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魔法と魔術と婚約者
71:ジュとの再会
しおりを挟む翌日、俺はゆっくりと
それこそ昼まで眠ってから
目を覚ました。
目を覚ますと部屋には一人だった。
ヴィンセントはどこに行ったのだろう。
ずっとそばに居るって言ったのに。
なんて口を尖らせたくなったが
子供ではないのでやめておく。
眠って元気になった俺は、
弱くて甘える子どもではないのだ。
俺はベットから下りて
そばにあった窓を開けた。
窓を開けると、
心地よい空気が頬を撫でる。
ずっと乾いた空気だった辺境伯領だが
風はほどよい涼しさを感じて
心地よい。
窓から見下ろした景色も、
随分と綺麗になった。
それは掃除をして綺麗というのではなく
色どりが豊かになったと言う意味で。
だって庭や、遠くに見える生垣や、
道に並んで立っていた街路樹だって
俺がこの場所に来た時は
すべて枯れかかった色をしていた。
どこを見ても、
茶色い色ばかりで
俺は心配になったものだ。
だが今は違う。
どこを見ても青々した緑があり、
空だって心地よいほど澄んでいる。
あの息苦しい空気はもう、ない。
にゃ。
とジュの声が聞こえた気がして
俺は振り返る。
すると、小さな……
またリスぐらいの、
小さな手乗りサイズになったジュが
俺のベットの上にいた。
「ジュ」
俺は急いでベットに戻り、
小さな体を両手で抱き上げた。
「無事だったんだ、良かった」
俺が目線を合わせるようにして
ジュの身体を俺の顔あたりまで
持ち上げてやると、
ジュは俺に甘えるように
頬に顔を摺り寄せてくる。
「……可愛い。
ジュ、お前、もうあの精霊の樹を
守る役目は終わったんだろ?
もう次代に引き継げたもんな。
じゃあ、俺と一緒に
公爵家に来るか?」
俺が聞くと、ジュは
肯定のように、にゃん!と鳴く。
「それにしてもジュは
妹が作ったのか……
しかし、なんで名前がジュ?
樹木の樹から取ったのか?
でも、妹が考えた時は
精霊の樹の守役では無かったはずだし」
考えてもわからないことだが、
ちょっとだけ気になった。
「まぁ、いいか。
ジュ。
良かったら俺が名前を新しく
付けてもいいけど……
このままジュって呼んでいいか?」
ジュは、にゃ、と返事をする。
本人が……いや、本猫?
本精霊? が良いのなら、まぁいいか。
俺はジュをベットに下ろして
とにかく着替えることにする。
寝ているうちに汗も掻いたようで
正直、汗臭い。
俺は着ているシャツを脱ぐ。
本来であれば
侍女を呼ぶのだろうが、
ここは他人の屋敷だし、
俺は侍女を連れてきていない。
いつもはヴィンセントが
手伝ってくれるのだが、
そのヴィンセントもいないのだから
一人で勝手に着替えても構わないだろう。
俺はベットにシャツを脱ぎ捨て
ついでにズボンも脱いだ。
汗で太ももあたりが
べっとりと濡れていたからだ。
ついでに下着も脱ぐ。
だって汗で気持ち悪いし。
にゃ、とジュが鳴いだ。
「なんだ?
ちょっと待って」
俺は脱いだ服をすべてベットに置くと
周囲を見回した。
俺が公爵家から持って来た鞄を
探してみたのだが
どこにも見当たらない。
困った。
いや、前世でも
ホテルで連泊するときは
ホテルの家具に着替えを
保管したりしていた。
ということは、
この部屋のクローゼットに
俺の着替えが……
俺はクローゼットを開けた。
が。
服はない。
というか、何も入っていない。
じゃあ、どこだ?
俺は首を傾げる。
クローゼット以外で
服を置く場所……といえば、
風呂場!
この部屋は客間だし、
高位貴族の屋敷では
客間に風呂は標準装備だ。
つまり、俺の服は風呂場にある!
と、意気揚々と
俺は風呂場らしい部屋に
向かって歩き出したのだが。
突然空いた扉に、
驚いて足を止めてしまう。
え?
今、ノックあった?
とビックリしたが
扉を開けたのはヴィンセントだった。
俺が眠っていると思って
ノックをしなかったのか。
「ヴィー兄様、おはよう」
何故か扉を開いたまま
固まっていたヴィンセントは
俺の声に我に返ったようだ。
素早く後ろ手で扉を閉め、
大股で俺の前まで歩いて来る。
「イクス?
なんで裸なんだ?」
「着替えを探してるんだよ」
「着替え?」
「汗をかいたから」
「……何故下着を履いていない?」
「汗で気持ち悪かったから」
何故そんなに顔をしかめている?
いや、耳が赤い……?
ヴィンセントは持っていたタオルを
俺に押し付けるように渡した。
ほんのり温かく、濡れている。
これで俺の身体を
拭いてくれるつもりだったのかもしれない。
「着替えだな、待っていろ」
ヴィンセントはそれだけ言うと、
早足で扉の外へと出ていく。
なんだ。
この部屋に俺の服は無かったのか。
俺は素直にタオルで体を拭く。
本当は風呂に入りたいのだが
今は無理だろう。
手渡されたタオルは2枚あったから
1枚は体を拭き、もう一枚で
顔を拭いた。
ふー、さっぱりした。
と俺が一息つくと、
ジュが俺の肩に乗ってくる。
白い翼を畳むと、
ふさふさの毛で羽が隠れて
小さなただの猫に見える。
まぁ、サイズが小さすぎだが。
ジュは俺の頬に体ごと
すりすりとすり寄ってくる。
「ほんと可愛いなぁ。
そういやジュは、何を食べるんだ?
俺と一緒にご飯食べるか?
それとも、俺の魔法で作った水がいいのかな。
あの時は精霊の樹のために
水を飲んだだけなのか?」
俺が沢山聞きすぎたからか、
ジュは何も答えずに首を傾げた。
うん。すまん。
もっと短く、わかりやすく、だな。
「じゃあさ。
ジュはお腹空いてないか?」
俺が聞くと、ジュは何故か
シャーっと威嚇の声を出す。
なんで?
と思ったら、
軽くノックがして
ヴィンセントが部屋に入って来た。
なるほど。
君たちは敵対してたな、そういえば。
俺は気難しい顔でジュをにらみつけるヴィンセントと
俺の肩で威嚇するジュを交互に見て
思わずため息をついてしまう。
いや、そんなことより……。
「ヴィー兄様、僕の服、あった?」
俺はいつまでも裸でいるつもりはないぞ。
このままでは、
食事どころか水を貰いに
食堂に行くこともできない。
俺の声にヴィンセントは
焦ったように扉を閉め、
まるでジュのことなど
気が付いていないかのように
俺に持っていた服見せた。
なるほど。
ジュのことは無視なのか。
だがジュは……めちゃくちゃ
威嚇している。
ヴィンセントが着替えを
手伝うために俺の手を取ると、
ジュは、シャっとその手を
前足で叩いた。
爪が出てなかったから
本気ではなかったのかもしれないが、
ヴィンセントは指先で
ジュの鼻先をピン、とはじく。
するとジュは牙を出して唸った。
いやいや、二人とも
何故そんなに仲が悪い?
落ち着け。
そしてまずは俺に下着を渡してくれ。
俺は全裸なんだぞ?
と思ったが。
それ以降、一人と一匹の
大人気ない攻防は続き、
俺がパンツをはいたのは
それから30分ぐらい経ってからのことだった。
勘弁しろよ、まったく。
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