【R18】完結・女なのにBL世界?!「いらない子」が溺愛に堕ちる!

たたら

文字の大きさ
126 / 208
章間<…if>

30:村で生きる人たち

しおりを挟む



 朝日が昇りきった頃、
村に着いた。

村と言っても、
村一帯、焼け野原だった場所だ。


あちこちに焼けた土がまだ残っていて、
その隙間に草が生えている。

朽ちた家や小屋の残骸も残っていたが
人の気配はなかった。

クリスさんは木陰になっている場所の樹に
馬の手綱を括り、
そばにあった井戸から水を汲んでいた。

井戸は枯れていないそうだ。

木陰で馬に水をやり、
クリスさんは水筒にも水を入れた。

私は水筒を受け取り、
素直に水を飲む。

うん。
冷たくて美味しい。

クリスさんも水を飲んでいた。

良かった。
たぶんだけど、休憩中、クリスさんは
あまり水を飲んでいなかった。

水筒の水が無くなるのを
心配していたんだと思う。

クリスさんの様子を見て、
できるだけ私に飲ませようと
しているのだと思えた。

優しい人なのだと思う。

クリスさんは水を飲むと
馬を置いたまま私に付いてくるように言う。

村はすべて朽ちていたが、
村の端にあった教会だけは
綺麗な状態で建っていた。

壁は煤で汚れ、
どうみても焼けているのに、
どこも壊れていない。

クリスさんの話では、
教会の中には何故か誰も入れないし、
何をどうやっても、教会を
壊すこともできないらしい。

教会の扉はもちろん、
壁も、屋根も、どんなに大きな
攻撃魔法で壊そうと試みても、
教会はビクともしなかったそうだ。

女神の加護があると
当初は言われていたようだが、
今では、強固な呪いを掛けられた
『魔の教会』と呼ばれているそうだ。

周囲の村では、
この教会を見るだけで
祟りに合うと言われているらしく、
身を隠すにはもってこいの場所らしい。

クリスさんは、教会まで来ると、
その裏手にある小屋に足を向けた。

屋根と壁はなんとかあるが、
すぐにでも崩れてしまいそうな小屋だ。

クリスさんは乱暴に扉を開けただけで
屋根が落ちそうな扉を開けたが
中には何もなかった。

家具一つさえない。

そんな中、クリスさんは
部屋の端の床を足で叩いた。

リズムを刻むように叩くと、
その場所に、扉が生まれた。

驚いた。

口を開けてぽかーんと
見てしまった。

魔法だと思ったけれど、
そんな魔法など、見たことが無い。

あまりにも間抜けな顔を
していたのだと思う。

クリスさんも私の顔を見て
驚いたような顔をした。

「土魔法を見たことが無いのか?」

「そもそも、魔法を見る機会が無い場所で
生まれ育ちましたので」

教養が無くてスミマセン、と謝っておく。

この世界で当たり前のことも、
私は知らないんだよね。

クリスさんは私の謝罪を
嫌そうな顔をして受けとめた。

なんだ、その不憫な子を見るような目は。

虐待されてたとか、
監禁されてたとか、
そんなことを思ってそうだな、この人は。

だがクリスさんは何も言わず、
床の扉を開け、私に入るように言う。

扉を覗き込むと
そこには階段があった。

数段下りると、
クリスさんが足元を魔法で
照らしてくれる。

そして、もう数段下りたところで、
クリスさんは扉を閉めた。

カビっぽい匂いがする。

でも、降りるしかない。

私はどんどん、階段を下りた。

途中、平らな通路に出たけれど、
また階段になる。

今度は登りだ。

そうして階段を登りきると
また扉があった。

クリスさんが私の前に腕を伸ばし
扉を開けてくれた。

扉が開き、顔を出すと
そこは部屋の用だった。

簡素な部屋だ。

談話室…と言えばいいのだろうか。

いくつかの机とイスが並んでいたが
決して広くはない。

5,6人もこの部屋に入れば
いっぱいになってしまいそうな部屋だ。

クリスさんも私の後から
部屋に入ると、床の扉を閉めた。

「ここは…?」

「教会の中だ」

「え?」

誰も入れない『魔の教会』じゃなかったっけ?

「教会は外からの攻撃には強いが
内部はそうではなかったらしい」

「……なるほど?」

クリスさんは私を促し、
談話室を出た。

あの階段は外と教会を繋げる
唯一の通路らしい。

「入るぞ」

談話室から少し歩いたところで、
クリスさんは一つの扉を叩いた。

中から返事がする。

クリスさんが扉を開けると、
私は……絶句した。

広い…講堂のような場所だった。

いや、教会なのだから、
礼拝堂か。

部屋の真ん中にある筈の椅子は
すべて取り払われていた。

奥には祭壇があったが、
祀ってある…おそらく女神像であろうものは
布が掛けられていた。

窓はステンドグラスで、
太陽の光が入ってきていたが、
鈍い色で、部屋はそんなに明るくはない。

部屋の真ん中には
大きな机と、様々な書類と実験器具…の
ようなものが並んでいる。

その奥に、檻があった。

あの屋敷で見た檻と同じような大きな檻だ。

その中に、男の人がいた。

意識があるのか無いのかは、わからない。

ただ、じっと檻の中でうずくまっている。

「どうだ?」

机のそばにいた人にクリスさんは声を掛けた。

白衣を着た人が2人いた。

どちらも茶色い髪の、
若い…20代ぐらいの男性だった。

「<闇>の魔素を生み出してはいますが、
まだまだ微量ですね。

もっと効率を上げる事ができればいいのですが」

背が高い男性が返事をする。

「そうか。
<闇>の魔素を与えることはできたか?」

「はい。
以前、取り出した<闇>の魔素を
同じ空間に放ってみましたが、
男が生み出す<闇>の魔素と
うまくなじまなかったようで、
すぐに空中に四散してしまいました」

背の低い男性が言う。

どうやら研究は上手くいっていないらしい。

良かった。

「それで、この子は?」

「新しい実験材料だ」

材料って言いましたよ、この人。

「こんな子どもが?」

「そうだ。
なにせ、女神の愛し子様だからな。
良い<闇>を生み出してくれるだろう」

研究員の二人は、クリスさんの言葉に固まった。
さすがに女神の愛し子のうわさは
知っているようだ。

「め、女神の愛しい子?
本物ですか?」

「本物か偽物かはわからんが、
第三王子と一緒に行動していた。
少なくとも王宮は本物と認定しているのだろう」

うまい!
座布団1枚!

って言いたくなった。

クリスさんは私を偽物だと思ってるから
本物とは言いたくない。

でも、カーティスと一緒に居たから
世間的には本物と認識されている存在だと、
さっきの言葉は自分の気持ちと、
世間の話を上手く表現していた。

こんな風に自分の気持ちを
上手に言えたら、私も人間関係が
もっとうまくできただろうか。

「何を笑っている?」

クリスさんが私を見た。

「いえ、別に」

ただ、クリスさんは人間関係を
上手に作りそうだな、と思っただけです。
なんて言えないよね。

クリスさんはそれ以上は深追いせず、
研究員に私を紹介した。

「とにかく、
女神の愛し子様だ」

「ユウです」

こんにちは。
よろしくお願いします、って
一応、言っておいた。

一応、研究の被験者だから
よろしくって言ったけど、
変だったのかな?

クリスさんがおかしな顔をした。

研究員の2人も挨拶をしてくれた。

背が高い男性が、フォルト。
背が低い男性が、トラル。

仲が良さそうな感じだった。

クリスさんは二人に
私に対して<闇>の魔素を与えるように言うが、
二人は、困ったような顔をした。

「こんな子どもに…」
フォルトさんが呟くように言う。

「だが、女神の愛し子だ。
上手くいけばかなりの成果だろう」

クリスさんが言うが、今度は
トラルさんが悲しそうな顔をした。

「もしこの子が
女神の愛し子でなかったら…
何も知らない子どもを
<闇>で侵すことになりませんか?」

クリスさんは、言葉に詰まる。

「だが、成果も出ない研究を
いつまでも続けることはできない」

とクリスさんが言った時、
私の…申し訳ないけど、
私のお腹が鳴ってしまった。

くーっと鳴ったお腹の音に、
大人3人の視線が私に集中した。

「ご、ごめんなさい」

頭を下げる。
が、クリスさんは仕方がない、と
会話を切り上げた。

「この子どもをどうするかは
今は議論しなくてもいいだろう。

夜通し馬を走らせてきたのだ。

休憩も必要だろうし、
昼食にしよう」

フォルトさんもトラルさんも賛成し、
私は二人に食堂に連れていかれた。

やった!
お昼ごはんだーっ。

私は嬉しくなって
うきうきで、食堂の席に座ってしまった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』

バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。  そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。   最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

処理中です...