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魔法と魔術と婚約者
32:進級しました
しおりを挟む俺が転生したこの世界では、
王侯貴族と平民がいる
身分制度がある世界だ。
貴族とはもちろん、
領土を持ち、財力や権力もある。
だが、特権階級である理由は
それだけではなかった。
貴族は種類やその量は
違えども、魔力を持って
生まれてくるのだ。
もちろん、
魔力を持っているだけでは
魔法は使えない。
訓練をしなければ
発動できないし、
思い通りの魔法も使えない。
だからこそ、
貴族に生まれた子供は
学校に通うことが義務づけられている。
いわゆる前世で言うところの
義務教育範囲内の勉強であれば
家庭教師に教わることもできるが
魔法だけは無理だからだ。
貴族の子どもは10歳を迎えると
全員、学校に通い始める。
最初は初等部に入り、
2年間、基礎を学んだ後
中等部に進級する。
中等部も2年間だ。
そして15歳になる頃には
高等部に進級して、
2年間は専門分野を
学ぶことが義務になる。
この国ではだいたい、
15歳までに社交界デビューになり
16歳で成人として認められる。
つまり、高等部を卒業と同時に
成人として認められることになるのだ。
高等部を卒業したら、
爵位を持った長男は家督を継ぐための
勉強を自領で始める。
次男以降は、騎士団や魔術師団に
入団するための試験を受けたり、
文官になるために王宮試験を受けたりする。
ただ、お金がある
高位貴族の息子は
さらに条件良く騎士団、
魔術師団に入団するため、
もしくは
高位官僚になるために
学園に残ってあと数年は
学ぶことができる。
魔法専攻、騎士専攻というやつだ。
普通科卒業であれば
前世で言う予備校のような
高級官僚になるための
専攻に行くのが通常なのだが
それ以外にも、
学校の先生たちに師事するという形で
歴史学、領地経営学など、
さまざまな分野で学校に残ることも可能だ。
もっともこの場合は、
先生の助手みたいな形になるので
2年で卒業、というような形にはならない。
2年で卒業しても構わないし、
居残っても構わない。
ただし、給与は出ないから
よほど裕福な貴族でなければ
実質的には無理だとは思う。
ただ、今までの王子殿下たちも
卒業後は専攻に残って
帝王学や経済学、経営学などを
学んできたらしい。
教える教師さえいれば、
学校として『○○専攻』という
学科が無くても、
何とかなる感じなので、
そういったゆるいところは
前世にはなかった感覚だ。
俺はできれば、
ずっと学校に残って
魔術を研究したいとは思うが
学校に魔法科はあっても
魔術科はないので
きっと無理だろう。
なにせ教えてくれる教師がいない。
この世界では、
すでに滅んだ国や古語、
古代の歴史は価値無しと
思われているのだが、
それを研究する重要性に早く気が付いて欲しいと思う。
……まぁ、俺が研究したいだけとも言うが。
俺は12歳になり中等部に進級した。
兄は高等部に。
俺と兄は3歳差なので、
兄は来年、成人することになる。
ヴィンセントは本来であれば
16歳で卒業だったのだが、
騎士科を専攻することになった。
専攻は学校の広い敷地内に
校舎はあるが、
初等部、中等部、高等部とは
少し離れた場所に
専用の棟があった。
どれぐらい離れているかと言うと、
休み時間に行き来するのが
難しいぐらいだ。
そんなわけで俺は
学校でヴィンセントと会う機会が
ほぼ無くなったと言ってもいい。
まぁ、兄は相変わらず
俺の顔を見に来てくれているが。
兄はおそらく、
学校を卒業したら
そのまま第一王子殿下の
側近となり、王宮に勤めるか、
殿下が専攻に進むのであれば
それに合わせて同じところに
進むのだろう。
ちなみに殿下も兄も
普通科に進んでいるが、
Sクラスで通常の授業は
あまり受けていないようだ。
王族やその側近にもなれば
色々学ぶこともあるのだろう。
俺はできの悪い弟で
一向にかまわないのだが、
兄を見ていて、
俺もSクラスに入りたいと
思うようになった。
何故かと言うと、
自由度が高いのだ。
まず授業の制限がない。
学びたいことを学べる……のかは
よくわからないが、
他の生徒と同じ授業を
受けなくても構わないみたいだし、
休みたい放題、とは言えないが
最低限の授業だけは受けて、
テストの点数さえ良ければ
好きなように時間を使って良いらしいのだ。
俺にとっては
夢のようなクラスだと思う。
なんたって俺には、
やりたいことがあるのだ。
じつは進路を考えた時、
一度、父に相談をしてみた。
兄が公爵家を継いだ後、
サポートできるように
スキルを身に付けた方が良いのか、
それとも王宮に仕える道を
目指した方が良いのか、と。
王宮に仕えて、
さらに魔法を扱うのであれば
魔法師団への所属を
目指した方が良いのだろうが。
戦いに不向きな俺が
魔力だけで魔法師団
を目指せるのか、
また、どう考えても
実際に魔法師団に入団したら
お荷物になると予想されるのに
そんな俺が入団するのは
公爵家として大丈夫なのかと言う思いもあった。
公爵家の次男である俺には
何が許され、
何を課せられているのかを
明確にしておきたかったのだ。
魔法に関して言えば、
俺には戦う力はあまり無いが、
魔力量はかなりある。
俺の属性に関しては
いまだに神殿からは
何も言ってきてはいないので
水と風の2属性持ちということに
なっているのだが、
その2つの属性魔法も
そこそこ使えるようになった。
この力を公爵家に
貢献する義務があるのであれば
もちろん、拒否するつもりはない。
だが俺の問いに、
父は目を丸くして。
そして俺の髪をくしゃっと撫でた。
「イクスはイクスの好きなこと、
やりたいことをすればいいんだよ」
その言葉は嬉しかったが
その言葉をそのまま鵜呑みにはできない。
「でも、食べていくには
仕事をしなければなりません」
「そうだね。
でも、幸いイクスは
この公爵家の、可愛い私の息子だ。
何が何でもお金を稼がなければ
ならない程、貧窮しているわけではない。
レックスも可愛い弟に
サポートされたら喜ぶだろうが、
イクスが望まないのであれば
無理にする必要はない」
優しく言われて、
俺は何も言えなくなる。
前世の記憶が戻ってから
心配ばかりかけてる自覚はあるし、
最初はお金持ちの家に生まれたと
喜んだが、
だからと言って
一生、遊んでくらせばいい、
なんて俺は思えない。
前世でも俺は企業戦士だったし、
ぶっちゃけ、仕事が好きだった。
自分が頑張れば、
仕事の成果だって上がった。
同僚たち全員で頑張って
大きな契約を取った年のボーナスが
ほんの数千円上がっただけで
俺たちは大喜びをして
祝杯を挙げた。
そう言うのが好きだったんだ。
きっと、同僚や職場の人間関係に
恵まれていたのだろう。
俺はあの世界とは
別の世界に生まれ変わったが、
できれば同じように仕事がしたい。
そう思うことは、
逆にこの世界では贅沢なことなのだろうか。
父は俺の迷いを理解しているかのように
俺の髪を撫でる。
「焦らなくてもいい。
イクスはどこか大人びた考えを
することがあるが、
まだ君は私の可愛い子どもだ。
何がしたいのかはこれから
学校で学び、経験を増やしながら
考えればいいことだ。
急いで大人にならず、
まだまだ私の息子でいておくれ」
そう言って笑った父は、
まるで俺の秘密を知っているかのように思えた。
俺が前世持ちで、
誰にも内緒で魔術のことを
こっそり調べていることも。
俺は頭の中ではサラリーマンで、
子どもっぽく両親に甘えるのは
どこか気恥ずかしくて。
素直に甘えることはできなかったし、
全然、素直な良い子ではなかったと思う。
でも、ゆっくりと俺の頭を撫でる父を
俺は見上げて、俺は、あぁ、と
息をついた。
この人は、俺の父親なんだ。
そう、腑に落ちた。
イクスの父親ではなく、
俺の、父親なんだ。
前世の父の記憶はもうあまり
残っていないけれど。
心配そうな瞳で俺を見る姿が、
前世の父と重なって見えた。
心配されている。
愛されている。
親として愛してくれているのだ。
今更、だ。
前世の記憶がもどり、
2年以上も経って、
やっと理解したのかと
言われるかもしれない。
でも、俺はこの公爵家の中で
自分がどこか異質な存在だと思っていた。
イクスは公爵家の次男だけれど、
俺は違う、そんな感覚があった。
でも俺も。
俺もこの人の息子で、
公爵家の人たちの家族なのだ。
俺は父に手を伸ばした。
「イクス?」
名を呼ばれたけれど、
俺は返事もせずに父に抱きつく。
前世の記憶が戻ってからは
こんなこと、したことがない。
父は驚いたようだったが
優しく俺の背に手を回して受け止めてくれる。
「父様、ありがとうございます」
言いたいことはたくさんあったけれど、
出てきたのは感謝の言葉だった。
でもこれを境に、
俺は自分なりに家族と向き合うようになった。
そして俺は、自分のやりたいことのために
魔法科に進むことに決めたのだ。
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