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章間<…if>
8:ホテルでは新婚さん<カーティスSIDE>
しおりを挟む街に着いてもユウは眠っていた。
物凄く頑張って馬を走らせたので、
まだ夕刻にもなっていない。
カーティスは予約をしていた宿に向かった。
馬も疲れているだろうし、休ませてやりたい。
カーティスが予約を入れた宿は、
この街一番の宿だった。
通常貴族は、王都を離れると
自分のタウンハウスか、
付き合いのある他の貴族のタウンハウスに
泊まることがほとんどだ。
だが、例外もある。
旅行の際に、その行程に知人がいなければ
宿に泊まる必要は出てくるし、
貴族であればある程度、
サービスの充実した宿が必要になる。
またそうした宿の中でも、
大きな街では各宿で特色を打ち出した
宿がいくつかあるのだ。
たとえば、小さな子どもがいる家族のために
庭を広く遊具を備えている宿や、
新婚用のサービスが供えられた宿などだ。
新婚用の宿は愛し合う二人のためだけに
用意された部屋があり、
花が咲き乱れる庭は、他者と出会わないように
小さいながらもプライベート空間があるらしい。
もっとも、新婚用とは言っているが、
中には愛人と過ごすために
宿を使う貴族もいるだろう。
そういった意味でも、
機密性が保たれた宿はカーティスに
とってもありがたかった。
カーティスはユウと2人で旅に出ると
決まった瞬間、この宿に予約をいれるよう
侍従に命じた。
誰に気兼ねすることなく
ユウを愛することができと思ったのだ。
カーティスだって、一応は『大聖樹の宮』で
ユウを抱くときは気を遣っていた。
カーティスと同じようにユウを愛する
ヴァレリアンやスタンリーにも
気を遣っていたし、
ドアの外に控えている侍従や護衛にも
気を遣った。
ユウには、声は外に聞こえないから大丈夫だと
何度も言ってはいたが、
それでもすぐそばに誰かがいると
ユウは緊張してしまう。
抱いてしまうと快感に流され
身体がほぐれていくが
ユウが快楽に流されるまでは
常に体を固くし、戸惑うような視線を
向けてくることを、
カーティスは気がついていた。
ユウに、誰にも気を遣わない状況で
カーティスの愛を受け入れて欲しいと思った。
誰の視線も気にせず、
誰のことも気にせずに、ただ二人の存在だけを
互いに感じて抱き合いたい。
街中に入り、カーティスは馬から下りた。
馬の手綱を引き、ユウの身体を抱きなおす。
宿は街一番という評判だけあって
大きな建物だったため、すぐに場所はわかった。
カーティスは宿の使用人に馬を預けた。
宿に入るなり、支配人が挨拶に来て、
そのまま部屋を案内させる。
部屋は最上階の、広い部屋だった。
支配人はカーティスが抱っこしているユウに
一瞬視線を向けたが、何も反応しなかった。
ただ、部屋のカギをテーブルに置くと
「なんなりとお申し付けください」と
頭を下げた。
案内された部屋は『大聖樹の宮』にある
ユウの部屋と同じような大きさだった。
ベットは大きく、ソファーとテーブルは
2人用だった。
カーティスはユウのフードを取り、
身体をベットに横たえる。
ユウが起きる気配がなかったので、
カーティスは部屋を調べた。
続き部屋を覗いてみると、
浴室はあったが、お茶を淹れることができるような
湯を沸かす場所はなさそうだ。
一応、変わったようなことがないかを調べ、
もし襲撃された場合は
どのように動くかを頭の中で考える。
湯殿にはすでに湯が張ってあり、
湯はかけ流しになっているようだった。
いつでも湯に入れるのはありがたい。
カーティスは先に汗を流すことにした。
あとでユウも湯に入れてやろう。
とはいえ、ユウは女神の加護で、
情事が終わった後は自然に体液などの
汚れは浄化されてしまうので、
今のユウに湯殿は必要ないかもしれないが。
最初、情事の後にユウの身体が淡く光り、
情交の跡が消え去るのを見た時は
さすがに驚いたが、今ではすっかり慣れてしまった。
今回は外での情交で
馬が驚いてしまったが、
賢い馬だったおかげで事なきを得た。
訓練のおかげだろう。
それに、と、ふとカーティスは
愛馬のことを考えた。
カーティスの馬は軍馬だった。
強行軍に耐えることができるよう
訓練を受けていたし、大人が2人乗っても
長時間移動することができる。
逆に早掛けを得意とするエルヴィンの馬のように
早く駆けるには不得意だ。
だからこそ、カーティスはあの愛馬で
ユウと2人で旅をすることができたのだが。
愛馬は軍馬だけあり、
忍耐強い馬だった。
ユウの浄化の光に脅えず耐えたのが
そのことを物語っている。
ふと思ったのは、あのユウの甘い匂いだ。
あの匂いに愛馬は耐えたのだろうか。
それとも、何も感じなかったのか。
カーティス自身があの甘い匂いに酔ってしまい
馬のことにまで気が回らなかったが、
馬が発情したら、さすがに気が付くと思う。
そう考えると、ユウのあの匂いは
人間にだけ効く媚薬のようなものだと
考えることができそうだ。
そんなことをつらつらと考えながら
カーティスは汗を流した。
湯殿から出るとベットに眠る
ユウの顔を見るた。
あまりにも無防備に眠っているので
このまま目が覚めないのではないかと心配になったが、
ユウの呼吸は安定していて
ただ眠っているだけのように見えた。
ふとベットサイドを見ると、
水差しと……枕ぐらいの大きさのケースが置いてあった。
好奇心からケースを開け、
カーティスは目を見開いた。
「はは、新婚用の宿ということか」
ケースの中には、どうみても
閨事に使うような道具が並んでいた。
卑猥な形のものもあれば、
媚薬…だろうか。
怪し気な小瓶まではいっている。
ケースの端にカードが入っており、
ケースの中の道具は好きに使用して構わないこと。
また、道具に説明も短いながら書かれている。
こんなもの、ユウと愛し合うのに必要ない。
と思ったが、怪し気な道具を
使ってみたい気もする。
ユウを快楽で追いつめ、
体液でドロドロになる姿を見てみたい……。
「ん……」
ユウから吐息が聞こえ、
カーティスは慌ててケースの蓋を閉じた。
後ろめたい気持ちになり、
ケースをベットサイドの下に隠すように置く。
「ユウ、起きた?」
声をかけると、ユウは眠そうに
目をこすりながらカーティスを見た。
「カーティス?」
「うん、おはよう」
「お…はよ…?」
不思議そうな顔のユウに
カーティスはクスクス笑って、
ユウが身体を起こすのを手伝った。
「街に着いたんだ。
今日はここに泊ろう。
明日は昼ごろまでに出発できたら
大丈夫だから、街を散策しようと
思っているんだ。
ユウの体調が良ければ
今から出かけないか?」
そう言うと、ユウは嬉しそうな顔をした。
「ありがとう、私が眠っちゃったから
カーティスが連れて来てくれたんだね」
正確には情事の激しさにユウが気を失ったのだが
あえてそれは言わない。
ユウはベットから下りると、わぁ、と声を挙げた。
「素敵な部屋!」
すごい、すごい、とユウははしゃいで
ソファーに座って見たり、
湯殿を覗いたりする。
無邪気な子供のようで
カーティスは自然に微笑が漏れた。
「ユウ、満足したら出かけよう。
部屋は夜でも堪能できるからね。
街を散策して、夕飯も外で食べよう。
ユウが食べたい店を探せばいい」
「ほんと!? やった」
ユウは嬉しそうに笑う。
そしてカーティスの手を握った。
「早く行こう」
自然に手を繋ぐユウに、
カーティスは嬉しさが沸き起こる。
ユウに手を引かれ、カーティスは部屋を後にする。
ユウの痴態を楽しむのは夜でいい。
街歩きを楽しむユウは可愛いし、
はしゃぐ姿を見るのは嬉しい。
いい旅になりそうだ。
カーティスは一人、ほくそ笑んだ。
権力など使えるものはフルに使って
ユウとの二人旅を勝ち取って
本当に良かったと。
そんなカーティスの気持ちに
気が付く様子もなく、
ユウはカーティスの腕に無邪気に指を絡め、
早く行こうと、笑顔を見せた。
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