126 / 214
溺愛と結婚と
126:離婚の危機!?
しおりを挟む俺はヴィンセントに
ぎゅっとしがみついていたが
大きな胸に耳を当てていると、
ヴィンセントの心臓の音が聞こえて
また無性に恥ずかしくなった。
そこでヴィンセントから
腕を伸ばして離れるが、
今度は長い指で
優しく髪を撫でられる。
「意識されるのは嬉しいが、
離れて行かれるのは困るな」
あうぅ。
甘い声で言われて
俺はぐうの音もでない。
ヴィンセントってこんなに
甘い顔で俺を見てたっけ?
俺はどんどん焦って来たが
そこにノックの音がした。
ヴィンセントがすっと俺から離れ
俺の手を引き、ソファーに座る。
俺が返事をすると
リタがお茶を持って入って来た。
俺はヴィンセントの
隣に座っていたのだが、
リタは俺のカップを
ヴィンセントの前に置く。
「イクス様、もう夕刻ですし、
密室に二人っきりとなると
旦那様が気にされます。
くれぐれもご注意を」
リタは俺に言っている筈なのに
ヴィンセントを見ながら
そう言うと、頭を下げて
部屋から出ていく。
何故俺を見ない?
と思ったら、
ヴィンセントが口元を押さえて
笑っていた。
「ヴィー兄様?」
「いや、パットレイ公爵家の
侍女は優秀だ」
そう言ってヴィンセントは
また俺の頭を撫でる。
俺は大人しく撫でられていたが、
そうだ、と立ち上がって
ヴィンセントの前に座った。
俺、ヴィンセントに話があったんだ。
今なら言えそうだし、
顔をちゃんと見て話したい。
「イクス?」
「あのね、ヴィー兄様。
僕、ヴィー兄様に
話したいことがあったんだ」
俺が真面目な顔をしたからか
ヴィンセントはわかったと、
俺を見つめた。
「あのね」
「あぁ」
「将来は離婚してもいい?」
ヴィンセントの目が見開かれ
驚愕の顔になる。
「あ、違っ、
そうじゃなくて」
しまった。
言い方が悪かった。
いや違う。
言う順番が悪かった。
「そうじゃない、そうじゃなくて」
俺が立ち上がって
ぶんぶん手を振ると
ヴィンセントは顔の頬を緩めた。
そして、ふぅ、と息を吐く。
「イクスに驚かされるのは
今に始まったことではないな。
それで?
なんでそういう結論になったのか
聞いてもいいか?」
「うん、僕ね。
ヴィー兄様のこと、大好きなんだ」
それは大前提。
だから、それは一番最初に
きちんと伝えておく。
そして俺は、自分が考えていた
将来のこととか、
不安とかをヴィンセントに打ち明けた。
俺は学校を卒業したら
魔法や魔術を研究したいし、
ハーディマン侯爵家の嫁はできそうにない。
領地運営とか考えたこともないし
社交界も苦手だから
人脈を作るとかもできそうにない。
俺の母はあんなに可愛くて
可憐なのに、何故か社交界を牛耳ってる?
とかそんな噂がある。
陛下でさえ、母には逆らえないと
苦笑しながら冗談交じりに言うぐらいだ。
そんな母を俺は凄いと思うが
真似できるとは思えない。
今回の結婚がレオナルドの罰ゲームの
話のせいできまったのなら、
レオナルドの留学が終わったら
離婚してもいいんじゃないかと
俺は思ったんだ。
俺が一生懸命説明すると
ヴィンセントは何度も頷きながら
俺の話を聞いてくれた。
そして話終わると、
「おいで」って優しく言われる。
俺はその言葉を拒否できなくて
素直に立ち上がってヴィンセントの
横に座ろうと思ったら、
腰を掴まれて、ヴィンセントの
膝の上に下ろされた。
背中から、ぎゅう、と抱きしめられる。
「ハーディマン侯爵家のことを
考えてくれたんだな。
ありがとう」
いやちがう。
俺は自分が魔法を研究したいから
結婚したくないだけで……
俺はそんな優しい人間じゃない。
俺が嫁になったせいで
ハーディマン侯爵家の評判が下がるとか
不出来な嫁だと迷惑がかかるとか
そんなことも思ったけれど。
でも俺は自分勝手だから、
逃げようとしてるんだ。
ハーディマン侯爵家の嫁という
重圧とか、責任から。
好きなことを研究して
好きな時だけ、ヴィンセントと
会えればいいって、
そんな調子のいいことを考えてたんだ。
それって物凄くヴィンセントに失礼だ。
ヴィンセントはこんなに俺のこと、
大切に大事に思ってくれてるのに。
俺が何を言っても
こうやって受け止めて、
抱きしめてくれるのに。
ヴィンセントが俺の背中越しに
優しい声を出す。
「大丈夫、泣かなくていい」
俺は目から零れ落ちた涙を手で拭った。
「思ってることを
言ってくれて嬉しいよ」
卑怯だ。
俺が、こうやって泣いて
赦してもらおうと思ってる俺が。
俺はこうやって甘えたら
ヴィンセントが許してくれることを
ちゃんとわかってる。
でも、そんな俺を、
俺が許せそうにない。
そんな俺のことまで
分かってるとでも言うように、
ヴィンセントは俺の身体を持ち上げて
互いに顔をあわせることができるように
俺を自分の膝に座らせた。
こんなぐしゃぐしゃん顔、
見られたくなかったのに、
ヴィンセントはコツン、と
俺のおでこに、額を当てた。
「大丈夫だ」
ゆっくりと、確認するように
ヴィンセントは言う。
「俺がずっと一緒に居るから、
心配するようなことはない。
大丈夫」
そんなこと言われたら
また涙があふれてきた。
ヴィンセントはそのまま俺を抱き込む。
「いきなりだったからな。
婚約したと思ったら
あっという間に結婚して。
急激な変化に不安になったんだな」
優しく髪を撫でられる。
「何も心配しなくてもいい。
イクスはやりたいことをやればいいんだ」
「ハーディマン侯爵家の、よ、嫁は?」
ぐしぐし涙をぬぐいながら聞くと
ヴィンセントはそうだな、と
少し考えるような素振りをする。
「当分は俺の両親は元気だろうし、
問題はないだろう。
そもそも俺の父だって
騎士団を率いていて
領地にはあまり帰ってないんだ。
俺の母は領地にいるが、
当然だがサポートしている者もいる。
イクスができなことは、
誰か別の者に頼めばいい。
イクスがずっと王都で
研究したいというのなら
それでもいいし、
王都では魔術を研究する
専門機関はないからな。
何ならタウンハウスか
領地の屋敷にイクス専用の
研究所を作っても構わない」
優しい言葉に俺は
うえぇ、と声を漏らしてしまった。
「ヴィー兄様、優しすぎ。
僕を甘やかしすぎ」
大きな胸に顔を押し付けて言うと、
ヴィンセントはそんなことない、と笑う。
「俺はイクスを手放さないために
必死なんだ。
だから……
どんな願いでも叶えてやるから
離婚するなんてもう言うなよ」
あったい胸に抱き込まれて
俺は、うん、と頷く。
やっぱり大好きだ。
恥ずかしいしドキドキするし、
わけわかんなくなることもあるけど。
でも、こうしていると
安心して嬉しくなって、
幸せな気分になる。
これが「愛してる」ってことなんだと思う。
前世も含めて、
俺が知らなかった感情だ。
だから教えてくれたヴィンセントに
感謝してるし、伝えたい。
「ヴィー兄様」
俺は顔を上げてヴィンセントを見上げる。
ヴィンセントの甘い瞳が俺を見下ろしした。
「僕ね、ヴィー兄様のこと
アイシテル」
ってちょっと体を伸ばしたら
俺の唇がヴィンセントの口元に
ちょん、と触れて。
俺はものすごく恥ずかしくなって
慌ててヴィンセントの胸に
しがみついたのだけれど。
何故かそこからヴィンセントは
固まったように動かなくなってしまった。
……なんでだ?!
332
あなたにおすすめの小説
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード
中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。
目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。
しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。
転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。
だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。
そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。
弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。
そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。
颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。
「お前といると、楽だ」
次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。
「お前、俺から逃げるな」
颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。
転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。
これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。
続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』
かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、
転生した高校時代を経て、無事に大学生になった――
恋人である藤崎颯斗と共に。
だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。
「付き合ってるけど、誰にも言っていない」
その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。
モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、
そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。
甘えたくても甘えられない――
そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。
過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの
じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。
今度こそ、言葉にする。
「好きだよ」って、ちゃんと。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません
くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、
ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。
だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。
今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。
「役立たず」と追放された神官を拾ったのは、不眠に悩む最強の騎士団長。彼の唯一の癒やし手になった俺は、その重すぎる独占欲に溺愛される
水凪しおん
BL
聖なる力を持たず、「穢れを祓う」ことしかできない神官ルカ。治癒の奇跡も起こせない彼は、聖域から「役立たず」の烙印を押され、無一文で追放されてしまう。
絶望の淵で倒れていた彼を拾ったのは、「氷の鬼神」と恐れられる最強の竜騎士団長、エヴァン・ライオネルだった。
長年の不眠と悪夢に苦しむエヴァンは、ルカの側にいるだけで不思議な安らぎを得られることに気づく。
「お前は今日から俺専用の癒やし手だ。異論は認めん」
有無を言わさず騎士団に連れ去られたルカの、無能と蔑まれた力。それは、戦場で瘴気に蝕まれる騎士たちにとって、そして孤独な鬼神の心を救う唯一の光となる奇跡だった。
追放された役立たず神官が、最強騎士団長の独占欲と溺愛に包まれ、かけがえのない居場所を見つける異世界BLファンタジー!
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる