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世界の崩壊
78:王都へ
しおりを挟む私はベットに…
バーナードの横に座って、
ケインが持って来てくれた果実水を飲んだ。
そのケインも、エルヴィンも
私のすぐそばに椅子を持って来て
座ってくれた。
私はみんなの視線が自分に
集中していることを感じながら、
今考えていることを、皆に伝えた。
おそらく、魔獣の大量発生は
王都と神殿の確執で
起こっているのだろう、ということを。
そもそも…魔物や魔獣とは、
<闇の魔素>が集合してできるような
ものだと認識されていると思う。
そうなんだけど、
じゃあ、その<闇の魔素>はどうやって
生まれるかと言うと、
人間の悪意とか、そういうもので
生まれる…んだと思う。
女神ちゃんが
そういうことを言ってったと思う。
そして今、
世界の<闇の魔素>が溜まり過ぎて
<愛>が少なくなっている。
<闇の魔素>を浄化できる<聖なる魔素>
つまり聖魔法の源は、
<愛>から生まれるらしい。
それは人間たちが互いを
慈しむことで生まれるものだ。
そしてそれは『聖樹』を育て
世界に<愛>を生み出していく。
女神ちゃんが言う<愛>は
<聖なる魔素>を生み出すものだ。
つまり人間たちが互いを慈しみ合うことで
<聖なる魔素>は増え、『聖樹』は
成長し、その『聖樹』がさらに
<聖なる魔素>を生み出していく。
<愛>のスパイラルなのだ。
ところが今、人間たちが生み出す
<聖なる魔素>が不足していて、
『聖樹』は枯れていくばかり。
『聖樹』までも<聖なる魔素>を
生みださないので、<聖>と<闇>
のバランスが崩れ…
今のように<闇の魔素>が
世界にあふれ、魔獣や魔物が
大量発生するようになった。
<闇の魔素>を浄化できる
<聖なる魔素>が減ってるからこそ、
今、世界は崩壊に向かっている。
その世界の中心でもある王都…
王宮や神殿が対立することで
<闇の魔素>を生みだしやすい環境を
もしかしたら作っているのかもしれない。
なにせ『大聖樹』に一番近い場所なのだ。
そこが<闇>に飲まれたのであれば、
世界に<闇の魔素>が増え、
魔獣や魔物が大量発生しても
おかしいことではない。
まずは『大聖樹』がある基盤の場所を
しっかり<愛>で満たし、
作り上げないと、
世界は崩壊してしまうのではないかと
私は思ったのだ。
世界を救うためにこの世界にきたのに、
その私が原因で、世界の崩壊が
早まるなんて、本末転倒だ。
「まだ、私の中の【器】にある<愛>は
十分ではないかもしれない。
でも、今、できるうちに、
できることをしないと、
世界はもっと大変なことになると思う」
そう言って、バーナードを見上げた。
エルヴィンもケインもバーナードを見る。
ヴァレリアンやカーティスがいない今、
私たちに指示を出すのは
バーナードだからだ。
私にとっては、バーナードの言葉は
指示ではなく
お兄ちゃんの命令、だけどね。
バーナードは困ったような顔をして、
あと数日だけ待て、と言った。
私の言葉をヴァレリアンに報告して
王都に行く許可を得るらしい。
私は許可があっても無くても
王都には行くつもりだったけど。
そんなこともバーナードは
ちゃんとわかっていて、
「団長から反対されたら
それを読む前に出立したことにしよう」
と言って、王都から返事が来る前から
王都に向かう準備をしてくれた。
準備と言っても、
必要なものは、非常食や水、
あと武器の手入れぐらいだったけど。
そんな中、私はバーナードと
離れる準備をした。
甘えたい気持ちは
すぐには押さえられないので、
ケインと手を繋ぎ、
エルヴィンの頭を撫で、
甘える対象を広げることにしたのだ。
二人は驚いたようだったけど、
嫌がることは無かったし、
むしろ、嬉しそうな顔をした。
だから私は、抱きつくのは
バーナードだけだったけど。
二人と一緒の時は
手を繋いだり、おやつを分け合ったり。
言葉遊びをしてみたり、
武器の手入れを見せて貰ったり。
あと昼寝も一緒にした。
施設の子たちと一緒にいた時のように
私の心はどんどん癒されて。
楽しくなって。
私は今まで以上に、
ケインのことも、エルヴィンのことも
身近に感じたし、大好きになった。
そして、数日後。
「行こう」というバーナードの声に
私たちは、立った。
バーナードの手には、
ヴァレリアンにの手紙が握られている。
ヴァレリアンからは、
短く「おまえの判断に任せる」と書かれていた。
そして、バーナードは。
私の選択に同意したのだ。
王都でーーー戦う、と。
王都がどんなところか、
私にはわからない。
神殿とか、王宮とか
階級がどうとか、そんなことは
全くわからない。
でも、
私はヴァレリアンたちが
心配だったし、
何より、皆が住む世界を
守りたいと思った。
このまま神殿と王宮が
いがみ合ったら……もしかしたら
魔獣が、それこそ<試練>が、
王都を襲うかもしれない。
『大聖樹』が滅ぶかもしれない。
そう思うと、
ここで『甘えた大魔王』に
なっているわけにはいかないと思った。
いつまでも甘えていても仕方がない。
元の世界で得られなかった<愛>を
欲しがって、甘えて。
それでは、ダメなのだ。
私が……本当に欲しかったのは
親子の愛情だった。
母が与えてくれる愛情が、
ずっと欲しかった。
でも捨て子だった私が
母の愛を得ることはできない。
だから…私はいつまでも
無い物ねだりをして、拗ねて、
愛情を欲しがって。
でも与えられないからと
拒絶して、こじらせていた。
この世界に来て、今度は
沢山の愛情を与えてもらった。
激しく与えられ、
奪われるような愛を教えられ、
肌を重ね、交わることを知った。
そして…
愛とはそれだけではないと教えてもらった。
優しく…それこそ、
母の愛はこんなのではないかと
思うような愛情を、優しく、
やわらかく伝えられ、
私の心は癒された。
決して得られないと思っていた愛を、
本当の母子の愛ではないけれど、
ぽっかり空いたような心を
別の形の<愛>で
満たされ、癒されることを知ったのだ。
そして私は。
無い物ねだりをやめることができた。
無いものは無いのだ。
無理だったものは、無理なのだ。
今更、自分を捨てた母の愛など
求めてどうするのだ。
そんなことより、今は、
目の前にいる大切な人たちとの
愛情を、大事に育むべきだ。
そして、大切な人たちを守るために
私は、戦う。
この世界にはびこる<闇の魔素>と。
私たちは宿を引き払い、
馬に乗った。
馬車は置いていく。
私はバーナードの馬に乗せてもらった。
武器も準備している。
私も護身用の小さなナイフを持たされた。
王都までは一日ぐらいと言っていたが、
一応、途中で休憩を入れ、
野宿を1回する予定ではいる。
くたくたに疲れた状態で
王都に入っても仕方がないという
判断からだった。
その日はずっと馬を走らせ、
王都まであと少し、というところで
日も暮れ、私たちは街道の傍で
野宿をすることにした。
一応、魔物に警戒しながら来たので
3人とも疲れたと思う。
私と言えば…
確かに馬に乗ってお尻が痛いとか
そういうのはあったけど、
全然、これっぽっちも
疲れてなかった。
申し訳なくなるほど、
ピンピンしている。
焚火の前で、
あまりの自分の元気さに
呆れていたら、バーナードに
「大丈夫か?」って聞かれた。
「全然、へーき」
って言うと、良かった、と
笑って言われる。
頭を撫でられるのが気持ちいい。
エルヴィンとケインは
交代で見張りをしながら
簡易食を食べ、身体を休めている。
バーナードは私だけの護衛として
見張りからは外れているみたい。
「明日はすぐに王都に入る。
王宮に行けば団長たちにも
会えるだろう。
心配はないか?」
と聞かれて、ない、と即答した。
「なんかね。
心配とか不安とか、もう無いの。
ずっと馬に乗ってたのに、
疲れてないし、しんどくもない。
おかしいけど…気分が高揚してるのかな?」
言いながら…そうだけど、
そうじゃない、って思った。
だから、バーナードの腕を引っ張って、
抱っこ、って言ってみる。
バーナードは笑って
私を膝に乗せてくれた。
私はいつものように
バーナードの胸に顔を寄せた。
「あのね、バーナードは安心する」
こうしてると
不安も、焦りも、無くなる。
「ほんとは、ずっと甘えたかったし、
バーナードのそばにいたくて、
この世界のことを見ないように、
考えないようにしてたの」
あの宿で。
ずっとバーナードに甘えたかった。
「でも、本当は。
バーナードも焦ってたでしょ?
私がいつまでも甘えてて…
魔獣はあちこちで発生するし、
王都には行けないし。
本当は、私を連れて
大神殿に早く行きたいと思ってた」
でしょ?
って言ったら、バーナードは
困ったような顔をした。
「でも、バーナードは
何も言わなかった。
私を焦らす仕草もせずに、
ずっと…私のやりたいように
させてくれた。
それが、嬉しかったの」
世界の崩壊を阻止するために、
私を無理やり、王都に。
大神殿に連れていくのではなく、
私が、私の意志で
行こう、と思えるまで、
待っていてくれた。
それが嬉しかったのだ。
私は…世界を救うためだけに
存在する機械じゃないと、
そう思えた。
世界を救うより、
私を大切に思ってくれている人がいるのだと、
そう思えたのだ。
だから…私は、バーナードを。
バーナードを愛する人たちを守るために
戦おうと思った。
私を愛してくれたヴァレリアンたちを
助けるために動こうと思った。
だから、後悔もないし、
怖くもない。
不安もない。
もう、前に進むだけだ。
私の言葉にバーナードは
何も言わず、頭を撫でてくれた。
それだけで、私の心は満たされる。
ああ、この世界にきて良かった。
私は本当に、何度もそう思うのだ。
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