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子ども時代を愉しんで
5:王子様は親戚です
俺はうとうとしながら
兄の声を聞いていた。
兄の声はなかなかに良い声だと思う。
妹もこの兄、レックスの声は
良いといつも言っていた。
イケメン兄弟か。
成長したら女子たちに
きっとモテるだろう。
それなのにわざわざ、
BLに付き合う義理はないよな?
兄は公爵家を継ぐのだから
結婚は必須だろうが
俺は違う。
今から一人で生きていけるように
何ができるか考えよう。
それにこの世界には
魔法があったはずだ。
どれぐらい世界に普及しているのかは
わからないが、ゲームの名が
確か「愛と魔法のパズルゲーム」
だったように思う。
愛と魔法というぐらいだから
魔法はある筈だ。
もし俺にも魔法が使えるのなら
仕事には困らない気がする。
いや、世界全ての人間が
魔法が使えるのなら
希少価値は無いかもしれないが、
それでも無いよりは
あった方が良いだろう。
このまま記憶が戻らないことを
前提として、これから
色々学んでいこう。
この世界のことも
知らなければ動くこともできない。
俺はいつの間にか眠ってしまったようで
次に目を覚ました時は
翌日の昼頃だった。
リタが俺の世話を甲斐甲斐しく
焼いてくれて、食事の介助や
着替えなども手伝ってくれた。
父や母は忙しいようだったが、
仕事の合間に俺の部屋に
顔を出してくれたし、
兄は学校に出かけたようだが
夕方になったら
制服のまま俺の顔を見に来てくれた。
俺は動くのも難しそうなので
食事は部屋で食べたが、
食事の後も両親や兄が
代わる代わる現れて
色んな話をしていく。
大事に思って貰えていることが
実感できて、
俺は自然と体の力を抜いた。
昨日から無意識のうちに
緊張していたようで、
夜に包帯を巻き直してもらった時、
リタに
「表情がおだやかになられましたね」
と言われて、
そのことに気が付いたのだ。
俺はリタにお礼を言ってから、
明日からは起きている時は
本を読みたいと言ってみた。
リタは頷き、
翌日から様々な本を持って来てくれた。
さすがに10歳なので
難しい本は無かったが、
絵本のようなものから
子供向けの社会や理科のような本。
図鑑やそれから魔法の本もあった。
俺が何を読むかわからなかったから
手当たり次第に持って来たのだろう。
俺はリタに礼を言い、
その本を1冊づつ、すべて読むことにした。
集中すると頭痛がするので
そんなに早くは読めなかったし、
薬を飲んだ後はすぐに眠くなる。
それでも怪我が治るまで
俺はずっと本を読み続けた。
イクスの記憶が戻ることはなかったが
この世界のことはだいぶ理解できたと思う。
そして本を読んでいく中で、
俺は自分がなかなか良い能力を
持っていることに気が付いた。
本に書かれた文字は
よくわからない英語みたいな
綴りが並んでいるが、
俺はそれを見ただけで
頭の中で日本語に訳して
読むことができるのだ。
自動翻訳機が頭の中にあるような感じで
最初は気持ち悪かったが、
慣れると物凄く便利だと
思うようになった。
リタが間違えて持って来た
他国の本も、俺には読めた。
俺は挿絵が綺麗だから
そのまま見ると言って
リタにその本を部屋に
置いて置いてもらったが、
見た目はこの国の言葉と違うのに
いざ読もうと思うと、
目を通した瞬間、
日本語として脳に入ってくる。
俺、成長したら
通訳として働けるのではないだろうか。
なら、他国のことも
もっと知っておくべきだよな。
近隣諸国の都市の名前や
文化や特産物とか。
知識はあって困るものではないし、
傷が完治するまでは
どうせ俺は部屋の外には出れないのだ。
よし、やるぞ。
俺は重たい本を持たせて
申しわけないがリタに
何度も本を持って来てもらった。
「もう、読まれたのですか?」
とリタは目を丸くするが、
「ごめんね、別の本が読みたくて」と
俺が言うと、リタはわかりました、と
素直にうなずいてくれる。
きっと「この本は趣味じゃなかったんだわ」
ぐらいに思っているのだろう。
次に持ってくる本は
また別のジャンルになっているので
それはそれでありがたかった。
傷は足が一番ひどくて、
腫れてパンパンになっていたのだが、
ようやく腫れが引いてきたころ、
兄と一緒に王子様たちが部屋にやってきた。
王子様たちは俺の記憶が無いことを
すでに知っているらしく、
丁寧に名を名乗ってくれた。
第一王子がカミル・フリード。
第二王子がクルト・フリード。
どちらも金色の髪だったが、
俺や兄と同じ碧い瞳をしていた。
まぁ、親戚だから同じでも
おかしくはない。
「ごめんね。
あの後、すぐにお見舞いに
来たかったのだけど、
なかなか城を出る許可が下りなくて」
カミルが言うとクルトも
「あいつが、
あんな真似をするから」
と憤ったように言う。
「もう大丈夫か?」
クルトの声に、俺は頷く。
「足の腫れも引いてきたので
もう、歩く練習をしてるんですよ」
ベットに寝たままだと
筋肉が衰えてしまう。
だから俺はベットの上でも
できるだけ身体を動かそうと努力していた。
傷が治った場所から
徐々に動かしていて、
足も痛みが落ち着いた頃から
立ったり、数歩だが歩く練習もしていた。
この調子なら
数か月後の俺の誕生日には
すっかり全快しているだろうし、
さらに先の学校の入学式にも間に合うだろう。
俺がそう言うと、
王子様たちは少しだけ悲しそうな顔をした。
いや、俺、間に合うって言ってるんだけど?
と首を傾げると、
兄が王子様二人を見た。
「お二人はイクスとは初対面です。
そのような顔はやめてください」
という。
どういうことかと聞くと、
俺は王子様たちとかなり親しい間柄で
言葉遣いはもっと砕けていたし、
なんなら、幼い頃は
取っ組み合いのけんかをしていたぐらいらしい。
それが急に改まった言葉で
話をするので、戸惑い、
悲しくなったらしい。
そう言われてもな。
実に兄にさえ、俺はなかなか
打ち解けれずにいるのだ。
もう少し待って欲しい。
だって俺、28歳のサラリーマンだったんだぞ?
10歳の子ども相手に、
しかも心の垣根も年齢の垣根も無く
接するなんて、無理としか思えない。
そのうち慣れたら。
そう、俺が自分のことを
イクスだと納得して
この体に慣れたら、
また違うと思うから。
もう少し待っててくれ。
と俺が思っていたら、
「今回の件でね、
責任を取ってイクスを
王家で娶る話もでてるんだけど」
なんてクルトが言う。
俺が目を丸くすると、
カミルが
「記憶が無いなら
笑い飛ばすこともできないな」
と肩をすくめた。
もしかして冗談だったんだろうか。
どこまで本気かわからないので
俺は曖昧に笑って
話を流すことにした。
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