惑星ラスタージアへ……

荒銀のじこ

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第二部 3章 手を伸ばして

第19話 卒業研究

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「……それでは次の発表に移ります。タイトルは『宇宙空間における最新材料の長期適用のための条件検討』となっています。ユースケさん、よろしくお願いします」
「はい……よろしくお願いします。
 皆様も御存知の通り、私たちの惑星アースは、過去の大戦によって衰退の一途を辿っています。その大戦を機に、人類を延命させるための研究が現在様々な分野で進められており、惑星探査はその一つです。惑星ラスタージアを始め、移住先の星だけでなく、工場として利用するための星など、様々な目的に合った星が見つかっています。しかし、私たちが再び繁栄し、以前までのような生活を送るためにはどうしても居住可能な惑星が必要となり、その惑星は今のところ惑星ラスタージアしか見つかっていません。ですが、今進められている惑星探査の研究の多くが、短期間の滞在のみを考慮したものであり、惑星ラスタージアに移住するとなったときの長期的な滞在を想定した研究はほとんど行われていません。そこで私は、その研究の足掛かりとして、現在ある技術からその実現を可能にするためにはどんなことが必要なのかを調べることを目的として、今回、宇宙船に利用されたり利用できると期待されている素材を長期利用したときどうなるのかについて調べました。
 実験手法としては、まず、現在宇宙船の素材として利用されている素材A、それから最新の研究でAよりも放射能の被ばくを抑えられると期待されている素材B、C、そして比較として地上の移動手段に用いられている空自動車の素材Dに注目しました。これらの素材を、量子コンピュータによって、現在の全人類を乗せるほどの宇宙船を造り、対消滅のエネルギーをエンジン利用したと仮定したときにどれぐらい形を保てるのかをシミュレーション計算しました。このときの条件として、乗せる人たちを冷凍保存する場合と保存しない場合とに分けました。次に、その宇宙船に人を乗せたときの私たちへの被ばく量がどうなるのか、その推移を同じように量子コンピュータを用いて調べました。
 結果に移ります。シミュレーション計算の結果は……このグラフのようになりました。どの素材を用いても惑星ラスタージアに到着するまで形を維持できないだろうという結果になり、また、素材C、B、A、Dの順で長持ちする結果となりました。このことから、現在私たちの科学技術ではまだまだ惑星ラスタージアへの運航は非現実的で、新規の材料を新たに模索するか、新しい形の宇宙船の構造を模索する必要があるということが分かりました。
 次の結果ですが、これは、先ほどシミュレーション計算で扱った素材で作った箱を用意し、その中に人の細胞塊を設置し、その箱を三か月間宇宙空間に置いたときの細胞内の変異及び病気リスクの変化の推移をまず調査し、そのデータを基に、惑星ラスタージアへの渡航時間の間で細胞内の変異及び病気リスクがどう変化するのかをシミュレーション計算したものとなっています。結果としては、先ほどのシミュレーション計算の結果と同じく、どの素材を用いても人の細胞塊は壊れてしまい、それまでの時間も順番に素材C、B、A、Dの順で長いという結果になりました。このことから、素材の対放射能の強さに比例して人の細胞のダメージを抑えられることが分かり、また運航を実現するために、先ほど挙げたこと以外に、渡航時間の長さと冷凍保存の是非について調べる必要があると分かりました。
 まとめますと、現在ある技術、あるいは対消滅のエンジン利用のような出来つつある技術を用いたとしても、現状では私たちが惑星ラスタージアへ渡航することは難しく、障害としては、素材の対放射能性、渡航時間の長さ、そして宇宙船内の私たちの状態、が少なくとも存在することが判明しました。ネガティブな結果ばかりとなり、何か成果を上げられた研究とはなりませんでしたが、世界で初めて惑星ラスタージアへの渡航の際の課題を想像や推察ではなく、科学的に示唆出来た研究として、私としては非常に意味のある研究となったのではないかと考えており、今後惑星ラスタージアに向けた研究の旗揚げになると信じています。
 私の研究は以上となります。ご清聴、ありがとうございました」
「……はい、ありがとうございます。それでは質疑応答に移ります。質問のある……、はい、アキラ先生、お願いします」
「はい。発表ありがとうございます。発表の最中に度々出てきた人の冷凍保存?についてなんですが、それは一体どういうものなのか、よろしければ説明をお願いしてもよろしいでしょうか」
「はい、そうですね……説明が足りずに申し訳ありません。冷凍保存というのは、近年人の臓器を冷凍保存し、その後解凍することに成功したという研究が報告されており、その論文の中でゆくゆくは人を冷凍保存できるようになるのではないか、ということが期待されていました。その論文の中では専ら、現在の技術では治せない病を数年後に任せることが期待できると議論されていたのですが、私はその研究に、惑星ラスタージアに辿り着くまでの間人を冷凍保存することは出来るのではないかという可能性を見出し、その可能性も視野に入れて考えた……という具合です。これで質問には答えられましたでしょうか?」
「なるほど……大丈夫です、ありがとうございました」
「……はい、それでは他に質問の……あ、タケル先生、お願いします」
「はい、発表ありがとうございます。そもそもの疑問なのですが、これまで惑星ラスタージアへの渡航に向けた詳しい研究というのはユースケさんの仰る通り本当にされていないのでしょうか? いえ、私自身が無知なのでこういう質問をするわけなのですが……惑星ラスタージアに向けての研究の現状がどういうものなのか、教えていただけますか?」
「はい……確かに先生の想像されている通り、惑星ラスタージアへ向けた研究も進んでいないというわけではありません。たとえば、私が注目した素材A、B、Cも、論文の中で長期間放射能を浴びせたのを想定したときのシミュレーションなどを行なっていたり、他にも惑星ラスタージアへの航路に関する研究も行われています。ですが、私が行った実験はどれも、より実践的と言いますか……たとえば、ただ時間を長く設定するのではなく、現在最も現実的で今後期待される技術である、対消滅のエネルギーを利用したエンジンを用いたときにかかる時間に設定したり、宇宙船の構造まで考慮したり、先ほど挙げた航路の研究のデータそのものを入力してより惑星ラスタージアへの渡航を意識した条件を設定した研究というのは、ほとんど行われていないのが現状でした。私はそこをはっきりしたかったため、今回発表した実験を行いました。……これで質問に答えられましたでしょうか?」
「はい、十分です。なるほど、惑星ラスタージアを想定した詳細な条件の下の研究は、確かにそこまで行われてなさそうですね。ありがとうございます」
「……はい、ありがとうございました。他に……はい、ケイジ先生、お願いします」
「はい、発表ありがとうございました。先ほどのタケル先生とのやり取りと被ってしまうのですが、惑星ラスタージアに向けた研究がそこまで進んでいないというのも、恐らくですが、その実現が私たちの世代や次の世代だけでなく、遥か先の世代にまでならないと実現しないほど長くかかるものだというのを直感しており、それよりも現在直面している問題に対処する研究の方が優先度が高い、ということが関係しているのではないかなと思います。恐らく多くの研究者が後回しにしてきた、他の課題よりも優先度が低いとしてきたであろう、惑星ラスタージアを意識した研究を今回ユースケさんが進めたのはどうしてなのか、教えてもらって良いでしょうか? というかすみません、今回の発表にあんまり関係することではないですね、すみません」
「ああいえ、大丈夫です、分かりました。そうですね…………もちろん、早い段階からこういった研究を進めておくに越したことはないと思いましたし、私の研究室にいる先輩の研究テーマとも通じるものがあってそういう研究がしやすいと思ってやってみましたが、そうですね、一番の理由はと言われますと…………。

 今を生きる人たち全員にとっての希望を作りたかったから、ということになるかと思います————」
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