところからソウマが出てきた。ユースケもレイもぴたりと歌を止めて、ケイイチも一緒に三人で丁寧に会釈した。ソウマはそれを視認してから、「まあ上手くいかん日も余裕である、気にしないで」と高笑いしながらすれ違っていった。レイは両手で顔を覆って「あ”~」と苦しそうに唸っていた。
 研究室に戻ると、レイはわざわざユースケとケイイチの間の空席に座って、頬杖つきながら二人の様子を眺めていた。
「何か分からないことあったらそのまま放置しないでちゃんと聞くんだぞ」
 今日はどうやらもうそういう気分らしい。眠たそうな声ながらもどこか吹っ切れたようなその声音から、しばらくはやる気を出さないだろうなという雰囲気を感じ取って、ユースケは遠慮なく分からないところは訊くつもりで論文を読み進めた。
 ユースケとケイイチは、ソウマから与えられた論文を読むこと、それらの論文を読んだ後早速自分の研究テーマを決めるために論文を自分で検索して読み進めること、そして研究室で用いる実験装置などの扱い方や決まり事をレイを始めとした先輩たちに教わること、の三つを課せられていた。まだ研究室に入って一週間しか経っていないため、ソウマから与えられた論文すら読み終えられていなかったが、ユースケは論文に出てくる意味の分からない単語を調べるために、慣れないパソコン操作で苦戦していたためさらに読むスピードが遅くなっていた。その単語をレイに訊くことが出来れば一気に読み進められるようになると思い、ユースケは気合を入れてパソコン画面に開かれている論文を読み進める。
 午後五時を知らせるチャイムが鳴り、ケイイチは例の如くそそくさと帰っていった。ユースケとレイとでその後ろ姿を見送ると、レイは空席のテーブルにいつの間にか何冊も持ってきていたノートを広げながら身体をユースケの方に向けさせた。まだ実験とかしないのかこの人は、とユースケは若干心配になった。
「ユースケはどういう研究がしたいんだ?」
 レイは自身のノートをひっきりなしに捲ったりしながら、気怠そうに尋ねてきた。
「いやあ、とりあえず宇宙船作る上で足掛かりになるような研究が良いっすね」
「宇宙船、ねえ……」
 レイは感心したそうな声で応えるも、顔を上げようとはしない。眠そうだった顔つきがわずかに引き締まってきた、ような気がした。
「…………そういうことなら、俺の研究も少しは力になれそうだな、多分」
「先輩の研究って……どういうのでしたっけ」
「先輩は良いよ、普通にさん付けとかで呼んでくれれば。そうだなー……」
 レイはのろのろとしてぼやけた返事とは対照的に、集中した顔つきでノートにひたすら何かを書きこんでいった。しばらくして、一通り書き作業を終えられたのか、先ほどと同じように天を仰いだ。ぷはーっと気持ち良さそうに息を吐きながら、ぽつぽつと自身の研究内容について簡単に語ってくれた。
「かいつまんで説明すると……地上の放射能汚染された地域での建築物と、宇宙空間にある建築物とでは、劣化スピードに違いがあるってことを説明したい、って感じだな。な? 俺の研究が上手くいけば、ユースケの研究にも何か役立ちそうな雰囲気だろ?」
「おおーそうっすねー……」
「……宇宙船作ろうって思うなんていまどき珍しい奴だ。何かそれなりの理由があるんだろうが、まあ、あんま無理はすんなよ」
 レイは独り言のようにそう言うと、持ってきたノートすべてを抱えて立ち上がり、研究室を出て行った。研究室の外から微かに扉を叩く音や、ぼそぼそと何か話す声、扉が開かれる音が聞こえてきたことから、レイは教授室に訪れてソウマとディスカッションというものをしに行ったのだろう。パソコンの画面を睨み続けたユースケも目の奥が痛くなり始め、先ほどのレイと同じように背もたれに思いっきり背中を預けて天井を見上げる。レイは先ほど意気消沈させられたデータを見せに行っているのかなあと、そのときのレイの様子を想像すると何だか微笑ましくなってきて、失礼だとは承知しつつも、自然と口角が上がるのが自分でも分かった。
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