【完結】「誰よりも尊い」と拝まれたオレ、恋の奴隷になりました?

たたら

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子ども時代を愉しんで

25:友達との初外出

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 俺は微妙な空気を払拭すべく
別の話題を持ち出した。

「そうだ。
僕ね、この前ヴィー兄様と
貴族街を散策したんだ。
色んな店があって
すっごく楽しかったよ」

俺がお菓子を沢山
買って貰ったんだと言うと
二人はようやく笑顔を見せた。

「そういえば、
貴族街に新しい
クッキー専門のお店が出来たと
兄が言ってました」

ミゲルの言葉に俺は飛びつく。

「クッキーのお店?」

この世界ではお菓子屋はあるが、
専門店というものは珍しい。

それにクッキーやマフィンのような
焼き菓子は、お菓子屋というより
パン屋で売られている。

なのにわざわざ、
クッキーの専門店だなんて
どれほど美味しいのか。

行きたい。
食べたい。
見てみたい。

俺の目が輝いたことに
気が付いたのだろう。

二人は俺を見て
口々に言う。

「興味はあるが、
イクスが行くのは無理だと思うぞ」

「僕もイクスがお店に
行くのは無理だと思います」

「なんで?」

俺が聞くと、
ヴァルターとミゲルは
顔を見合わせる。

「だってさ、なぁ」

「えぇ。お許しがでないかと」

なるほど。
前世の時みたいに、
行きたいと思っても
すぐに行くのは無理ということか。

「わかった。
じゃあ、父様にお願いしてみる。
許可が下りたら、
二人も一緒に行こう!」

俺が二人を誘うと
ヴァルターは「いや、許可は
公爵殿ではなくて……」
とブツブツ言いい、

ミゲルは「公爵様が許可を
出すのであれば良い?」
と小声て呟いている。

そんな時だ。

執事が俺たちの前に
すっと出てきて、
丁寧にお辞儀をした。

「ご歓談中のところ
申し訳ございません。

イクス様、
旦那様がお見えでございます」

え?
父が?

あれだな。
俺がタウンハウスを使って
初めて友だちと遊ぶから
様子を見に来たんだな。

俺の家族は俺に対しては
物凄く過保護だから
ありえない話ではない。

執事の言葉に
ヴァルターとミゲルも
姿勢を伸ばした。

途端、すぐに父が庭に
姿を現した。

「やぁ、いらっしゃい」

にこやかに父は言う。

二人は緊張した様子で
ぎこちなく挨拶をする。

「父様、お仕事は?」

俺のためにサボったのかと
疑ったのだが、父はこの後、
王宮に呼ばれているので
一休みするために
タウンハウスに寄ったのだと言う。

父は王宮で宰相補佐として働いている。

以前は、宰相の地位を
与えられていたらしいのだが、
俺が生まれたころ、
仕事が忙しくて子どもに会えないと
宰相職を辞めようとしたらしい。

陛下がそれを宰相補佐と
言う形でなんとか引き留めた。

つまり、面倒な役職は
他の者にやらすので、
力は貸せ、ということだ。

だが実際は、現宰相というのは
かつての父の部下だったらしく、
実質、今でも宰相は父だと
王宮では言われているらしい。

ヴィンセントからこの話を
聞いたときは、なんというか……。

父が優秀だとか、
辞めるのを惜しまれる人材だとか
そういうことではなくて。

滅茶苦茶、わがまま、と思った。

30歳にもなって、
なにやってんだよ、って。
仕事舐めんな、って思った。

もちろん、それぐらい
家族のことを愛してくれてるのだろうけど。

それは嬉しいが、
やはり仕事はきちんとすべきだ。

なので俺は父が俺のために
仕事をおろそかにするのは
できるだけ阻止しようと心に誓っている。

「父様は、すごい人だから
陛下も頼りにしてるんですね」

そんなわけで、わざと俺が
父を褒めるように言うと、
父は嬉しそうな顔をする。

「そうだな。
イクスの父様は凄いからな」

うん。
鼻高々だな。
その調子で、
しっかり仕事を務めてくれ。

だがせっかく父に会えたのだ。
俺は仕事のヤル気を
ださせるだけではなく
父におねだりすることにした。

「そんな凄い父様に
お願いがあるのです」

俺は上機嫌の父に
すり寄るように言う。

「貴族街に新しいクッキーの
お店ができたらしいのです。
友だちと行ってきてもいいですか?」

「おい、このタイミングで言うか?」

と小さな声が聞こえてきたが、無視だ。

「ちゃんと護衛も付けますし、
クッキー屋さん以外には
立ち寄らずにまっすぐに帰ります」

笑顔だった父は、
少しだけ顔をしかめた。

無理か?
子どもだけではやっぱりダメか?

「きっと、とってもおいしい
クッキーだと思うんです。
父様にも母様にも、
食べさせてあげたい」

両手を組んで拝むように言うと
父の表情が少し緩んだ。

「いや、だがしかし。
ヴィンセント君も今はいないだろう?」

やはりヴィンセントは俺の
護衛兼兄のポジションなんだな。

父よ、ヴィンセントのことを
いいように使ってないか? 

「あの、公爵様」

ミゲルが小さく声を挙げた。

「もしよろしければ、
僕の兄を連れて行くのはどうでしょうか。

僕の兄はヴィンセントさんの
先輩になりますし、
魔法の腕前も良い評価を受けて言います」

ミゲルの提案に父はふむ、と
考えるような仕草をする。

「確か、クライス殿のところの
長男は高等部ではSクラスだったな」

え?
そうだったの?
すごいじゃんか。

そうか。
なんで騎士科のヴィンセントと
魔法科のリカルドが先輩後輩の
仲なのかと思っていたけれど。

おなじSクラスだったんだな。

「兄は今日はタウンハウスで
ゆっくりすると言っていましたし、
声を掛ければ一緒に来てくれると思います」

ミゲルの言葉に、父は頷き、
執事に何やら目くばせをする。

「ミゲル、いいの?
リカルドさんの都合も聞かずに
勝手に言って」

俺が思わず小声でミゲルに言うが、
ミゲルは大丈夫、という。

「兄は魔法の研究をするのが好きなんです。

だからテストの日は
誰よりも早く帰宅して
自室にこもってると思います」

いや、それって駄目なんじゃ……?

「Sクラスを目指したのも
授業を受けずに
魔法の研究をする時間が
増えるから、と。

とはいえ、公爵家からの
要請があれば、
受けないわけにはいきませんし、
兄にとっても良い気分転換になります」

それって強制的に
休憩を取らせるってことか?

なんかすごいな、クライス家。
それとも魔法に特化した家系ってのは
こういうもんなのだろうか。

何にせよ、思いがけずに
街に出れることになった。

これは純粋に喜ぶとこだ。

よし。
友だちと初めての街歩きだ!
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