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溺愛と結婚と
139:大人の子ども
しおりを挟む俺はヴィンセントの膝の上で
ごろごろしていたが、
ふと、この状況は良くないのでは?
と思い至った。
いつもしていたことだが、
それは幼馴染としてだ。
結婚して伴侶になった今、
こういうことをしていいのか?
いや、恋人同士なら良いかもしれない。
だが、恋人?
俺とヴィンセントが?
いや、恋人とどこか
伴侶なんだぞ。
伴侶!
やばい。
顔が熱くなる。
というか、俺、
ヴィンセントと距離が
近づすぎないか?
ヴィンセントとの適切な距離が
わからなくなってきた。
俺は、あわあわしてしまったが、
その後、ノックの音がして
侍女たちがワゴンを押して
部屋に入って来た。
昼食を運んできてくれたらしい。
もうそんな時間か。
食べた後の食器は
部屋の外に出しておいて欲しいと
侍女に言われて、俺は心よく頷いた。
昼食はボリューム感満載だ。
パンケーキにサラダに
サンドイッチとスープ。
果物まである。
俺たちはありがたくいただくことにして
俺は改めてヴィンセントと話をした。
俺たちが新婚なことは後回しだ。
俺は改めて自分の考えを
ヴィンセントに話す。
食べながらだったし、
自分の考えをまとめながらだから
うまくは話せなかったが、
ヴィンセントは頷き、
疑問があればその都度聞いてくれた。
「なるほど。
イクスはこの王都の地下にある
空洞の穴をすべて何かで埋めたいんだな」
「うん。簡単じゃないのはわかってるんだ」
水のような物質であれば、
地下の空洞に流し込めばいいだけだ。
だが土や岩のようなものは
そう簡単にはいかない。
流し込むこともできないし、
土地を真っ二つに切るわけにもいかない。
どこにどんな形の穴が
空いているのかもわからない。
強引にたとえば泥水のような
もので埋めたとしても、
その水が渇くまでどれだけ
時間がかかるかわからないし、
地下が固まらなければ、
地盤沈下が起こる可能性はそのままだ。
「僕がもっとちゃんと
魔法を使えたら良かったんだけど」
無駄に魔力はあるし、
スキルだってあるのに。
その活かし方がわからないのだ。
俺はのろのろとパンケーキをかじる。
あの写真立てを作った時の
不思議な物質。
あれを使えないだろうか。
粘着があって粘土みたいだったし。
でも、あれをどうやって
地下にある空洞に埋め込むんだ、って
話になるよな。
そもそもあの物質が
大量にあるかどうかもわからないし。
俺がもぐもぐ口を動かしていると
ヴィンセントが手を伸ばして
俺の頭を撫でて来た。
ヴィンセントとは
食事をしているから
向かい合わせに座っていたが
俺が考え込んだので
心配してくれたようだ。
俺、こういうヴィンセントの
優しさも好きなんだ。
「ヴィー兄様」
「ん?」
「好きー」
はっ。
また口から出てしまった。
俺は大人なのに、
何故か口が軽い。
腹芸とか、うわべだけの会話とか
どうやったらできるのだろうか。
俺も前世でやってたはずなのに
今は無理だ。
口から勝手に言葉が飛び出すのだから
なんともタチが悪い。
俺は言うつもりはなかったと
そっとヴィンセントを見ると
ヴィンセントは嬉しそうな顔で
俺の頭をまた撫でた。
「俺もだ」
って。
いつも聞いてた言葉なのに、
いつもと違って聞こえた。
アイシテル、って言ったからかな。
アイシテルって言われたからかも。
なんか無性に恥ずかしくなる。
ちら、って上目使いでヴィンセントを
見ると、優しい顔があって、
俺はパンケーキにかぶりついた。
なんか、気まずい。
が。
ドンドンドン!と
驚くほど大きな扉を叩く音が聞こえた。
ヴィンセントが立ち上がり
俺を庇うように扉の前に立つ。
俺は驚きすぎて
パンケーキをかじったまま
固まってしまった。
ヴィンセントが返事をすると
「俺だ!オーリーだ!」という声がする。
そしてヴィンセントが返事をした途端、
勢いよく扉が開いて、俺はまた固まった。
「お、昼飯中か。
いいな、俺もいただこう」
誰も何も言ってないのに
オーリーはテーブルまで大股で来て
テーブルの上のサンドイッチを
手掴み下かと思うと
ばくっと大きな口でかじった。
俺はパンケーキを
フォークに挿したまま
身動きも取れなかった。
え? 何この人。
貴族とは思えないというか
マナーとか知らない系の人?
驚きすぎて目を見開いていると
「大きな目だなー。
よしよし」と俺の頭を撫でようとする。
それを慌てた様子で
ヴィンセントが俺の身体を持ち上げ
阻止してくれた。
「ははは、過保護だな」
そんなヴィンセントの行動を
咎めることなく
オーリーは俺が座っていた場所に
腰を下ろすと、うん、美味い。
等と言いつつ、またサンドイッチに手を伸ばす。
ヴィンセントは俺を抱き上げたまま
ソファーに座った。
オーリーが座るように
視線で示したからだ。
有無を言わさない仕草に
魔法師団長の地位は伊達ではないと
言うことだけはわかる。
ヴィンセントはソファーに座り、
俺はヴィンセントの膝に座った。
妙な構図だが、
ヴィンセントが俺を離さなかったのだ。
オーリーはそんなヴィンセントを
からかうように笑った。
そして自ら予備のカップに
お茶を淹れてちゃっかりランチを食べる。
「あの」
俺は呆然としていたが、
オーリーが4つめのサンドイッチを
食べ終わったタイミングで
声をかけた。
「なにかあったのですか?」
階級的にはヴィンセントは
オーリーよりは下になる。
爵位……はわからないけれど、
俺は公爵家の子息だから
俺から声をかけても
問題ないかも、と思ったのだ。
「あぁ、そうだ!」
オーリーはお茶を飲み、
俺を見た。
「良い方法を思いついた。
ためさせてくれ」
それは地下の空洞の場所を知る
良い方法ということだろうか。
俺は期待に満ちた瞳で
オーリーを見つめてしまった。
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