惑星ラスタージアへ……

荒銀のじこ

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第二部 3章 手を伸ばして

第2話 別れと研究の始まり

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「というか、むしろ……俺だけの力じゃなくて、色んな人の研究がすべて一つとなって目標を達成させようとするのって、何か研究って面白いっすねって感じましたよ」
「……よし、分かった。それじゃあ、一緒に考えていこう。とりあえず、ユースケ君がさっき提案してくれた実験はすべてナシね」
「え!?」
 ソウマの言う通り、ユースケは研究テーマについて話す際、事前に簡単な計画書を書かせられ、そのときに考えている実験案も書いたのだが、そのすべてを却下されて流石のユースケも面食らった。しかし、その後の続くソウマの説明を受けて、書けと言われて書いたものが理不尽に却下されたのではないと知り、憤りかけていたユースケも悶々としながらも納得した。
 ソウマの指導はスパルタだった。実験の相談のときも、ユースケの案が悉く却下されたが、それも全部理路整然とされた説明をつけて却下されたのでユースケとしても悔しく思いながらも納得して次の案を考えざるを得なかった。
 晴れて研究テーマを持った研究生と認められたことで、ユースケには一部の実験設備の掃除や管理が任されることになった。そのうちの一つに、量子コンピュータ室の管理を、他の研究室の人も利用するため共同作業ではあるが、任せられた。それ以外にも、ユースケたちの実験室の装置のメンテナンスもレイ、シンヤとの交代で任せられることになった。
「研究者にはコミュニケーション能力も必要だからな。そういうのも大事なことだ」
 いきなり研究や実験以外に任せられたことに対する愚痴を零していると、レイがそうフォローしてきた。それを聞いていたシンヤが「いや、コミュニケーションとかレイが言うなよ」と横やりを入れてきて、レイが珍しくムッとした顔でシンヤを睨んだ。その点で言えば、確かにシンヤの方が社交性は高そうに思えて、ユースケも納得しそうになったが、いやいやと首をぶんぶんと振って今の考えをなかったことにする。
 ユースケとしてはそれまでいまいち実感できていなかったが、冬休み明けから春休みまでのこの短い期間は、基本的に卒業研究や卒業制作を発表するための期間であるという共通認識が強いようで、実際アンズもノリアキも実験はほどほどにほとんどの時間をパソコンと向かい合っての作業に費やしていた。そして、ユースケがソウマやレイたちとの話を繰り返した果てにようやく行う実験を決めた頃には、アンズとノリアキの卒業発表がすぐそこまで迫っていた。
 アンズとノリアキのための練習発表を研究室内で行っていたが、そこでユースケは改めて、アンズとノリアキの研究がどういうものなのか、その理解が深まり、また研究をどれほど打ち込んでいたのかが何となく分かるようになった。ユースケ自身よりはもちろん、二人ともそれなりに高いレベルに仕上げていることは分かったが、それ以上に、レイとシンヤの凄さが改めて理解できたような気がした。
 練習も特に滞りなく終わり、卒業研究の発表も終わると、ユースケは途端に寂しさを覚えた。半年ほどしか共に活動してこなかった先輩たちではあったが、それでも同じ組織で時間を共にしてきた人がいなくなると静かになっちゃうんだろうなあ、とそんな状況をつい想像して、そのことで寂しくなった。二人は最後に卒業論文の直しをし終えたら、正式に大学校を去ることになる。
 先に書き終えたのはアンズだった。ノリアキと違ってコツコツ研究室に来て真面目にやっていたアンズはその要領の良さで、ソウマの見直しが入った状態で返された卒業論文を一週間も経たずに直し終えていた。そのアンズを追いかけるようにノリアキも、普段真面目に来て活動していたわけではなかったがアンズが終えた三日後に済ませて、退散するように研究室を去っていった。そんなノリアキのことが、ユースケは最後まで苦手であった。
 もうすぐ春休みが訪れる。二人のいなくなった研究室は、やはりより静かになった。それでも、ユースケはその静けさが気にならなかった。むしろ、二人がいなくなり、時の経過を実感したことで、より研究への意識が強まったような気がしていた。
「そんなに慌てんなよ。この時期に研究テーマも決まって、やる実験も決められた奴なんてそうそう居ねえんだぞ」
 ユースケの横の席であるシンヤがそう話しかけてきた。シンヤにしては珍しく心配するような口調であった。ユースケはそれでも、ノートを開いて考えを整理しながら、パソコンを用いた計算をする手を止めなかった。
「周りがどうとか、俺には関係ないんすよ。俺はやりたいからやってるだけなんです。シンヤさんが心配してくれるのはありがたいけど、でも俺無茶とかしてないし、全然大丈夫ですよ」
「……俺のダチも、そう言ってたぜ。だから俺は忠告してる」
 シンヤの、不気味なほど落ち着いた声に、ユースケもその手を止めてシンヤの方を振り向く。シンヤは、この研究室で初めて会ったときと同じ、悟りを開いたような表情をしており、ユースケもそのときのことを思い出して思わず気が引き締まった。
「そいつも、お前に似てこの世界をどうにかしてみせると、でっかいこと言ってた。俺はそいつのその心意気が大好きだったし、そいつの影響で俺も宇宙で暮らすための研究がしたくてこの研究室に来た。だけど、そいつは頑張りすぎちまった……」
 その人のことを語るシンヤの瞳はどこまでも優しかった。もしかしたらその人との思い出を振り返っているからかもしれないとユースケは思った。それほど大切な人だったのだろうと想像して、ユースケは急に病気にでもなってしまったのではないかと錯覚するほど胸が苦しくなった。
「悪いことは言わねえ。ちょっとぐらいサボれ。ソウマのおっちゃんもそれぐらい許してくれらあ。というかあの人はあの人でちょっと甘すぎるけどな」
 シンヤは終始明るい調子で話してくれたが、とてもその明るさではごまかせないほどの苦悩と辛さを、ユースケは確かにシンヤから感じ取った、つもりでいた。そのおかげで、ユースケも却って冷静になり、自分の心の本音が明確になって落ち着いた。
「じゃあシンヤさん、その調子でこれからも俺をセーブしてくださいよ」
「? お、おう……」
「んで、そんなシンヤさんが、俺がヤバそうになったらセーブしてくれるってことなら、俺も安心して遠慮なくやれます。今のシンヤさんの話を聞いてたら、この人がいるなら絶対大丈夫だろうなって確信出来ましたもん」
「……ほーん。ま、俺は言ったからな、ほどほどに頑張れや」
 ユースケはそう宣言して、再びノートの作業に戻る。そうして、まさに宇宙船のための研究に繋がることをしていると、自分の思い描いた想像が目の前に実現してきそうな気がして、高揚感がふつふつと湧き上がってきた。
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